海外駐在・海外在住のステータスになると、日本で新たに保険を購入することはできなくなることがある一方、海外の保険に加入することができるようになる。
特に香港では保険会社がひしめきあっており、日常的に使う銀行でも保険を勧められ、知り合いとしても保険募集人をやっている人に出会うことが多い。営業を受けたときに疑問に思っても聞くことをためらう人が多いと思われる、香港保険に関する聞きづらい質問に答えてみる。
目次
資産運用を目的として保険を買うのはアリなのか
香港保険の一つの特徴として、利回りの高さを挙げる人は多い。
死亡保障がしっかりしたもの以外にも、貯蓄型保険とも呼べる、長期の定期預金のような感覚で購入を検討する場合がある。銀行にそのまま置いておくよりはいいし、5〜10年くらい契約しておけば少なくとも元本割れを起こすことはなくなる、というところに魅力を感じる人もいるわけだ。
保険会社は預かったお金を金融市場で運用し、保険加入者に対して還元することを目指している。その運用が上手くいけばそれなりの利回りになるし、逆に保険会社だからこそ無理のない運用に落ちつき、ミラクルな利回りは期待できない。
保険会社は資産運用会社ではない
よくよく考えてもらえば分かるが、保険会社は保険商品を提供しているのであって投資商品を提供しているわけではない。
つまり、保険会社が提供するものはどこまでいっても保険である。そうでなければ、投資商品を提供するために証券業のライセンスを持つ必要がある意味がなくなってしまう。保険商品は投資商品ではない。
原理原則として、保険会社に資産運用の機能を求めるべきではない、というのはここから言えるとは思う。最終的にどこかに投資をするのに保険会社という一枚レイヤー(層)を加えてしまっている。
ただ、一層分のコストを払った上で、リターンのアップサイドを削ってでもダウンサイドを減らすという意味で、リスクの移転が可能な保険会社に分がないわけではない。
解約を前提とした検討には矛盾がある
確かに、解約できないこと、解約すると損失が出得ることは顧客にとってはリスクであり、可能なら回避したいと思う。よって、解約返戻金が支払保険料を上回る時期(=ブレークイーブン)が早く設定してあると安心する人が多い。ブレークイーブンの時期の確認は大事である。
しかし、ブレークイーブンが訪れたときの利回りはゼロであり、しかもそれまでの数年間は利回りが絶対にマイナスである。もし資産運用を目的としているならば、この数年間にも利益を上げる可能性があったという意味で、機会損失は大きい。
それにブレークイーブンを意識しすぎる人ほど、ブレークイーブンを過ぎたらすぐに解約する人が多い、というのは(私のクライアントではないものの)経験的に見聞きする機会がある。
そもそもいざとなれば解約できるシチュエーションを求めること自体が、現金化のニーズが強い人なのか、何か継続サポートに懸念があるのかで、本来保険を契約すべきかどうかのギリギリのラインにいる人のようにも思う。元本保証は大事だが、そもそも数年かけても一円の利益も出ないことを冷静に考えてみるとよい。
一方、保険の営業員にとってこのギリギリのラインでのせめぎ合いに対する関心は薄い。
なぜなら、当初の数年で保険の営業から得られるコミッション(販売手数料)は回収でき、よほど早期の解約でなければペナルティもないからである。ブレークイーブンを過ぎた頃に解約を持ちかけたり、数年経った頃に保険料の支払いを止めさせたりして、別の商品を勧め、再びコミッションを得ようとする営業員がいるのにはこのあたりの事情がある。
営業員のお勧めにしたがっておけば間違いないのか
保険の営業においては、顧客と営業員の間でいくばくかの利益相反がある、と個人的には思う。
なぜなら、保険会社から営業員に対して支払われるコミッション(販売手数料)は顧客の保険料から工面される以外にはないので、コミッションが高い商品は自ずから顧客の契約条件を悪化させることに繋がるからである。
もちろん、保険商品として金融当局から認可を得ている以上、法外な手数料にはならないが、営業員が“お勧めの商品”を決めるにあたって、自分にとっての収益の部分を加味しない、ということはない。
つまり、顧客が納得しそう範囲で可能な限りコミッションが多いもので勝負することにインセンティブが働くことは知っておくべきだろう。このインセンティブに抗う方法は、どれだけ顧客本位な考え方ができて、あるいは収益プレッシャーに負けないか、というその人の努力がメインになる。
リレーションが築けていて、コミュニケーションコストが削減できるケース、よりよい提案をすることにモチベーションが起こるケースも該当し得る。“お勧め”されている理由に疑念が湧いたときはここに答えがあることは少なくない。
保険の相談料は無料で本当にいいのか
保険の相談において相談料が請求されることは多くない(と思う)。ただし、仕事の依頼であり、何らかのアドバイスを受けたことに対して費用が全く発生しないことは逆に違和感がある。
レストランに例えるならば、料理を食べたのに支払いが発生しないのと同じ状況である。あるいはサービスをしてくれたウェイターにチップを払うかどうかと似ているかもしれない。
①予め料理の代金にサービス料が含まれている、②チップ(10%)が自動的に加算される仕組みになっている、③顧客がチップの金額に合意をしたら請求することにしている、などがあろう。
レストランでもきっと悩むが、サービスが良くても悪くてもチップが発生することはあるし、チップに見合ったサービスを受けたのかは良くわからない局面はある。料理だって値段に見合うかどうかは分からないが、よほど問題がなければ支払いをきちんと済ませる人がほとんどだろう。結局はその店のやり方に従うしかない。
保険の話に戻せば、相談料が発生していないとしたら、基本はセルフサービスに近い状態なのであって、あるいはサポートをしてくれるにしてもほどほどの範囲は超えないだろうことは想像に難くない。
保険契約は、レストランでの一回の食事やあるいはアパレルショップでのショッピングのように、ダメだったら違うところへ行けばよい、といえるほど小さな買い物ではないのも事実だ。
したがって、誰彼問わずどの保険商品がお勧めか、ではなく、その人自身のライフプラン全体に照らして、保険のいるいらないも含めて中立的に相談ができることは大事であると考える。
香港の保険には税金がかからないというのは本当か
香港においては贈与税や相続税がないし、キャピタルゲインやインカムゲインに対する課税がない。
保険商品のライフサイクルのどこをとっても課税のポイントがないのである。それゆえに保険契約の名義人や被保険者を無限に書き換えられる商品まである。その上、一部には税控除ができる商品もある。これは確かに真実だ。
一方で、香港の保険商品だからといって他国で課税の対象にならない、というのは残念ながら前提としては持つべきではない。詳しい税務アドバイスは当然ながら各国の税務アドバイザー(日本なら税理士)に求めるべきものであり、特に香港を離れて他国で生活する可能性のある人は特に予めこの点を検討できるとよい。
ローカルな保険の営業員に日本での税制上の取り扱いについて聞いて何らか自分を納得させても仕方がない。課税とは課税当局が決めるもので、それに向けたサポートを税務アドバイザーが行う。
帰国前に駆け込みで保険を買った方がいいのか
海外にいる間しか、香港の保険を買うことができない、というのは確かにある。香港の保険の営業員が日本に行って保険の勧誘はできないからである。だから、帰国前にやり残したこととして、駆け込みで保険を買おうと考える人がいる。
ただ、住む国が変わるということは非常に大きなライフステージの変化の一つである、ということを忘れてはいけない。こうした変化のタイミングは保険の見直しのタイミングでもあり、焦って何かをするのは避けた方がよい。
もし保険の購入を検討するのであれば、身辺が落ち着いており、冷静に、そして家族がいるのであれば家族とともに判断できるタイミングが最も良いと個人的には思う。
香港を離れても保険料を支払い続けることは本当にできるのか
香港に長くいるとしても恐らく保険の契約期間はそれよりも長い。香港の場合は65歳までといったものよりは、せいぜい20年くらい、場合によっては2年や3年で保険料の払込が終わるものが多い。それでも、保険料を支払う全ての期間に香港にいられる保証がどれくらいあるだろうか、と不安になる人もいる。
保険料が払えなければ保険契約が消滅することはある。一つの解決策としては香港の銀行口座を維持することであり、オンラインバンキングでも設定しておけばいい。ただし、何らかの理由で銀行口座にアクセスできなくなったときに香港に来なければならない、という可能性はゼロではない。
それ以外には保険会社が一部のクレジットカードでの保険料支払いを認めている場合がある。
銀行口座を閉鎖したとしても支払いは継続できるが、クレジットカードの有効期限には気をつけなければならない。もちろん、海外送金により保険料を支払うことは可能だが、手数料や頻度によっては現実的ではないだろう。
もう一つは、将来住む場所が変わったのであればまた新たな保険に入るのが適当なときがあることは意識しておきたい。
なので、日本帰国後に保険料が支払えるのかの心配をするのではなく、日本帰国がほぼ確実なのであればそれを見据えた保険料の支払期間(例えば5年間まで等)を選ぶことも選択肢であろうと思う。余剰資金を元手に、というのであれば一括払いのみで考えるというのも一つの答えではある。
日本人から保険を購入する意味はどこにあるのか
日本人で香港の保険を取り扱う人は少なからずいる。いやそれ以上にローカルの保険の営業員はもっとたくさんいる。その中で、日本人から、あるいはその人から購入するのかは大きな違いをもたらすだろうか。
どこにいっても商品が同じなのだからどこで保険を買っても同じだという意見をもっている人はいる。保険商品をショッピングする感覚の人はこれに近いので、恐らく自分で保険のパンフレットを見て判断してしまうし、何ならオンラインでもいいとすら感じる人だろう。
一方で、金額が大きくなるほど、自分の人生に及ぼす影響が大きくなるため、本来はより適切なルートで相談し、十分プランニングした上で購入すべきであるとは言える。商品選びに多大な労力をかけすぎていないかは冷静になって考えてみて欲しい。
時々、保険のプロかと思うくらい詳しい顧客に出会うが、よほど好奇心がある場合を除いては、そのような状況に至るまで適切なアドバイザーに出会わなかったことを嘆くべきである。
担当が日本人であることの意味としては、一つには日本語対応であるし、提出書類の翻訳かもしれないが、それ以上に日本人の感覚に合った商品選択をし、将来の影響について思いを巡らすことのできる立場にあるというのも挙げられる。カスタマーサポートも大事ではあるが、アドバイスも大事である。
ともすれば、保険を売って稼ぐことに一生懸命になって、顧客フォローが疎かになりがちなのが保険の営業員の世界ではある。どのような働き方をしているか、そして人柄を知り、商品に縛られ過ぎず、より長い目でみて付き合いやすい担当を探してみる、というのは意外と大事かもしれない。