他国に移住するにあたっては、住む場所を決め、新しい仕事を見つけ、子どもたちの通う学校を探すといった検討が必要になる。これだけでも十分大変だとは思うが、実際に移動をする前に、自分自身の経済環境と、それによって得られる優位性について考えることは非常に重要である。とりわけ、英国に移住するケースにおいて、税金の問題を考えたか考えなかったかで雲泥の差となることは意外と意識されていない。
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英国における居住性と原籍
英国では、HMRCが課税を行うが、それには居住性と原籍が考慮される。居住性は今どこに住んでいるかが基礎になるが、原籍についてはやや複雑である。なぜなら、それは、ご自身がどこに起源を持つか、ということによるからである。起源というと分かりづらいかもしれないが、要はどこで生まれたか、あるいは親がどこから来たのか、という話である。原籍は受動的に取得するものとも限らず、自ら選べるときもある。例えば、16歳になり、無期限で他の国に移住することを選ぶ場合などである。
さて、それは日本人としての自分に関係があるのか、と思った人もいるかもしれないが、確かに多くの話は英国籍の人に当てはまる考え方である。だが、国外に出て暮らす英国人と出会い、子どもを授かり、そして住む場所を改めて考えたとき、行動に移す前にプランニングをすることが家族にとって最適になる、とは言える。知らなかった、が何よりも怖い。
英国に関わる人もそうでない人も、居住性と原籍の違いを理解することは今日では極めて重要であり、今すぐにはご自身に関係がなくても、世の中における一つの考え方が確かにここにあることは知っておきたい。そのことは国際相続においても影響があり得る。
英国の税制を知る
英国は全世界課税のスタイルをとっており、英国居住者であり、かつ原籍を英国とするものは、全世界で発生する所得及び利益に対して英国で課税される。もし原籍が英国でない人が英国に住んでいる場合には、原籍が英国でないというステータスを登録することにより、英国内源泉所得に対してのみの課税になる。この場合、英国に資金を持ち込まない限り、海外での所得に英国で課税されることはなくなる(もちろん所得の発生した国で課税される可能性はある)。
少し複雑に思えるかもしれないが、英国における税制を理解するのは肝要であり、個人の状況に照らして考え、必要に応じて税務相談をすることが求められる。
例えば、英国に住んでいるものの、そこにずっと住むつもりはないとしたら、最初の15年間は先に述べた通り、英国内源泉所得と持ち込んだ資金のみが課税の対象である。しかし、その後は英国にずっと住む意思がなかったとしても、みなし原籍となり、全世界課税のスタイルへと移行する。
日本もそうだが、全世界課税というのは実に厄介であり、同時に工夫の余地があるものである。どのような投資を行うのか、どういう名目で所得を受け取るのか、そしてどこの銀行口座でそれを受け取るのか、プランニングするだけで結果が変わってくる。特に海外で資金を借りて移住後の住まいを買おうと思っているのであれば、まさにちょっと待ったの話である、と申し上げておきたい。
ウェルスプランニングの有用性
細かなアドバイスは専門家に頼るとして、ご自身がどのようなことに優先的に取り組むべきかというと、まずはお金周りの情報を蓄積することから始まる。何をしたのか、今どうなっているのか、情報がないことには考えようもないからである。どういう情報を残しておくべきかを知ることも重要であると言える。
情報という意味では、信用を残すことも重要になってくる。例えば英国でのクレジットスコアは新しく来た人は低いので、すぐに住宅ローンが組めるとは限らない。クレジットスコアを良くするのには時間がかかるため、家を買おうと思っているのであれば早めに取り掛かるべきであると言える。
また、いずれ英国に住むにしても、海外で築いた資産をどのように扱うかによって英国内での税率は変わってくる可能性がある。どのように扱うか、の部分に関しては、英国移住前10年前には既にカウントダウンがスタートしていると考えていい。先々のことを見据えて早く動くほど、家族に残せるものは増える。英国の税制に直接引っかからない海外生活のうちにこそ考えるべきことが存在するわけである。