各国でそれぞれ整備されているねんきん制度。香港ではMPFが運営開始して20年以上が経過したが、利用者としてどのようなことを知っておくべきだろうか。ざっくりと振り返ってみたい。

強制積立金制度(MPF)の歴史

MPFが運営をスタートしたのは2000年12月です。香港は現在世界でも有数の高齢社会であり、当時も高齢化に伴い、リタイア後の資金が課題になっていたとされます。逆にいえばそれまではしっかりとした制度はなかったということでもあります。

先進国の多くは賦課方式という、現役世代が収めた保険料をその時の高齢者世代の年金給付に充てる仕組みを採用してきましたが、香港は年金制度の整備の時期もあり、積立方式が最初から選択され、老後の自分のために現役世代の自分が積み立てることになっています。もともと資本主義でかつ自助の要素の強い経済だったこともあり、制度整備後でも担っているのは実に最低限の蓄えだけです。その後の香港の発展は目覚ましく、物価上昇も加味すれば、しっかり働いていれば他の蓄えがなくてもMPFだけで老後は安心、などということはとてもとても起こり得ないわけです。それでもちなみに最新データでは、HK$1mln(約2,000万円)以上のMPF残高がある(通称MPFミリオネア)は12万5千人いる、とのことです。

MPFプロバイダーの数

香港で認可を受けたMPF信託は12社あり、MPFスキームとしては24種類があります(2026年3月現在)。公的年金制度、ではありつつも、実際の運営は主には銀行や保険会社などの民間企業が担っているものです。おそらく積極的に比較検討してそのMPFプロバイダーを選んだ、という人はほとんどいないのではないでしょうか。そのため、各スキームの浸透状況も、比較優位によるものというよりは各社の営業努力やお付き合いによるところが大きいような気がします。

近年のMPFに関するニュース

退職金相殺禁止

MPFはいわゆる公的年金制度ですが、会社にとっては退職金準備の側面がこれまではありました。ただ、2025年5月1日以降は、従業員へ支払う退職金(解雇補償金/長期服務金)と、会社によるMPF強制拠出分を相殺することができなくなりました。制度変更に伴い、会社にとっては費用負担が増加するため、25年間は政府による補助金を申請できることとされています。

強制部分の増額

2026年3月現在、まだ確定ではありませんが、強制部分の増額が議論されています。足元のインフレに伴い、賃金が上昇していることを踏まえて、ですね。具体的には、HKD30,000を上限として5%のHKD1,500を最大強制拠出額としているのに対し、例えばHKD40,000を上限として5%のHKD2,000を最大強制拠出額とする、といった話です。2026年夏頃には具体的な提案がなされる予定です。このような変更は2014年に行われて以来、10年以上なかったことです。

MPFの利用方法

MPFは強制だとされていますが、利用者は4.7百万人超となっています。香港の人口が約7.4百万人だとしたら、不思議な数字のようにも思いますよね。

そもそもどのようなきっかけでMPFをスタートするかというと、ほとんどの人はお勤め先が用意したもの、で始めるのではないでしょうか。

一定の条件を満たす従業員に対して、雇用主としてMPFを準備することは法令上の義務です。したがって従業員側は受動的にサービスを受け始めます。自営業の場合あるいは従業員が少数の場合、法令上は義務があっても、現実には費用や事務負担増に繋がり、能動的に動きづらい面はあります。

お勤め先が用意したもの、と書いたように、この場合、例えばどこのMPFプロバイダーがよいか、を選ぶのは雇用主です。もし退職した場合は、ご自身が積み立てた分に加え、雇用主が積み立てた分を受け取り、その後は個人口座(Personal Account)に移行します。以降は、雇用主との関係が切れ、個人口座ではMPFプロバイダーを変更することは可能です。

再就職した場合はどうでしょうか。そのときにまた、お勤め先が用意したもの、ができます。これは全く新しい口座であり、以前のお勤め先と同じMPFプロバイダーとは限りません。では、その後退職したら?そう、また新しい個人口座に移行します。つまり、転職が多い人は、放っておくとMPF口座が増殖することになるわけです。

このようにできあがる、2パターンの強制積立用の口座以外にも、実はMPFにはもう2種類の任意積立用口座があります。これを利用できるのは、上記の強制積立用の口座を持つ人、なので、任意積立用の口座だけを開くことはできないとされています。

一つは所得税控除可能な任意積立用の口座(いわゆるTVC)で、基本的な設計は強制積立用の口座と変わらず、老後にしか引き出すことができません。もう一つは所得税控除はできない任意積立用の口座(いわゆるSVC)で、これは他の口座と違って、積立金の引き出しがいつでも可能なものです。後者はMPFっぽくない、と受け止める人もいると思いますが、間違って口座利用することのないよう十分気をつけたいものです。

eMPFへの移行

ここまで見てきて想像に難くないように、MPF口座を放置している人は少なくないのが現状です。仕事には一生懸命でも、もはやどこに口座があるのかを知らない人すらいるでしょう。そんな人でも、オンラインで一元管理できるように、という主旨で2024年6月26日から2026年4月30日にかけて、eMPF(積金易)への移行が行われています。

これまでは各MPFプロバイダーにそれぞれ問い合わせし、紙のフォームを提出する、といったマニュアルな要素が多かったのですが、今後はeMPFを通じて登録情報の変更、投資スイッチング、追加拠出、などが行えますので、登録がまだの人は必ず作業をしましょう。

eMPFは利用者にとっての利便性向上とともに、プロバイダー側の管理コストを大幅に削減することが期待されています。

口座の統合

先ほどの例に戻って、放っておくと増殖しがちな個人口座ですが、残高をどこか一つのMPFプロバイダーに統合する、ということも可能です。これもかなりマニュアルな作業だったのですが、eMPFでは簡単に申請を出すことができます。香港でそれなりに働いて、最後に解約する、という人も、事前に統合しておけば解約手続きは一箇所でよくなるので楽かとは思います。

また、統合をしなくてもMPFプロバイダーの変更はできるのですが、どこのMPFプロバイダーがよい、ということに関しては個人の判断にはなってこようかと思います。

所得税控除の利用

MPFは強制の側面が強いので、所得税控除も行うことが可能です。該当期間の拠出額は、強制部分に関しては全額(=HKD18,000まで)が、また任意部分に関しては年間HKD60,000までが控除対象となります。それぞれ所得税申告(Tax Return)のときの項目が異なっているのでご自身で申告を行なっている場合は注意しましょう。

また、強制部分でも個人口座は新たに拠出をすることがないため実質的に控除対象ではなく、また任意部分についても特別拠出口座に関しては拠出をしても控除対象ではないので、注意したいものです。特に後者はMPF制度内の口座ではありつつも、いつでも引き出しができるという性質から、税制面での優遇はないものである、と考えると理解しやすいかもしれません。

MPFの受取方法

MPFの積立金は原則として65歳から受給が可能です。早期退職した場合(つまりその後は就業予定がない)は60歳からも可能とされています。それ以外だと、香港を永久に出国する場合、が認められています。香港で65歳を迎える日本人は絶対数としては少ないでしょうから、主にはこの例外措置を利用するかどうか悩む人が多いのではないでしょうか。

本帰国時の受け取りについては、法律で定められた権利でもあるので、書類等に不備がなければきちんと処理されます。ただ、その権利行使が認められているのは一生に一回だけですし、法的な宣誓をしている以上、虚偽が許されることはありませんので、そういう意味では安易な気持ちではできない、と解釈しておくといいでしょう。

この他だと、病気やけがにより就業不可となった場合などもMPFに手をつけることが可能です。必要なときに使えないお金では意味がありませんからね。

ちなみに、MPF加入者が亡くなった場合、その拠出金は遺産として扱われるため、香港での相続手続きを経て、遺族の手にわたることになります。早期に引き出しづらい性質上、本帰国後にMPFの存在自体を忘れてしまう人もひょっとしたらいるのではないかと思います。必要書類等を確認し、ご家族にも伝えておくとよいでしょう。

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