海外で生活し、資産を保有するようになると資産ポータビリティの重要性に気付く。求めるサービスに辿り着くために意識すべきことはあるのか。
目次
なぜ資産ポータビリティが重要なのか
資産家にとって、居住地の変更はライフスタイル上のニーズであることが多い。
しかし、手ぶらで飛行機に乗るフットワークの軽さがあったところで、本人に紐付く資産の引越しがスムーズにいくわけではない。ある資産はその国から離れることができないし、またある資産は別の国へ持っていこうとすると多くの税金を取られることがある。
一定の資産が形成されたところで、資産家にとって資産のポータビリティという一つの大きな壁にぶち当たるわけである。
年金、投資ファンド、信託にしても、各国での法的な建て付けと税制上の解釈は異なる。わずかな法的な解釈の違いが、別の国では法的に認められない商品やスキームとなり得る。世界最強のパスポートを持ったところでこの問題に解決策を提示してくれるわけではない。
商品やスキームは、常に再分類のリスクを抱え、より高い税率適用の可能性を秘め、相続対策上の困難さをもたらす。
このような事情から資産のポータビリティを高めることに資産家としてのニーズがあることは確かである。
資産ポータビリティのメリット
資産がポータブルな状態とはどうなっていることだろうか。以下が例示できる。
- 現地での法令に遵守している
- 現地税法上のメリットが享受できる
- 現地メカニズムに基づいて資産承継プランニングができる
- 居住地での税務報告がシンプルである
全てが満たされるかどうかは分からないが、いずれも不透明なままでいることは好ましくない。
また、
- アドバイザーとのリレーションを継続できる
- 投資マネージャーを変更しなくてよい
- 投資を売却・解約しなくてよい
- 将来の移住を踏まえたアドバイスが受けられる
気づかぬうちに諦めてしまうような話ばかりであるが、これも満たすことは可能である。
つまるところ、ポータビリティがもたらすのは柔軟性と選択肢である。逆にいえば何もしなければ柔軟でもないし選択肢も多くない、という話である。
資産ポータビリティのデメリット
ポータビリティというのはある種の保険であるからして、コストを払うだけの意味を感じないという人も確かにいる。
あるいは若いうち(or 資産額が大きくないうち)はあまり意識していないのも事実である。
資産の種類によってはそのコストが非常に高くつくように見えるが、早くに備えておいた方が総合的には安くつくケースの方が多いようには思う。
また、アドバイザーや投資マネージャーはポータビリティを好まない場合がある。本来顧客のファイナンシャルニーズに応えることを仕事にしているのに、ポータビリティには積極的でないことがあるのは、顧客の資金流出を恐れていたり、あるいは自社だけで全てのサービスを提供したいと考えたりするからである。ポータビリティに対応できる金融機関自体が少ない、とは言えると思う。
ポータビリティを実現する方法
ポータビリティを実現するためには、ポータビリティについて真剣に向き合うことが必要である。
そのためにできることは、
- 死亡のリスクを考慮する
- 資産に対する投資家からのコントロールのレベルを変更する
- 受益人を指定する
- アドバイザーへの報酬支払を行う
- 税務報告を適切に行う
などが挙げられる。
多くの資産家はポータビリティが理想であると心のどこかで思いながらも、それが複雑な問題をもたらすと思って目を逸らし、まるでリスがどんぐりを隠すかの如く振舞う。結果、何かが起こったときに隠した場所を誰も知らないか、発見したときにはどんぐりの保管状態が良くない、ということになる。
移住に伴う資産のプランニングにはプロフェッショナルの力が必要になるのは言うまでもない。
- イギリス
- フランス
- スペイン
- ポルトガル
- オーストラリア
- アメリカ
など、どこへ行くにしても、事前に何かをしておくだけで結果は随分と変わってくる可能性がある。
資産フライトと資産ポータビリティは同じか、という質問はあり得る。答えはNoだ。
資産をフライトさせるには、旅行の荷物同様、パッキング(梱包)しやすいように形を変えねばならないことの方が多い。
資産ポータビリティとはむしろアクセシビリティであるといった方が理解しやすいかもしれない。
世界中どこにいても資産にアクセスができる状態が理想である。移住する毎に口座を開いたり閉じたり、資産を売却したり購入したりしていては効率が悪い。
ご自身にとって、資産ポータビリティが検討に値するものなのかどうか、一度考えるところから始めてみてはいかがだろうか。