昨今のグローバル化の進展の中で、国籍や居住国の選択ニーズは高まりを見せている。富裕層の特権かにも思えるが必ずしもそうではない。
生き方の多様性が増す中で、国境という概念はまだまだ固定的なものであるし、同時に国民を守る重要なバリアでもある。
本稿では、国籍や居住国の選択ニーズに対する、概観を提供しよう。
目次
そもそもどのようなニーズなのか
一つは安全性であり、必要があれば行ったきりになれる代わりの場所があることが転居の自由を提供してくれること
次に、ビザが必要となる地域が減ることによって自由に移動できるようになること
そして、将来に対する保険として、国籍のポートフォリオを用意すること
さらに、気候や、公共サービス、生活環境、医療など、よりよいライフスタイルを実現するための要素を構築すること
あるいは、より上位の教育を受け、職業を選択する機会を切り拓くこと
などである。
もちろん通常のステータスであっても一定程度の選択肢は存在する。しかし、国籍や永住権を持つことで実に容易なプロセスに変わるものも少なくないのである。
移民のレイヤー
短期ビザ → 長期ビザ → 永住権 → 市民権 (→ EU市民権)
その国で生まれた人以外がその国に住むとなると、一般には移民という考え方になるが、どのくらいの期間滞在し、どのような権利を享受するのかでレイヤーが異なっている。選択の自由が得られるのは概ね永住権より上位のレイヤーであり、EUは一国内と言わずその地域での市民権を提供している、というのは特徴的である。
当然ながら、右に行くほど難易度は高く、そしてその土地に根付く人になることは言うまでもない。
リスク回避なのかリスクテイクなのか
複数の国に住む、あるいは市民権を持つことを、リスク回避と捉えるか、リスクテイクと捉えるかは人による。当然ながら、旅行者でないとしたら、与えられている権利に対して一定の義務が発生することになる。関わる国が2つも3つもあれば、カントリーリスクは2倍、3倍になっていると思うことはできるかもしれない。
一方で、なぜ複数の国に住んだり、市民権や永住権を取得したりするかというと、一つの国で起こる問題からのリスクヘッジであると考える人は多い。パンデミックの起こったここ数年は非常に顕著な問題であって、政治リスクや教育リスクとして受け止められた。どんなプロセスであれ、家族が安心して暮らせることを考えるのは最優先事項であり、とりわけ国家からの金銭的サポートを必要しない状態なのであれば、よりよい暮らしの選択をするのは合理的である、とも言える。
二重国籍を認めない日本の国籍法
私は法律家ではないので、日本の国籍法の是非について問うつもりはないが、ここ香港においては、地域の歴史もあってか、複数の国籍を持つ人を見ることは決して稀ではない、ということは言える。あるいはグローバルな文脈においては、出自を問うて回答に窮する場面も少なくないのは意外と日本人には薄い感覚かもしれない。
なぜ困るかというと、生まれた場所にアイデンティティはなかったり、育った環境が次々に変わるものだったり、あるいは家族の血筋だったり人種だったりは単純ではなかったりするからだ。逆に、日本で生まれたらどんな風貌をしていても日本人だと言ってくれるだろうか、これもまた一様ではない。
とはいえ、各個人に実態とそして選択の自由があれど、法律的にどのように扱われるかは気にすべきことでもある。グローバルな時代において、日本における二重国籍の取り扱いについては議論がある分野ではある。実際に、2018年から地方裁で争っている方々はいるので、参考にはできる。
いくらあれば市民権や永住権が買えるのか
国籍については生まれつきである、という考え方はまず原則としてあるものの、それぞれのレイヤーについて各国が提供しているプログラムが存在していることは注目すべきである。
このプログラムの歴史は比較的浅く、ここ十数年でようやっと認知度が高まってきた、というものである。不適切な斡旋業者もいると聞くので、できるだけ精度の高い情報とプロフェッショナルなサービスを受けることは長期的には個人や家族のレピュテーションを保つためにも重要になってこよう。
代表的な国と大まかな必要投資額を挙げてみる。ただし、正確な数字は最新の情報を参照してもらいたい。
市民権
- マルタ EUR750,000
- モンテネグロ EUR450,000
- セントクリストファー&ネイビス USD150,000
- セントルシア USD100,000
永住権
- ケイマン諸島 USD1,200,000
- カナダ CAD350,000
- ポルトガル EUR280,000
- マルタ EUR150,000
これらは一例にすぎないが、イメージするよりは最初のハードルは高くない。生活をしていくわけでだから、ハードルはもっと先のところにある。どういう風に生きろなどというマニュアルがあるわけではない。
真面目に検討すべきか
こうしたプログラムのどこに魅力を感じるかは人それぞれである。ただ、実際に住みたいと思った場所があるのであればやはりそれはとても貴重な機会である。
人によっては複数のプログラムをこなすケースもあるが、無数に必要かと言われるとそうでもない。恐らく効用が最も高いのは1つか2つのプログラムを経ることである。
ライフスタイルの選択肢の幅がグッと広がることに気づくだろう。
ただ、繰り返すが、これらを通じてどのようなことを実現したいかを具体的にイメージすることは大事であり、そうでなければただのお金の無駄遣いであり、賢明な意思決定とは言えない。
それに異なる国に住むのであれば相応のプランニングをしておかなければ、随所にほろこびが出ることになる。十分に検討をして臨みたい。