退職金というのは、あなたがこれまで働いてきたことに対する見返りであり、そしてこれから先働かなくなる人のための生活の糧になるものである。
金額が多いか少ないかは人によって千差万別ではあるが、一時金として支給された場合、その使い道について悩まねばならなくなる。一体どのような使い方をするのが適切なのであろうか。
一時的に手元の資金が増えると、使わねばならない、という衝動に駆られることはあるが、退職した時点で、今後は働いて稼ぐことがないか、あるいは働くにしても以前に比べれば頻度を下げる、という人の方が多いだろう。気をつけて欲しいのは、収入が下がったときの感じ方である。
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老後は資産を食い潰すステージなのか
現役時代はしっかり働いて貯蓄を築き、そして老後にそれを使いながら生活する、というのは基本的な考え方ではある。一方で、貯蓄が増えていく姿を見るのは心地よく感じる人が多いのに対して、貯蓄が減っていく姿を見るのは不安に感じる人もいる。自分で稼いだお金なのだから、死ぬまでに使い切りたい、という思いとは裏腹ではなかろうか。
そこで、収入が少なくなったことを理由に、支出を少なくしようと考えるのは一見すると素直な考え方ではあるが、ポイントは、老後の支出を少なくするのは現役時代より実は難しい、というところである。食費のように節約すればいいというものではなく、医療費や介護費用など、やむなく、そして突発的に発生するものの方が多いからである。一度発生し始めたら増え続けるものも多いかもしれない。現役時代はちょっと使いすぎても後から取り戻すことができたが、老後はそうはいかない。
ただでさえ使いたいことが増える老後
退職金を上手く使う必要があるのは、そもそも老後はお金を使いたいと思うことが増えるからでもある。生活資金はもちろんのこと、自宅をバリアフリーにしたり、そもそも住む場所を変えたり、あるいは家族の出産や結婚などに惜しみなくお金を出したいタイミングでもある。
退職金はそもそも十分な金額を受け取ることができただろうか。
これからの時代において退職金をあてにした人生設計は難しいかもしれないが、それでも少なからずの金額を受け取る人はいる。まとまったお金を受け取る、という意味ではこれまでで一番大きなお金だと感じる人もいると思う。
同時にこれまでで一番大きな買い物を借金もせずにできるタイミングでもあるかもしれない。つまり、生活に与えるインパクトがより大きい。無駄遣いはせず、有効に活用したいところである。
退職金でやってはいけないこと
退職金は運用に回して増やした方がよい、と考える人は少なくないし、そういう触れ込みが多いのも事実ではある。ただ、とりあえず現金が増えたので何かに投資をしようと考えるのは間違いである、と言っておきたい。というのも、運用について考える前にやるべきことがある、からである。
退職というのは非常に大きなライフイベントである、とまずは認識する必要がある。ライフイベントというのはこれまでの生活がその日を境に一変する可能性がある出来事を指す。現役時代であれば、結婚だったり出産だったりするわけだが、それは嬉しいことであると同時に、困難をもたらすものであったのを覚えているだろうか。
退職も同じである。これまで働いてきた自分をねぎらうことは大事だが、その先はまた違った人生に突入する、という感覚を持つ必要がある。もちろん楽観的になってはいけないわけではないが、どのように生活が変わるのかをイメージできているだろうか。
退職金を運用に回す前にやっておくべきことは、今後の自分にとってお金が足りている状態になっているのか、をまずはチェックすることである。現金がある、ということに安心をしていると、老後はみるみる貯蓄が減っていくことに後になって気付くかもしれない。そうでなくても、お金が足りているのか足りていないのか分からないと、人はお金を使うことにも躊躇してしまうものである。
今後のプランニングをする
ライフイベントにおいて大切なことは、変化について事前にプランニングをすることである。
今までやってきたことがそのまま通用しないことを知っておく必要がある。投資におけるリスクの取り方もそうかもしれないし、贅沢の度合いもそうかもしれない、健康に対してかけるべき費用もそうかもしれない。これから先どう変わっていくのかをイメージすることで、実際変わったときへの対処がしやすくなる。
プランニングにおいて大事なことはいかに使わないかを考えることではない。退職金を何も考えずに貯金に回すと言う人は少なからずいる。これまで運用したことがないから今更取り組むべきではない、あるいはこれから先支出が増えるから、とにかく手元のお金があった方が安心だ、と答えることはある。
間違いではないが、もっと長い目で見てどういう有効な使い方ができるのか、を考える方が建設的であって、結果的にもっと今の自分に使っても構わないことを知ることができるかもしれない。あるいは、やや壊滅的な未来を直視することになるかもしれないが、それでも時間をかければ対処できる類のものかもしれない。
退職をすれば少しは時間の余裕ができる。だから、誰か話を聞いてもらいながらしっかりと考える、とという時間も取れるはずである。一人で考えてしまうと情報が足りなかったり、間違っていたりするものである。考えたことをしっかり記録として残しておくことは、後で軌道修正しようと思った時に役に立つし、何より忘れてしまっても思い出すことができる。同じことを何度も考えるのも避けることができる。リタイヤメントはプランニングの役割が増すと言っていいだろう。