短期投資家/長期投資家という言葉があるのは多くの人が知っているかもしれないが、果たしてあなたの振る舞いはそれに似つかわしいものになっているのだろうか。あなたの願いと裏腹に、発言と行動が、投資家のタイプを決めていることを知ってもらいたい。
目次
ニュースはノイズ(騒音)
- インフレーションはどれほど酷いものになるか?
- FRBはいつどのくらいまで金利を上げるか?
- リセッションはいつどの程度の規模で起こるか?
どれも2022年のテーマであり、これらについて考えるのはもっともである。
しかし、これらの事象に対してあなたがせっせと情報を集め、何らかの結論を捻り出して投資行動が変わったのであれば、それは短期投資家としての振る舞いであり、長期投資家としてのそれではない、ということは言える。
どの質問も今年や来年の話であるにも関わらず、多くの投資家が正しい予測を持つことは困難である、ことは言うまでもない。
もちろん、経済統計だって存在するし、政府は予測を立てながら活動するが、それは予言するという作業には繋がっていない。結局のところ未来を占う水晶玉があるわけではない。
インフレ、利上げ、リセッション、これらに対する世の中の意見の変遷をかき集めることは必要でなく、かき集めても結局のところ投資ポートフォリオに大きな変化を与えない。変化させたのならば、また次の瞬間に意見を変える可能性があり、それは投資家としての一貫性を失わせる。
金融の世界には、これらのトピックを語り、そして次々と意見を変え、そしてそれを収益に変える人たちがいる。彼らは総じて短期投資家である。あなたは短期投資家でありたいのか。
ニュースやタイムラインにノイズは多く、そして興味をそそられる可能性もあり、無視するのは難しいかもしれないが、短期投資家と長期投資家の峻別はした方がいい。
- 株価が底をうった気がするので長期の投資を始めるには最適だ
- FRBの利上げが収まるまで長期の投資は控えよう
- リセッションに入りそうなのに投資をしていいのか分からない
よく聞く意見ではあるが、いずれも長期投資家には不要の発想であることは言うまでもない。再来年株価が上がってたら売るのか、利下げだったら投資していたのか、景気見通しが良ければ投資するのか。少ししたらまた同じようなことに頭を悩ませているのが想像に難くない。
市場価格は情報の宝庫
投資対象の多くは市場価格というものが存在し、様々な市場参加者の需給に基づき価格が決定されている。何かニュースがあればそれに基づき取引され、価格が調整される。市場は効率的である、とされる所以である。
一方で、どのイベントが価格に織り込まれ、どのイベントが織り込まれていないのか、は実はよく分からない面がある。例えば、ニュースでは米国の選挙は共和党が猛烈な勢いで過半数を取りそうだといい、だからその日の市場は好感をして株価が上昇したのだという。
あるとき、こういうニュースは納得感を持って受け止められるが、その程度が正確なのかは誰にも分からないし、ではその次の日株価が下落したら何というのか。たぶん誰も説明をしてはくれない。
市場価格は情報の宝庫であり、そこで売買をしている人たちがいることを表している。が、同時にどのような人がどのような目的でその市場を形成しているのか、までは言えない。
大真面目に一企業の株式を分析して買う人もいれば、インデックスに組み込まれているので価格に関わらず毎月定額買うという人もいる。別に持っている株に悪いニュースがあったわけでもないが、定年になったので全部売却してしまうという人もいるわけだ。どれも立派な市場参加者である。
取引ではなく保有で儲ける
結局のところ短期投資家と長期投資家の線引きができていない人が多いわけだが、一つの基準として、取引で儲けようとしているのか保有で儲けようとしているのか、という話はできる。
残念ながら、より幅広い人が知っているインデックス投資は性質的には取引で儲けるニュアンスと受け止められているケースが多い、と個人的には思う。なぜなら、インデックスが1,000だろうと2,000だろうと多分買うという話だし、それがインデックスであるというただそれだけの理由で、もっと上がってくれる、と期待している人が多いからである。
取引を動機にしているとインデックスですら相場が変動すると一喜一憂するし、元値がいくらだったかと気にするし、高値かどうかを気にする。
でも、取引が成立するには、あなたが買おうとしているその瞬間、あなたの目の前に売ろうとしている人がいる、ということが起こっていなければならない。もしその人が最高値だと思うから売ろうとしているのかを知ったら、あなたはそれでも買おうと思うだろうか。ロジカルに考えれば、10年前にアップルの株を買っていて、大きな利益をあげたので今売ろうとしている、だからあなたは買うことができる、という関係にある。株価は将来の成長も織り込んでいるのではなかったのかという、ちょっとした矛盾を感じつつも、今のあなたはこれから先のアップルを買うわけだ。
視点を少しだけ変えて、保有によって儲けられるという発想に立てるのであればその矛盾は起こらない。10年間アップルを保有して儲けた人がいて、それを手放す。次の10年アップルを保有して儲けるのはあなたである。保有して儲けられるものを保有すればいい。次の10年が前の10年と同じかは分からないが、保有に意味を見出せたのであれば、いくらで売買されていようが買いであることは言うまでもない。
市場の変動を気にしない
株式と債券を比較して、大損する可能性が高いからという理由で株式を避ける人がいるが、それは必ずしも正しくない。確かに株式は債券に比べると市場の変動は激しい。一日で十数パーセント動くかもしれないし、債券のように待ち続ければ満期が訪れるというものでもない。
しかし、根本的にはその市場変動の対価に相当するリターンを株式は提供してくれる。
投資家としてギブアップしない範囲で市場の変動を受け入れられれば、それに見合うリターンは得られることになる。変動を気にしすぎるのではなく、この“投資家としてギブアップしない範囲”の特定により多くの時間を割くべきであると言える。
ギブアップしないための要素としては、
- 日常生活に影響を与えないこと
- 投資を引き上げる予定がないこと
- 借入の返済期限に追われていないこと
などが挙げられる。
変動が気になるのは性格の問題なのか、そもそも変動を気にしなければならない背景があるのかでも変わってくる。もし性格の問題なのであれば、アドバイザーの力を借りるなどしてコントロールできる可能性はあるし、資金を動かさなければならない理由があるのであれば、そもそも市場の変動リスクの取り方を調整しなければならないタイミングであるかもしれない。
市場の変動が気になる状態なのであれば、それを解決するためにできることがいくつもあるし、それを解決すべきだ、という話である。
長期での投資成功へ
毎年確実なリターンをあげて5年間で30%に達することと、単に5年後に30%のリターンがあがっていればよいことは同じだろうか。
多くの人は心の中で後者でいいと思いながら、実際は前者を期待しているし、それを要求している。しかし、前者は1年の投資を5回繰り返しているのに対して、後者は5年の投資を1回だけ行っている、という違いがある。前者の方が手間もコストもかかり、その機会を得るのは難しい。リスクとリターンはバランスであるからだ。
でも投資家の心には、5年後に30%あるかどうかなんて分からない、という不安もよぎるのだろう。その確度を高める努力をする前に、目の前の確実なリターンがよいと思う。あるいは5年後に達成すべき30%のリターンを1年後に達成しようと躍起になる。長期投資家が短期投資家に変貌する瞬間である。
あなたが長期投資家なのであれば、長期での投資の成功に向けた努力とは何か、効率的に学ぶ必要があり、それは結果的に投資家としての安心に繋がる。