香港で長く住む人でも、老後を香港で過ごすかどうか悩む人も多いのではないでしょうか。仮に老後を過ごすとして重要になってくる、香港での年金づくりについて解説してみます。

強制積立金制度(MPF)

もともと香港には自主的な福利厚生制度である、ORSO(Occupational Retirement Scheme Ordinance)しかありませんでしたが、人口の高齢化に伴って、2000年からMPF(Mandatory Provident Fund、強制積立金)と呼ばれる制度へと移行しました。

18歳以上65歳未満の従業員とその雇用主は毎月の給与から5%(上限3,000香港ドル)を拠出します。この拠出義務に対して、従業員は自主的に追加拠出(Voluntary Contributions)をすることが可能で、強制分に加えて、税務申告の際に所得に対する控除(上限60,000香港ドル)が可能です。

所得税率の低い香港でも税効果が得られるのでそれならば追加拠出も、という人はいますが、強制でない部分に関しては、MPFという制度についてよく理解した上で行うのがよいと思います。

MPFの積立金は香港の金融機関に預けられ、そこで運用を行います。多くの場合、お勤めの会社から案内される金融機関を利用することになりますが、転職した場合はまた新しい金融機関へと移管が可能です。

運用方法は、各金融機関で用意された各種の投資信託(ファンド)になります。自分でファンドの入れ替えの指図をする人もいれば、そのままの配分比率で放っておくという人もいると思います。

あらゆる人に対して提供しているものなので、リスクを取りすぎる心配はない一方、選択肢は限られており、信託費用としては比較的高いものが多い、というのが印象です。大きく資産を増やすというよりは老後に向けて着実に取り置いておく、といった主旨での利用になる、と考えておいた方がいいでしょう。

MPFに加入義務はあるのか

強制積立金と名うつ以上は原則として全ての人が加入義務がありますが、一部の人は義務がありません。例えば、雇用期間が60日未満の従業員や、香港での労働ビザの期限が13ヶ月未満(ワーキングホリデービザ等)の場合ですね。

日本の企業の駐在員として香港に赴任した場合にも加入義務があるのかどうかもよく聞かれます。一般には駐在員の場合、日本での厚生年金保険料の支払いを継続しているケースが多いので、いくつかの国では社会保障協定に基づきMPF加入義務は免除されますが、香港の場合は、香港法に基づき免除となり得ます。MPFの準備は雇用先の義務なので、雇用先に確認されることをお勧めします。もちろん義務が免除されるだけなので、雇用先と話し合って加入することは可能です。

仮に現地採用で働き始めた場合は、まず日本の厚生年金保険からは外れますので、国民年金保険料を支払うかどうかですが、恐らく香港でMPFに加入しつつ、余力があれば日本での任意加入を行う、というケースが多いのではないでしょうか。

特に日本の場合は保険を受け取るためには10年以上にわたって年金保険料の支払いを行っている必要がありますから、これに満たない場合は特に追加での支払いを検討した方がいいでしょう。

ただし、日本での住民票を残している場合は、国民年金保険料については未納扱いになってしまうので、香港での雇用先ともよく相談して双方の国の法令に従うことをお勧めします。

帰国時のMPF解約は可能か

MPFは65歳になると受け取りが可能になりますが、香港の法令に従いMPFに加入したものの、老後を香港で過ごすという人は決して多くはないでしょう。

もし仮に母国に帰国した場合はMPFの解約は可能か、という質問をよく受けますが、これについて生涯に一度のみ可能である、ということになっています。帰国時に香港から永久に離れるという意思表示を書面で行い、MPFの提供金融機関がこれを処理します。

もし仮にその後再び香港で働くことになったとして、MPFに加入した場合は、65歳になるのを待つしかない、ということになります。もし仮に、虚偽の意思表示をしたり、二度目の解約を試みた場合、違法となり、罰金や禁固刑の対象になり得ますのでご注意ください。

公的終身年金(HKMC Annuity Plan)

2018年に香港では公的な終身年金(Annuity)の仕組みが発表されました。対象は60歳以上の永久居民です。

MPFが現役時代に自分で積み立てた資金を取り崩すのに対して、終身年金は一括払いで加入するもので、死ぬまでの給付を約束してくれるため、老後の資金を使い果たす、という心配はなくなります。

60歳になってまとまった資金があり、かつより確実な収入に振り替えたいという場合にはよい選択肢になる可能性があります。仮にHK$1,000,000を拠出した場合に月々いくらが保証されるのか、を表したテーブルは参考までにこちらです。

仮に本人が亡くなった場合はご家族が保険金として受け取ることができるので、本人にとっても家族にとっても損はない制度、とは言えそうです。

リバースモーゲージ(生前給付)という選択肢

一般には若者は結婚や出産という大きな支出イベントがあるのに対して、収入は相対的に少ないので、無理に老後に回すのは必ずしも得策ではありません。まずは10年先を見据えて、万が一のときに家族を守るための死亡保障などが必要です。特に生命保険は年齢が若いほど保険料が安くなりますから、勧められたことがある人も多いのではないでしょうか。

結婚していないのに、死亡保障付きの保険に加入するなんて、、と思いつつも、どうせいつか保険に加入するなら若いうちの保険料の安さを享受したい人にはリバースモーゲージという仕組みもあることを知っておくとよいかもしれません。

基本的に保険とは万が一に備えるものなので、万が一が老後まで来ない可能性は十分にあります。香港の保険は掛け捨てではなく、貯蓄性のものがありますのでその点は安心と言えます。もし仮に独身で老後を迎えた場合、保険金を取り崩して生活費に当てる方法として香港ではリバースモーゲージを利用します。つまり、死んだときにもらえる死亡保険金を生前に分割して受け取ってしまう方法です。

全ての保険商品が対象(eligible)ではないので、保険の検討段階で相談するようにしましょう。

若いうちから自分年金づくり

公的な仕組みが整いつつある一方であくまでそれらはセーフティネットにすぎません。より自分の人生に沿う形で自分年金づくりをやっていくことが望ましいですし、香港の民間金融機関としても様々な年金保険商品でそれをサポートできるようになっています。

特に安心安全以上に香港の方々の利回りに対する目線は厳しいもので、公的な仕組みが提供するような利回り(4%程度)では将来のインフレに対して備え切れないことを知っていますし、さらに高い利回りをと思う気持ちも強いようです。

低金利が数十年続く日本にいたことを思えばこうした利回りは魅力的に移ることもあります。香港にいることでの環境の変化を捉えて、若いうちからでも香港の年金保険を利用した自分年金づくりに励むことも必要なのかもしれません。

老後の生活費を知るところから

年金制度や選択肢について知ることはできても、実際自分自身がどのくらい年金を必要としているのかは分かりづらいですよね。持ち家でなかったとしたら、将来の香港での家賃は一体どのようだと想像しますか。

一方でMPFにしても自分年金づくりにしても、比較的長期での資産運用になりますから、こちらも行き当たりばったりではなく、老後の生活費や余暇にかける費用をはじめとしたお金のプランを予め立てておくことが非常に大事になってきます。老後を香港で過ごすのか、あるいは母国などで過ごすのかを含めて、少し時間をとって考えるところからスタートしてもいいかもしれませんね。

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