株式を買うなら米国株だ、という論調を見聞きすることは比較的多いとは思うが、一方で米国株以外に目を向けることが意味のないことなのか、考えてみたいと思う。

なぜ米国株論者が多いのか

シンプルな理由としては、米国の株式市場の規模が圧倒的に大きい、というのが挙げられる。メジャーなマーケットなのだから語る人も多い、という話。

米国は企業の資金調達の場として世界的に有名であり、そしてそういった企業に対して、様々な市場を提供することで、米国の経済成長にも寄与している。

過去のリターンは将来のリターンを約束しないとはいえ、株式インデックスのチャートだけを見るならば、これほど右肩上がりの印象を受ける市場というのはなかなかない。

とはいえ、このような一本足打法は勧められるものなのだろうか。

カントリーバイアス

私自身は香港で仕事をしているので、顧客の資産を運用する方々のポートフォリオも見ることが多いが、香港のローカルの方は香港ないし中国市場の投資へかなりの割合を傾けている印象がある。顧客側にそういう意向があるのか、はたまた運用マネージャー側に何らかの意図があるのかまでは分からない。

一理ある説明としては、一番理解しているマーケットだから、というのはあるのだろうと思う。

かたや、日本ではどうかというと、やはり一番最初に手にするのは日本株だった、という人が多いのではないだろうか。これまでに自分がサービスを受けたことのある企業の株式を持っている人も少なくない。それが投資して価値の上がる企業なのか、とも視点が異なることが多い。当然ながら、香港の方で日本株に注目している人はそれほど多くない。

私も多少なりその感覚はある、キャリアの中で外国市場を多く見てきた人間なので、日本市場は少し弱い。

知らない国に投資する感覚

カントリーバイアスには重大な示唆があった。それは、よく知っている国に投資をする、という発想である。投資商品は100%理解するまで投資するな、とまで言われるなかで、そもそも米国株に投資をする感覚は適切なのだろうか。

投資の理想は投資先の徹底的な調査と分析に基づくことであるのは誰もが同意してくれるだろうが、その徹底的な調査と分析とは何なのか、までは誰も説明はしてくれない。したがって、現実的には、一般投資家はある程度の調査と分析を踏まえて投資するか、調査と分析を必要としないレベルで投資をするか、の二択であることの方が多いと思う。

だから、米国を知らないから米国には投資しない、というのは至極全うであるし、一方で、知らなければ投資できないわけではない、というのも至極全うであるのかもしれない。

さらに、米国から離れ、欧州や新興国と幅を広げ始めるとしたらこの問題により深く依存することになる。本来、調査と分析を必要とするのに、それをしないで投資をするのであれば、大きなリスクを見逃すことだってある。

知っているものには集中投資できるが、知らないものには分散投資する、という感覚は一つのリスク回避行動である、と思う。

株式以外の選択肢

株式に関して、米国を全く含まない形でポートフォリオを組む、というのは投資の玄人でもない限りは考えづらい。株式の主戦場である米国はおそらく入る。問題はそこから先をどのように考えるかではある。

全ての資産を米国株に集中する、というのはシンプルでいいが、やはり他のものへの分散投資を考える必要はある。欧州やアジアの株式市場も米国に比べれば小さいかもしれないが、それでも多少の投資割合を持っておくべきである。また、株式以外にも、債券や金など、資産の分散も意識するとよい。(結局分散投資で煙に巻かれた印象を抱く人も多いとは思うが。)

米国だけでいいのか、株式だけでいいのか、論点は実に多いものの、分散しすぎても把握がしづらいし、ただ手数料がかかる、というのも個人投資家にはあり得る悩みである。

資産運用から撤退せずに済む方法

米国株にしても、その他の国の株にしても、リスク資産である以上、値動きにはさらされる。値動きがあると人間は心理を揺さぶられ、嫌になって資産運用から撤退してしまう人が一定数いる。必ずしも損失が出たことが嫌だったわけではなく、昼夜問わず投資のことを考えてしまう自分が嫌だ、というような話である。

米国株は同等のリスクを秘めていながらも、過去の右肩上がりのチャートが投資家を資産運用から撤退する前に安心させている、というのは心理効果として大きいと思う。毎年米国株がリターンの最上位にきているわけではない、という事実は調べれば分かることだが、投資家はあまり気にしていないのかもしれない。

未来の予知が誰にもできない以上、心穏やかに資産運用を継続することは重要になってくる。途中で退出してしまっては本来得られていたリターンも諦めることになってしまうからである。安心して続けられる方法、しかもそれが徐々に投資資産を増やしながら、あるいは資産の多くを運用に回しながら行える方法について、自分自身と向き合うことが肝心である。これは理論的に正しいこと、とは必ずしも一致しない。

特に相場を読みながら、エントリーポイントを探そうという人にも同じことが言える。もちろん始めるときはきっかけが必要ではあるが、これから先ずっとそれを続けていかないといけないわけで、もしタイミングを見なければ始めづらいというのであれば、おそらくやろうとしていることは継続していくのも難しいはずなのである。気持ちの整理の問題なのか、やり方が適切でないのか、は区別しておけるといい。

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