皆さんはお財布から出ていくお金に優先順位があることを理解しているでしょうか。もちろん自分が積極的にお金を払っているのは何か、というのも一つの優先順位ですが、それは多くの場合義務ではありません。税金と負債の返済、これらは待ったがかけられない(待ったをかけるべきでない)ものの典型です。今回は香港で働く人が備えるべき所得税の支払いについて考えてみます。なお、駐在でいらしていて、会社が税金関係は全部やってくれる、という人には無縁なので悪しからず。

香港での所得税

香港は税金がとにかく安い。日本だけでなく、世界の他の地域と比べてもやはり安いです。ただ、それでも働いて稼いだお金に対しては税金がかかります。所得税ですね。

香港でも所得税は毎年自分で税務申告(Tax Return)をする必要があります。申告が受理されれば、税務局(Inland Revenue Department)から納税通知が届きます。申告から納税期限までは9-12ヶ月くらいはあるわけですが、忘れた頃にまとまった現金が出ていくことに変わりはありません。

税務申告を簡素化する

納税金額は予め大体予測ができますが、準備していない人にとっては突然の多額の出費のように映ります。納税を意識する一番の方法は、やはり税務申告そのものについて理解することです。もし税務申告用紙が届くのを毎回待っているのであればまずはe-Tax(電子申告)に移行してみましょう。

登録ができれば、次回からは申告期限なども適宜通知されます。香港では引っ越す人が多いので、住所が正しく反映されていなくて用紙が届かない、というケースが非常に多いと想像されます。それに紙の様式だと(関係ないところも多く)どう埋めていいかもよく分からない、という人だっています。e-Taxを利用すれば(もちろんやっていることは紙と一緒ですが)税務申告は簡素化され、ハードルは下がる、と個人的には思います。

昔はどんなに遅くなっても税務局に直接行って話をすれば大丈夫だった、と語る人もいますが、今やデジタルの時代、お互いにスマートな方法を選びましょう。

香港の予定納税

香港の所得税は次年度分の予定納税が存在します。基本的には当年度を横引っ張りした数字で、予め税金の納付書が届きます。香港に来てすぐの場合、タイミングによっては丸々二年分に相当する税金を払わないといけなくなるので、結構驚く人がいるようです。当然その次の年からは、予定納税分と実際の納税額の差分、それから次の年度の予定納税分の合計額になりますから、実質的には一年分という感じです。予定納税額は機械的なので、年度毎に所得が大きく上振れたり、下振れたりする人は特別厄介に思うかもしれません。

納税引当金(TRCs)を利用する

知らない人が多い割に使ってみると結構便利なのが、納税引当金(Tax Reserve Certificates, TRCs)です。個人的には税金積立と呼ぶことにしています。

引当金というのは、将来発生する損失に対して、予め費用を計上する、という性質のものです。簿記などを習ったことのある人は心得があるかもしれません。

納税引当金と呼ぶからには、将来発生するであろう税金に備えて、予め積立を行っていくことを意図しています。積立を行なう口座は税務局に書面を送って開設してもらい、そこに定期的ないし必要に応じてお金を入れていくスタイルです。積み立てる際に購入するものが、TRCsであり、購入時点での銀行での3ヶ月定期預金並みの利息がつく(0.925%, 2023年9月時点)こととされています。このTRCsは、納税のタイミングになれば自動的に償還され、税金の支払いに充てられることになります。納税引当金を納税に充てる旨のレター(Redemption Proposal)が来た後、実際納税期限に合わせてIRD側で自動処理をしてくれるので、納税期限を忘れていても大丈夫です。もちろん積立が足りなければ差額を自分で払う必要はあるのでそこは注意です。

積立額はHK$300からでそれ以上は350, 400といった具合にHK$50刻みで金額を決められます。毎月定額を積み立てるのであれば銀行口座引き落としを設定(Direct Debit Authorization)すると良いですし、それ以外のタイミングでもATMやPPS, 銀行のインターネットバンキングなどからいつでも積立が可能です。

納税引当金の状況を知る方法

積立額が一体いくらなのかという情報はまずeTaxの画面で見ることが可能です。ATMなどで積立てたときはシステム反映されるまでは通知書(Advice)などを念のため保管しておきましょう。また、毎年8月末時点での残高はステートメントとして9月中旬頃送られてきます。

注意点としては、TRCsに付与される利息は最大で36ヶ月間だということと、利息を加味するのは納税のときだけなので、利息がつくからといって大量に購入したところで、納税に使わずに出金した場合は利息もなかったことになるようです。IRDの提供する口座とはいえ、解約・出金自体はできますので、その意味では安心して構いません。なお、納税の際は、古い日付のTRCsから優先的に償還されていきますので、また次の年の納税に向けて積立を続けることが肝心です。

納税引当金のメリット

利息がきちんとつくとはいえ、結局は納税資金として出ていくわけなので、もともと自分でお金の管理ができる、という人にはメリットは薄く感じられるかもしれません。

ただ、所得も稼いだものの積み上げである以上、所得を受け取るたびに一定割合を引き当てていくこと自体は非常に合理的であり、最終的には負担が小さく感じることにも繋がります。利息分は実際、納税額を小さくしますしね。

気づいたら貯蓄を使い込んでいて、納税資金が足りなくなったので慌てて銀行ローンに駆け込む、というのは避けたい事態であり、そこから資金繰りが一気に悪化する可能性だって否定できません。あまり例として聞くわけではありませんが、納税が遅れるなどした場合、永久居民の申請時に影響が出る、といったことも考えられないわけではありません。

特に銀行口座引落にしておけば、いつの間にかお財布から出ていっているお金ですから、あまり気にはなりません。納税引当金はあくまで納税者にとってのオプションですから絶対に使わなければならないものでもありませんが、まずはほんの少しから始めて、使い勝手が良いな、と思えたのであれば、定期的に積立状況を見直していけばいいのです。少なくとも、納税意識の醸成と、税金を効率的に払う習慣作りには大いに役に立つと思います。

なお、本稿から一歩踏み込み、細かな税務申告の内容がご不明な場合、専門家に相談することが推奨されます。

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