近年、FIRE(Financial Independence, Retire Early)という言葉が流行しています。働かなくても生きていける状態をFIREの達成とするわけですが、その中でも知っておくべき、トリニティスタディとは、資産を減らすことなく維持できる引き出し率についての研究です。老後は資産の取り崩しフェーズとも言えますが、取り崩さずに使える水準はどれくらいなのでしょう。

ファイナンシャルプランナーを務める私が、お客様からいただいた相談に出てきた、

「トリニティスタディの4%ルールについてどう思うか」

という質問に対して考察してみます。

資産を取り崩すフェーズ=出口戦略

多くの投資家にとって、資産運用を長期的に続け、資産を増やすことに積極的であったとしても、死なない人はいない以上、増えた資産を使わなければ、本人にとってはあまり価値が意味がありません。もちろん後世のために、という方もいますが、それも本来は残ったときの話でいいのかもしれません。

つまり、

資産をどのように取り崩すのが最適か

という疑問が付き纏います。

たくさん取り崩せば資産が減っていき、いずれは枯渇しますし、それを恐れて少しだけ引き出していては生活水準を落とすことにも繋がりかねません。資産を維持するという観点から境目になる水準はどのくらいなのか。

その質問に応えるべく、しばしば取り上げられるのが、トリニティスタディのようです。

トリニティスタディの4%ルールとは?

トリニティスタディ(Trinity Study)とは、株式および債券という伝統的資産の組み合わせによるポートフォリオに対して、引き出し率の検証を行い、過去に基づき持続可能な引き出し率(historically sustainable withdrawal rates)を算出した研究のことを指します。

研究のタイトルは、

Retirement Savings : Choosing a Withdrawal Rate That is Sustainable

で、1998年にテキサスのトリニティ大学教授3人によって発表され、その名で広まったようです。

引用:Philip L. Cooley, Carl M. Hubbard and Daniel T. Walz  1998, ‘Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable’ , AAII Journal February 1998

過去のデータに基づいている以上、将来的にも上手くいく可能性が高いとも言えそうだというのが、トリニティスタディがよく引き合いに出される理由でもあります。

あらかじめ要約すると、

資産運用の出口戦略として「4%ルール」を採用するのが持続的な最適解

であるという答えです。

資産運用を続けても、毎年4%の引き出しであれば、資産そのものを目減りさせずに半永久的に維持できる、というわけですね。

逆に4%で生活を維持していくためには、毎年の生活費の25倍に相当する金額を資産として築く必要がある、という計算になります。毎年400万円で生活しているのならば、目指すべき資産は1億円です。

トリニティスタディの内容

トリニティスタディの特徴は、直近のデータだけでなく、過去長期間にわたって検証を行なっていることです。

具体的には、1926年〜1995年で世界恐慌や第二次世界大戦を含む時期、1946年〜1995年で第二次世界大戦後の時期を含む時期、また1926年〜1995年でインフレやデフレを考慮して調整したものです。つまり対象期間は70年にのぼります。このことは投資の成果が良好であろう、好景気のタイミングだけでなく、投資家を悩ませる不況のタイミングも考慮していることを意味しています。

また、投資ポートフォリオについては、株式が50〜75%程度にすれば、引き出し率4%を維持すれば8割近い確率で成功するというデータになります。つまり、4%ルールを維持するためには株式への投資は50%以上必要という結論になるわけですね。逆に引き出し率を3.5%など下げれば成功確率は上がります。

ファイナンシャルプランナーとしての考察

私が普段お客様と話すのも老後の引き出し率の話ですが、概ね感覚と近いものがあります。ただ、それが私個人の意見ではなく、一つの研究レポートとして存在するのはなお有り難いです。

特に老後に極端に債券にポートフォリオを寄せ、保守的な運用ばかりを意識する方もいらっしゃるので、資産に長生きしてもらうには株式も必要、という話に使っています。

もちろん、研究レポートにも様々な見方があり得ますが、未来が常に不確定なものである以上、可能な限り証拠(エビデンス)に基づくことは大事と思っています。どうせ鉛筆を舐めて数字を決めるなら、やり方や方向性を間違っていない方が安心できます。

私の普段行うファイナンシャルプランニングの過程では、インフレなどを織り込んだ、より合理的な数値を出し、さらに視覚化をさせますから、具体的なプランとしてはそれで満足いただいているように思います。ただ、難しいことを考えすぎずに、どれくらい?という頭作りをするのにはトリニティスタディの結論は有用だろうと思います。

資産運用のパートに関しては、トリニティスタディでは株式と債券という資産を用いているので極めてシンプルです。実際、資産運用においては、ファンドや銘柄などを選ぶところからスタートしてしまう人が多いですが、実際は資産の投資配分(アロケーション)の方が重要です。

出てくる結果の7割はアロケーションをどうしたかで説明できると統計的にはされています。リターンを増やすためにオルタナティブ投資などをポートフォリオに混ぜるときも必ずスタート地点はここになります。

資産運用においては、株式やあるいは最近だとビットコインなどを通じて資産運用そのものを楽しむ、あるいは事業投資を通じて誰かを応援する、なども楽しみ方の一つですが、ベースとなるコア資産に関してはとりわけ証拠(エビデンス)に基づき、無駄のない所作で取り組んでいくことも大事だと思います。

一つ付け加えるとすれば、

引出し率と運用利回りをしっかり分けて頭作りをすること

は安心感に繋がるのではと思います。

引き出し率を運用利回りと結びつけすぎると、確実なリターンを求めるあまり、若い人でも決まった利息や配当があった方がいい、と考える傾向にあります。あるいは、退職後に投資信託を買うのにも、分配率ばかりに目がいっており、適切な投資信託選びができていないケースはあります。

いつでも引き出しができる運用方法さえとっていれば、あとは運用資産のままでいてもらった方がよく、毎月自動で引き出されるが実は使わない、のようなことが起こってももったいないのです。

逆に、自ら稼いだお金でしっかりと老後を楽しみ、資産を国に召し上げられたくない、というケースもあり得ますが、長期的な持続水準を超えて引き出す場合もより綿密にプランが必要でしょう。

このようなレポートは頭作りには有効ですが、一般論から個々のご家庭への落とし込みは必要になってきますから、信頼できるファイナンシャルプランナーを見つけて、目標を持って運用を続けていけるといいですね。

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