親の財産がどのくらいあるのか、把握している子は半数に満たない、と言われています。自分がその管理をやらなければならない局面に備えて何かできるのか、ここでは考えてみましょう。

リアルな心配事

【何のために】、親の財産管理をすべきなのかという点に関して、多くの人は認知症や死などを挙げる傾向があります。要するに、本人が財産管理することができなくなるとき、代わりにやる必要があるからですね。

では、【誰のために】、親の財産管理をすべきなのかという質問だとどうでしょう。親のために、というと聞こえはいいですが、実際のところは自分のために、と感じた人の方が動いているケースが多い気がします。

なぜ自分のためなのか、というと、どのくらい遺産があるのか、自分にどのくらい入ってくるのか、ということも関心の一つとしてはあるのかもしれませんが、これもどちらかと言えば、いざというときに自分が動きやすくなること、そして自分がトラブルに巻き込まれないこと、だったりもします。

どういうことかというと、たとえ認知症でなかったとしても、判断能力や記憶能力が衰えると、大切なものをどこに置いたのか、あるいは当時誰とどのようなやりとりがあったのか、など、第三者として理解して代わりに動くためのヒントがどんどん少なくなっていくからです。支払を忘れて督促が来たのに放置していたり、詐欺被害に知らぬうちに遭っていたり、ということも考えられます。これらは当然親本人にとって望んでいないことではあるのですが、結果として生活の質を低下させたり、周りの家族にとって大きな負担になったりすることは想像に難くありません。早期に気付ければなんてことはなかったのに、家族が気付くとき、というのは往々にして既にどこかに迷惑をかけていたり、おおごとになっていたりするものです。家族ならともかく第三者がトラブルで寛容になってくれることはあまりありません。

仮に死ともなれば、相続に関する手続期間は意外と短い、というのもあり、相続人の日常生活に支障をきたす可能性は十分にあります。子育てを経験した人ならば、子の動きを完全に把握するのが難しいことは理解したでしょう。子が起こしたトラブルで平謝りしたことのある人もいるかもしれません。それでも保護者だから多くのことは仕方ないと思えたし、規模もたかが知れていたわけです。高齢の親であれば、年齢の分だけ築いた歴史があります。本人は墓場まで持っていくつもりだったとしても、実は大変な置き土産になってしまっていることも十分あり得ます。

財産管理の副次的効果

親の財産管理に着手する副次的効果としては、これまで親がどのようなことをしてきたのか、が少しだけ透けて見えることかもしれません。この記事を読んでいるのが比較的若い方であれば、恐らく親が自分の育児に費やした時間やお金も見えてきますし、ご自身も既に相応の年齢なのであれば、歳を経ても残っている人間関係、などにも気づくでしょう。

人間誰しも自分のことはまず自分がよく分かっています。次に家族のことは家族が分かっています。でも、やっぱり他人なので知らないことは山ほどあるわけです。もちろん、知らない方が良かった、なんてこともあるのかもしれませんが、親には親の人生があった、ということでもあります。

また、親は自分より年齢が上ですから、財産状況に関しても自分より複雑であることの方が多いでしょう。いつどのような意思決定があって現在の状態になっているのか、これからの自分にとって指針やヒントになるものがたくさんあります。知識や経験が足りなくて理解できない箇所があれば、そこを補填する必要も出てきます。

着手するタイミング?

親の財産管理の必要性を感じたら、どのように行動するのがいいのでしょうか。

まずは、親本人に対して、現状どうなっているのか、をまとめておいてくれないか、と依頼をする人は多いと思います。根掘り葉掘り聞くのもなんだか居心地が悪いですからね。ただ、これで解決するケースは少ないでしょう。そもそも言ってちゃちゃっとできるくらいなら初めからやっている、とてもマメな親だと言えます。大概の人は一旦納得して作業を始めても、途中で日々のことで手一杯になり、やはりそのままになってしまいます。それに自分にいつなんどき何が起こるか分からないと思って毎日過ごしている人はいないですから。

着手するタイミングですが、正直正解はありません。でも、初動は早い方がいい、というのはあります。それに一気にやり遂げられる、とは思わない方がいいでしょう。むしろ、着手してはみたけれど、なかなか思うようにいかず、時間だけが経っていくものだ、と想定すべきです。

でも逆に言えば時間をかけるのが自然だ、ということでもあります。一年に一回しか届かない郵便物がヒントになることもあります。頑なに話したがらないことだって、機嫌が良いときにはさらっと本人の口から出てくるものです。焦らないこと、でも着実に進めること、これがキーです。

当事者意識が不可欠

親の財産管理は親がやるもの、と思っていると、残念ながらいつまで経っても状況は変わりません。

自分しか管理できない状態をイメージしてみてください。そう、自分に選択肢が残されていないという当事者意識が不可欠なのです。

兄弟姉妹がいるケースにおいて、一緒にやっていけばいいとか、この部分は自分以外が見てくれるはず、とか最終的には調整が必要ですが、分担が生まれる前に是非一度は自分で全体像を掴むことを意識してみてください。

試験に例えるなら、親が生きているうちは模擬試験に何度でも取り組むことが可能なのに、それをせず、ぶっつけ本番でかつ合格点を叩き出さなければならない状況になっている人の方が多いわけです。

具体的な論点

親の財産管理については、他にも関わる家族がいるのであれば、率直に話し合う、ということが肝要です。もちろん親本人ともオープンに議論する必要があるでしょうし、親の意思が最大限尊重されるべきです。論点としては例えば以下のようなものがあります。

  • 相続含め、そもそも親が持っている意思
  • 現在の資産及び生活状況
  • 希望するライフスタイルとそれに伴う費用
  • 介護が必要になったら取りたい選択肢
  • 重要書類の管理方法

話し合う上で大事なことは、まずはそれぞれの人の考え方や希望を尊重することであり、それを無視して合意形成しようとすると、後々しこりが残る結果にもなりかねません。家族間で確執が生まれることは適切な財産管理の妨げになります。もし、お互いを尊重し合うことができない状況にいるのだとしたら、実は親の財産管理に着手する以前に、そこを解決していなければならない、ということでもあります。

話し合いにおいて、それぞれの人は知識も経験も違っていますから、そのギャップを上手く埋めるためにも外部の専門家からアドバイスを受け、必要に応じて間に入ってもらうことは考えてみてもいいでしょう。会議にもファシリテーターが必要なのと同じです。

法的な対応策

状況が整理されたなら、対外的には法的な対応まで必要かどうかを検討しましょう。例えば、後見人を選定すること、家族信託を組むこと、財産管理契約を結ぶこと、などです。

上記の話し合いだけだと、いくらオープンに話し合ったところで、お金や人間関係の絡む話だと突然考え方を変えたり、自己の利益を最優先して立ち回ったりする人が出てくるものです。場合によっては費用がかかりますが、公にその管理権限を誰にどのように渡しておくのか、は決めることができるのです。

最後に

親の財産管理に向けてやるべきこと自体はリストに洗い出すことが可能です。

最大の難点はやはり、誰がどうこなしていくかの部分にそれぞれの人の意思を反映させるところでしょう。相続が争族に発展しないようにしたいものです。

高齢になると、本人では手が届かない部分、できないことが自然と増えていきます。ところで資産状況は?と切り出しづらいのであれば、こうした本人からの困り事シグナルを受け取りながら、代わりにできることを増やしていくとよいでしょう。親にとっても、子が自分のことを把握し、気に留めてくれていると思えれば日々安心して暮らせると同時に、子に対してやっておきたいことが自然と浮き上がってくるものです。

この重大タスク、まずは自分なりに考えて着手するところから始めてみてはいかがですか。

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