中国に住み、働く日本人はそれなりに多いものの、中国本土には資本移動規制があるため、国際送金や資産運用で思うようにいかないと感じる人は少なくない。中国本土在住者・駐在員が行うべき資産運用について解説してみる。

可能な限り人民元以外で資産保有

居住地が中国本土であったとしても人民元以外の通貨については資本移動制約がないので、可能な限り人民元以外で資産保有をするのが吉である、というのは言うまでもない。

もし現地給与と本国給与で通貨が分かれ、かつ支給割合が選べるのであればやはり人民元の割合は少ない方がいいかもしれない。日本円だと、銀行にそのまま置いておくだけ、となりそうではあるが、少なくとも後述するようなオフショア(海外)での使い道は模索できる。

オンショア人民元の使い道 

生活を中国本土でする以上、一定以上の人民元は手元にないといけないし、仮に現地給与の割合も選べないのであれば、人民元が余ると言う現象は起きる。中国本土内で流通する人民元をオンショア人民元と呼ぶ。

中国本土内でオンショア人民元を使って資産を増やすということはもちろん可能ではある。何なら銀行預金金利は日本よりもずっと高い。それ以外にも海外からはややアクセスしづらい中国本土の企業の株式など、投資機会には独特のものがあるとは言える。

さすがに利回りが高いからといって、理財商品に手を出す人は日本人では多くないとは思うが、昨今は中国本土内でも外資による金融サービスの提供範囲が広がっているので、これまでよりも選択肢は多いかもしれない。

ただ、問題はオンショア人民元でどんなに資産が増えても、外に持ち出すことができない以上、いずれ中国本土を離れる人にとっては根本的な解決になっていない、とは言える。

オフショアでの投資

中国本土の在住者にとって、いわゆるオフショアでの投資には2通りがあり、一つは香港、もう一つは海外である。それぞれどのような手法なのか見てみよう。

香港でのオフショア投資

香港は一国二制度のもと、特別行政区として成り立っているため、中国本土との間でも厳然たる“壁”がある。そのことは中国本土の住民が香港へ来るときにはビザが必要になる事実からも分かる。

一方で、香港は世界に通じる国際金融市場として成長したため、中国本土の住民にとってもできることなら資産運用の場として香港を利用したいと考えるむきはこれまでもあった。

最も典型的だったのは香港への渡航を通じた香港保険の購入である。

中国本土住民に対する保険の販売は、香港にとって驚くほどの一大産業であり、新型コロナの流行で中国本土と香港の間での渡航が困難になったことで、保険の販売統計には9割以上の減少が記録された事実にも如実に現れている。いわゆる“fly to buy”ビジネスの衰退である。

金融商品にはカタチがないといえど、結局のところは宝飾品のようにインバウンドビジネスとして成立してきた面があるのだ。

渡航が困難な現在でも、一部には購入可能な保険も存在するが、少なくとも中国人民にとっては不要不急のものではあり、どちらかというと外国人の方がこの情勢でも人民元以外を使って購入している印象である。

保険以外では証券投資なども香港をベースに行う例はある。実際、香港での証券口座はオンラインで開設が可能になっており、これも人民元以外を取り扱えるのであれば利用に問題がない。

ただし、米国上場のオンライン証券会社であるFutuやUP Fintechなどは中国本土顧客へのサービスがより厳しい規制にさらされる話が出てきているので今後の情勢は注視したい。

中国当局は本土の投資家を保護するという名目のもと、本土の規制にかからない海外の業者については厳しい姿勢が継続すると考えていいからだ。金融関連の中国による規制はやや目が離せない。

海外でのオフショア投資

香港も中国本土にとってはオフショアではあるが、よりオフショアという意味では当然ながら、シンガポールやスイス、ロンドンなどの国際金融センターへアクセスして投資をする層は一定数いる。

ただし、その場合は海外で稼いだお金をそのまま海外に置いておく、といった意味合いの方が強いかもしれない。

一度本土内に還流してしまうと、残念ながら再び外に出てくるにはやはりハードルが高い。ハナから本土に突っ込む足と、海外に突っ込む足を分けている人の方が多いとはいえよう。外ー外の金融取引の方がスムーズであるのは確かだ。

モノに換えて保有するという選択肢

人民元がダメならばモノに換えればよいという発想は常にある。

例えば、中国の富裕層は近年はビットコインを購入してそれを本土外で換金していたが、これも見越して中国本土では仮想通貨の取引が禁止され、業者への厳しい取り締まりが行われた。

現状は、ワインやウィスキーのようなモノに換えて保有できるのであれば、投資としての道はある。中国本土内で購入したものを一定期間保有して、海外で換金するという人もいる。

海外の不動産を、となるとそもそも人民元を外貨に換えなければならないというハードルは変わらない。

最大の難関はいかにして人民元資金を外に出すか

中国本土に住んでいても、外貨だったら動かしやすい、そして人民元だったら動かしにくい、この事実はどう転んでも変わらない。できるだけ外貨で保有した上で、どうしても必要な人民元資金について最後の出口を探すことになる。

人民元資金を動かすタイミングはコツコツか、正当な理由で一回切り、のどちらかである。

資本移動規制があるとはいえ、例えば本国への帰任など正当な理由と証明があれば銀行が対応してくれることはあるようだ。ただ、いつもいつも通用するわけではない。そのあたりの判断は銀行に一任されているようだ。中国として資本移動にどのくらい神経を張り詰めているかもそのタイミングによって異なる。

① 香港の銀行口座に移す

コツコツ動かす上でこれまで多かったのは、香港に銀行口座を開設し、少しずつ外貨に換えていくという方法だろうか。銀行間以外にも、香港へ観光ないし出張するタイミングで持ち出し上限分を現金に換え、香港の銀行に預けて帰っていく、ということはできた。

一部広東省の住民であれば渡航なしで香港の銀行口座を開設した人もいるようだが、多くの人は依然として香港に渡航する必要がある。このあたりは大湾区構想などの影響が出ているのかもしれない。

② 日本のATMで引き出す

中国本土の銀行カードの中でも外国のATMで現金を下ろせるものもある。ただし、この場合は当然引き出せる金額は資本移動規制の範囲内だとも言われ、多額の預金を残してしまったケースでは限界がある。(納税証明書を出せば制限を課さないという対応になることもあるにはあるようだ。)

また、登録してあったパスポートの有効期限が切れると銀行口座自体が凍結になってしまうこともあるし、何かあれば現地の銀行窓口まで行かなければならないかもしれない。いずれにしても長期で維持できる解決策とは言えない。

香港の銀行カードの中にも外国のATMで現金を下ろせるものがあるので、①と組み合わせる人も多いようだ。

まとめ

中国は経済大国とはなっているが、通貨に関して言えばやはり資本の移動の自由がない。

人民元の信頼性は高まっていく方向にはあるのかもしれないが、依然として新興国にいるときにいるような対応を余儀なくされている面はあるだろう。これから中国で働こうと思う人の場合、まずは中国にいる期間のお金のマネジメントについて学ぶ必要はある、とは言えそうだ。

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