国際金融のトリレンマを知れば、各国の通貨政策の方向性と転換点が見えてくるかもしれない。不可能な三位一体にどのように取り組んでいるか。

国際金融の3つの要

①金融政策の独立性

代表例として分かりやすいのは香港で、厳密には香港には中央銀行が存在しない。通貨はカレンシーボード制を採用する、実質米ドルペッグである。これを維持するためにも米国の中央銀行が利上げをすれば、香港の中央銀行に相当するHKMAは利上げを行うことになる。通貨を防衛するために為替の売買を行うとはいえ、これは金融政策の独立性とは考えられていない。

一方、ユーロ圏の諸国についても、ユーロ圏としての中央銀行たるECBに従い、各国の中央銀行はECBに意見を集約することになっている。そのため、ECBとしては域外に対して金融政策の独立性を持つが、各国の目線から見て、それぞれが独立性を持つとは考えられない。

②為替相場の安定性

為替の安定とは、どこの国も目指していそうなものではあるが、実際のところほとんどの先進国が諦めているものでもある。国内の経済を安定させるために金融政策を行えば、金利が上下し、内外金利差から資本移動が起こる、つまり為替相場は変動することになるからである。かつては固定相場制あるいは金本位制が存在したが、結果的には変動相場制に移行した先進国が多い。経済や金融が成熟すれば、相対的には強固な位置にいられる、と考えられるからでもある。

③自由な資本移動

国際社会に身を置くとはいえ、それが影響する程度を抑えたいとすれば、資本移動を制限するのが答えである、と言える。国外との壁を築くことで金融政策の波及効果をコントロールでき、為替相場も意図的に安定させることは可能である。

代表例としては中国であり、厳格な資本移動制約が存在する。これによって通貨を安定させることができると考えられるが、同時に市場開放をも目指していることにより、安定している、というイメージはそれほどないかもしれない。つまり、資本移動の制約の強弱を調整しながら、漸進的な変化を受け入れている、というのが正確なところである。

新興国で政治不安が起これば資本移動を自由にしていれば、資本が流出して歯止めがかからない事態に陥る。そのため資本移動を制約すれば、金融政策により抑え込みができるようになるわけである。

国際金融のトリレンマ

国際金融のトリレンマ(Impossible Trinity)とは、上記に挙げた3つの要素のうち、必ずどれか一つを諦めなければならない、とする説である。提唱したのは米国の経済学者マーカス・フレミングとカナダの経済学者ロバート・マンデルである。

イメージ的には二本脚よりも三脚の方がバランスが取れているように思えるかもしれないが、実際はそうではないというのである。不可能な三位一体と言われる所以でもある。

国民から見れば、必ずどれかが欠けていることになるため、通貨政策には常に不満が残りやすいことは想像に難くない。と同時に、自身が身を置く国がどれを諦めているのかを知るのは極めて重要なことであると考えられる。

不可能な三位一体

とはいえ、3つの要素を同時に達成することはそれぞれの国にとって至上命題であるかのようにも思える。

実際に3つ同時の実現を目指した結果、1997年にアジア通貨危機は起こったとされる。発展途上国として資本移動の自由化を進めつつ、米ドルペッグ制を採用したことにより、過大な資本流入を招く結果となり、後に米ドルペッグ制を放棄、通貨を暴落させることになったわけである。早すぎる資本移動の自由化に警鐘を鳴らした形だ。

とはいえ、先に触れたとおり、中国はこの三位一体のバランスを取ろうとする、いわば三兎を追う状態にある。どれかに明確に振り切っておらず、政策が急に反転するイメージがあるのもこれに由来する。また、自由化が道半ばであると言われるのも何か特別なことを考えているわけでもなく、要点の変化に柔軟に対応しようとしているだけであるとも言える。

政策目標の変化

世界各国は実情に合わせて3つの要素を選択していることになる。国民にとって最もサプライズなのは、その優先順位のつけ方がガラッと変わる瞬間であろうと考えられる。よくよく考えてみれば、一つを諦めた結果残りの二つが実現できないのであれば、諦めるものを時代とともに変えていく必要があることも意味している。あるいは諦めたはずの一つを諦めすぎていないか再考する必要性に問われることもあっていい。

政策目標が変わるかどうかは、一つの放棄具合、残りの二つの実現度合いを見ていれば何か見えてくるものがあるのかもしれない。結果的には国際金融のトリレンマの示すような「潔い諦め」がいつもいつもできるものではないのだろう、と想像ができる。

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