2025年9月17日に、香港における施政方針演説が行われました。今の香港は一体どのようなことに取り組んでいるのか、その変化をおさらいしてみたいと思います。

施政方針演説とは

そもそも施政方針演説とは何か、ですが、香港では、行政長官が立法府に対して、年次演説を行うことが、ミニ憲法である香港基本法で義務付けられています。今の香港政府が何に重点を置いて行政を執行しているか、を理解するにはとても重要です。また、どのようなことに新しく取り組む意向があるかも理解できます。2025年の施政方針演説の中から、注目すべき箇所をピックアップしてみます。

The Chief Executive’s 2025 Policy Address

ローカル人材の雇用機会確保

昨年の施政方針では、海外人材の確保を掲げていました。実際トップタレントビザなど、とりわけ専門職で人材不足が顕著な分野を補う目的があります。このことは変わっていませんが、逆にローカル人材の雇用を奪っていないこと、を今回は掲げています。もともと外国人に就労ビザを出す際には、まずはローカル人材の採用機会を持つこと、というのは昔から基礎としてはあります。ただそれほど厳しいわけでもないと受け止められています。

施政方針で明確に述べられているのは、ウェイターや若手コックに関しては、ローカル採用に6週間をかけること、そして労働局が主催するジョブフェアに週1回は出席すること、ローカル比率を鑑みることが課せられます。今後は他業種においても厳格化が行われるかもしれませんね。

一国二制度の堅持

一時期に比べれば議論はそれほどありませんが、現時点では50年の国際的な約束からシームレスにそのまま移行することが第一に志向されていると言えます。それは香港の意向であり、中央政府の意向でもあります。香港は世界で最も自由な経済と評価され、そして、ビジネスフレンドリーな土地として世界への影響力があるとされます。中国という大国の後ろ盾がありながら、独自の法体系に基づくことで、国際都市の地位をより強固にしていく余地があると考えられているのです。

金取引の中央清算システム構築

香港は今金取引の中心地になろうとしています。物理的には、香港国際空港の近くにある金の保管スペースを3年で2,000トン以上拡充することです。もともと中国人は金が好き、とも言われますし、税金のない香港では金商売は盛んです。ただ、金取引にも色々あって、特に金融取引としての金、を香港に集積させ、その発展として中央清算システム(Central Clearing System)を構築したい、ということのようです。この点は、上海黄金交易所との相互アクセスも含めた連携が見込まれています。

保険業界の反応

施政方針演説に対する歓迎のコメントとして、香港保険監督庁のプレスリリースによると、

キャプティブや再保険分野における香港の競争優位性を高めるために取り組んできた。船舶リスクに備えること、そして、香港居民が大湾区を活かし、医療や高齢者ケアにアクセスすることが提案されている。

とのことです。

ここに関しては真新しい内容はなく、現状課題の再整理です。損害保険のリスクマネジメント強化と、シルバー世代への対処として保険が担うべき役割の確認です。

ただ、あまり詳細はありませんでしたが、この段階で「低空経済(Low-altitude Economy)」というワードは登場しており、ドローンなどによる活動をサポートすることが保険分野にも求められていることが分かります。

Insurance Authority welcomes various initiatives announced in the 2025 Policy Address

証券業界の反応

施政方針演説に対する歓迎のコメントとして、香港証券先物委員会のプレスリリースによると、

株式市場の上場規則の強化と、REITのストックコネクトへの採用、それからデジタルアセット商品の拡充とプロ投資家への提供の可能性が模索されている。

だそうです。

デジタルアセットに関しては、2025年6月26日にPolicy Statement 2.0という形で先に詳細が述べられています。

Policy Statement 2.0 on the Development of Digital Assets in Hong Kong

一方で、債券や通貨に関しては、債券発行市場の拡大、レポ市場、債券先物市場の創設などが掲げられています。この分野をFICと呼んでまとめていることにも注目したいですね。

SFC welcomes Chief Executive’s initiatives to reinforce Hong Kong as top financial centre

この点に関しては、2025年9月25日にSFCとHKMAが共同で発表したロードマップに多くの詳細があります。

まずは、企業が債券を通じて資金調達をする際に香港が選ばれるための施策を強化すること、そして相対取引、中央清算取引のいずれもが広がっていくための施策を打つことです。そしてオフショア人民元の拡大や、次世代に向けたインフラ更新を行い、デジタルトークン化商品の処理能力を高めることである、とされています。

Roadmap for the Development of Fixed Income and Currency Markets

まとめ

なんとなく、証券分野は株式とデジタル資産、債券と通貨、この2つに大きくワーキンググループが大別されそうな感じだと言えそうでしょうか。香港は国際金融センターとして今後も大きく躍進していくことが予想されています。過去の栄華に酔いしれないところがその強さの源泉なのかもしれませんね。

本稿では金融分野を主に取り上げましたが、施政方針演説には様々な業界への言及がありますので、時間があったら目を通してみてはいかがでしょうか。

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