老後の生活を始めると、社会からの距離が遠くなる人も少なくない。若い頃には働くことが何よりの社会貢献だったかもしれないが、亡くなった後にも社会に対してできることについて少しだけ話をしてみよう。

遺贈寄付は残った資産から捻出する

遺贈寄付というのは、相続財産の一部を「亡くなった後」に寄付することであって、老後の大切な資金を削ってまで行う必要はない。このことは意外と知られていない。

寄付なんていう高尚なことは自分には関係がないと言う人もひょっとしたらいるかもしれないが、人生を十分に楽しんだ上で、なお使わなかったお金を社会のために役立てたいという場合に有効である。

遺贈寄付の金額的なハードルは実は低い

実際、寄付という行為を一部の資産家だけができることだと思っている人は多い。また、単に情報が少なく、実際は何をしたらいいのか分からない、という場合もある。

一般的に、人は資産が残るのであれば、可能な限り相続人にと考えているが、遺贈寄付自体は10万円といった金額からできることであり、これが金額的にハードルの高いものであるとは考えづらい。

相続資産が10万円減ることに目くじらを立てる相続人はいないだろうし、むしろ、相続というある種の機械的なプロセスにおいて、自分らしさを後世に伝えることにも繋がる。

相続人同士の輪の中に、遺贈寄付という第三者が加わることで、心理的な緩衝材になるような気もしないではない。故人の遺志について相続人が真摯に向き合うことは非常に重要である。

遺贈寄付先の見つけ方

遺贈寄付を受け付けているところとそうでないところは当然ある。なので、事前に遺贈寄付を受けてくれるかどうかは確認しておくべきだし、実際そうする必要がある。

生前にできることとしてはこうした遺贈寄付先を探すことであり、それは老後になって残すことのできる自分らしさの足跡でもあると言える。

皆目見当もつかないという人は遺贈寄付を常に受け付けている先を訪ね、他の人がどのようにしたか聞いてみるところから始めてもいいかもしれない。

遺贈寄付先の選び方

残った資産の使い途であってもできればきちんとしたところに渡したいと考えるのは普通だ。一方で初めから支持する団体や組織、活動がある人というのは多くない。

遺贈寄付先がどのような社会的な課題を認識し、具体的に取り組んでいるか、資金の用途、活動報告が公表され、透明性を保っているか、などを検討することから始まる。

このことは投資活動とよく似ていて、資金の出し手がこうした条件について真剣に考えることが結果として、その遺贈寄付先の活動を牽制し、より良いものに誘導する。

遺言書と手続き

遺贈寄付と遺言書は切っても切り離せない。なぜなら、亡くなった後のお金の取り扱いだからだ。

遺言執行者と呼ばれる専門家を指定し、相続人の遺留分にも配慮をした上で、正式に遺言書に記すことになる。

当然ながら通知がなければ遺贈寄付先は逝去のことを知り得ないので、誰か信頼できる人と打ち合わせしておくことも必要かもしれない。そうすると遺言書をもとに正式な手続きが開始され、晴れて遺贈寄付が完了することになる。

また、遺言書という形でなくともよい。相続人として遺産を受け取る人が、故人の意思を汲み取って、遺贈寄付するということも可能であり、その場合にも社会貢献に繋げることはできよう。

もしこの部分をより詳細にスキーム化するのであれば、信託という形で財産を移転し、管理運用した上で、遺贈寄付する、というのも一つの手ではある。

遺贈寄付する資産は理論上は何でも構わないが、実務的には現金である方が望ましい。不動産や株式などを遺贈寄付する場合、受け入れ先がその管理を適切にできない場合もあるし、分割できないものであった場合には相続人との間でトラブルになることもある。

また、現金以外の資産は含み益があれば課税の対象となり、税金が相続人に課せられる可能性だってある。

誰のための遺贈寄付か

遺贈寄付をする上で、社会のためにという壮大な目標を掲げる必要はないかもしれない。むしろ自分が生きた証として何かを遺すという名目だって何ら問題はない。つまり、自分のためであっても何ら構わない。

遺贈寄付先には遺贈寄付した方の名簿が残るだろうし、銘板などに刻印することでそれを記録することもできる。こうした物理的なものとは別にこれからの時代にはデジタルな銘板だって登場するかもしれない。そうした次の時代への繋がりのためでも構わないだろう。

自分のためにお金を使って、それでも残っていたら行う、自分のためのちょっとした仕掛け、と考えたら随分と楽しくなるのではないだろうか。

老後の取り組みのお手伝い

ファイナンシャルプランナーとしての私の役割の一つは、老後の資金について、適切に管理、運用することで、お客様の老後の生活を支えることではあるが、同時にその資産の使い途についてもアドバイスができればよいと考える。

おひとりさまやご夫婦のみ世帯の場合、法定相続人がいなくて国庫に寄贈されるか、あるいは疎遠な親類しかいない場合に、自分の意思で使い途を決めておきたい、という悩みにも遺贈寄付は一つの回答を与えてくれると思う。

例えば今回話した遺贈寄付もそうだし、あるいは美術品のコレクションなど、適切なところに繋げたいがどう考えたらいいか、どうやってその相手を探したらいいか、など悩む際の相談窓口としてもお役に立てることはあるかもしれない。

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