ウェルスマネジメントの世界も日々情勢が変化している。まずもって富裕層の数は過去数十年で大幅に増加し、とりわけ新興富裕層(第一世代)から次世代への資産継承が課題に挙がっている。その中でも香港は北アジアにおけるウェルスハブとしての立場を維持している。トレンドについて少し俯瞰してみたい。
目次
他拠点化
ファミリーオフィスを含め、ウェルスマネジメント業界にとって他拠点化はここ最近のトレンドと言える。一つには、業界が拡大してきたことによって、大きく成長する企業が現れたこともあるが、その背景には、地域リスクのヘッジもあると考えられている。資本が自由に移動できるにせよ、色んな意味で「引越し」をするのであれば大掛かりになる。お金の面でもセカンドハウスを持っておけば安心なのだろう。顧客に接するウェルスマネージャーにとっても死活問題であるが、ローカライズの度合いと、拠点維持コストが課題になるのも事実である。
ファミリーオフィス化
各国の視点から見れば、社会的負担の少ない富裕層の取り込みにインセンティブを与えている。ただでさえ低税率な地域ではあるが、ファミリーオフィスなどの特別なスキームに対して税優遇を発表している。世の中にそれだけ需要があるわけだ。一方でこの分野に精通しているプロフェッショナルは数が少なく、トップタレントを採用するか、各分野の専門家をどのように協業させるかは課題になる。
多様化とパーソナライゼーション
社会が成熟するにつれて、家族が均一な目標ではなく、様々な価値観を持ち、そしてそれを違った方法で実現しようとするようになる。そこに求められるのは、単一的なセールスアプローチではなく、パーソナライズされた経験であるとされるし、サービスの提供チャネルも柔軟でなければならない。香港は幸いにも為替市場や金融システムが成熟しており、様々な金融商品が柔軟に提案できる。香港に軸足をおきながら他の地域に手を伸ばすことは理にかなっているわけだ。
ファイナンシャルプランニングの重要性
資産運用とファイナンシャルプランニングが結びつくことにピンと来ない人は多い。だが、着実に重要性を増している分野である。家族のファイナンシャルニーズを包括的に分析し、長期的な経済的目標を形にする作業をテイラーメードにやっていくことは実は骨が折れ、あるいは業者から見れば収益に直結しないと思われがちである。しかしながら、長期的なリレーションと顧客利益を優先する上で、欠かせない作業になってくるわけだ。
資産運用スキルの深化
世の中の投資商品がますます多岐にわたっている中で、顧客ニーズの微妙な違いを反映し、より適切な投資アドバイスを提供するスキルが必要とされている。総じて、富裕層とて世界的な分散投資アロケーションを構築し、クロスボーダーの投資機会を十分に捕捉するに至っていないとされる。そこにはウェルスマネジメントに携わるもののスキルの深化が追いついていないことも挙げられ、こちらも世代交代を通じて知識と経験の蓄積が必要となっている。
ファミリーガバナンスの設計
資産を築くのは一仕事、資産を残すのも一仕事である。もし一財を築いて次の目標に迷うのであれば、間違いなくこのファミリーガバナンスの部分に力を入れてみることをお勧めしたい。ファミリーガバナンスとは何か、と思うのであれば是非その意味を理解することから始めたい。多くの富裕層にとってとてもやりがいのある分野であると感じる。時間もお金もかかるかもしれないが、構築できれば資産は確実に伸びていき、ファミリーとしての価値と文化、ひいては社会に対する影響力の維持にも繋がる。ウェルスマネジメント業界でも徐々に知見が深まっている分野であろう。
まとめ
このようにまとめてみると、ウェルスマネジメント業界に飛び込むハードルがますます高くなっているように感じないでもない。変化は刺激のあるものである一方、金融規制の強化などもあり、業界を去るものも少なくない。柔軟でかつ吸収力のある人材が求められているのは確かだ。