日銀の金融政策がにわかに注目を集めている。ポスト黒田をどう演じるのか、政策変更は見られるのか、目が離せない。

日銀の金融政策スタンス

現在の日本銀行の金融政策スタンスの中で、イールドカーブコントロール(YCC)が異次元緩和の柱となっていることは知っている人が多いだろう。10年国債利回りの許容変動幅をゼロ近辺に誘導しているわけだが、2022年12月にはゼロ近辺の解釈を±0.5%に拡大した。もちろん今はマイナス金利ではないので、実質的には0.25%から0.5%への利上げ、とも受け取られてしまったわけだが、金融政策決定会合後の黒田総裁の発言では、緩和継続路線であることが確認されている。

また、2023年1月18日の会合では共通担保資金供給オペが拡充されているので、日銀の金融政策スタンス自体が変わった、と受け止めるには時期尚早であるとも言える。また、植田総裁に交代したのちも、金利のレンジは±1.0%に拡大された。この時も、緩和継続路線であることが強調されている。

ただ、黒田総裁時は、一度市場の予想に反してパンドラの箱を開けてしまったことが様々な憶測を呼び、政策運営の難易度が上がった面はある。植田総裁時は同じく市場予想には反していたが、標的にはならなかった。

日銀総裁の交代

2023年4月8日には黒田・現日銀総裁の任期が満了を迎え、同じく、雨宮・現日銀副総裁も2023年3月19日に任期満了となるため、同時に次の人にバトンを渡した。残念ながら長年続けてきた金融緩和も出口からはまだ遠く、それゆえにポスト黒田がそれを担うことは重責であると言える。路線を継承するのか、交代のタイミングで何か政策を打つのか、その顔ぶれ次第で大きく動く可能性は確かにあると囁かれた。ただ、実際は植田総裁の着任から、抜本的な改革は行われていない。

日銀政策決定会合自体は多数決で行われるものの、やはりトップの意向は強く働く。そして、日銀は政府と独立した意思決定を求められる一方で、政府の財政政策とも非常に密接に関係をしてくるので、時の政権の意向も汲まれることが想定される。

日銀総裁の交代は、日本経済の方向性を左右するとともに、内外から注目される大きなイベントであったが、無難に交代が行われた、と評価はできよう。

金利動向が気になる人

日銀といえば、もともとは公定歩合と呼ばれる短期金利の調整を行なっている。市中の各銀行は日銀に当座預金口座を持っており、短期金利が変われば各銀行から預金者への預金金利が変わる仕組みである。短期金利から波及して中期、長期の金利カーブの形成が行われ、それによって経済を回している。

これまでも国債の買入は行なってきたものの、異次元緩和という名のもとに長期金利=10年国債利回りの”水準”にまで言及したのは歴史的にも初めての試みではあった。しかも長短ともにゼロ近辺ということであれば、自然と10年以内の金利は全てゼロ近辺に収束せざるを得ない、という目算であった。

ただ、厳密にはやはり短期金利と10年の金利にしか触れていないため、市場原理により中期の金利や超長期の金利がゼロから乖離を始めれば、金利カーブとしてはいびつになる。

本来あるべき市場の価格を歪めるのが日銀の金融政策である、だから金融緩和と言える、というのは間違っていないが、そうは言ってもオペレーション上の限界があるのではないか、とも指摘される。

金利が上昇して最も困るのは、恐らく住宅ローンの契約者であろうと思われる。長期で借入をしており、ほぼゼロ金利だと当て込んでいたのであれば金利上昇の影響について考えておく必要がある。これから新規に住宅購入をしようというのであれば、タイミングを待つことが良いのか、早く固定金利で固めた方がいいのか、悩むところではあると思う。

ただ一つ言えることは、ゼロ金利が長期にわたって続きすぎることは経済にとって良いことかは分からないので、ゼロ金利がこの先も続く、という賭けに勝つことを想定しておくべきではない。リスク管理は重要である。

為替動向が気になる人

厳密な話をするならば、日銀は為替動向を気にはするものの、為替介入を自らの判断で行うことはない。あくまで為替介入に関する意思決定を行い、実施するのは財務省のトップ、財務大臣であり、日銀はそのオペレーションを担当するのみである。

しかしながら、日銀が主体的に関与する金利という分野は金融市場の根幹を形成しており、金利が動けば為替が動き、株価が動く、という性質を持つ。そういう意味において、日銀の政策決定が金利のみならず、それ以外の金融市場にどのように波及するかを踏まえてなされる、というのは間違いではない。

2022年(令和4年)には、9月22日に、為替介入、正式には外国為替平衡操作が実施され、2兆8,382億円の米ドル売り/日本円買いが行われたと財務省からは公表されている。

当時は急速に米ドル高日本円安が進行し、ファンダメンタルズから乖離した投機的な動きも確認できると理解された。この為替介入自体が奏功してトレンドが変わったわけではなかったが、2023年初めには米ドル安日本円高に振れることになる。

為替市場を動かす要因は様々あるが、やはり日米の金融政策の方向性の違いがスポットライトを浴びやすく、したがって日銀の動向にも目が離せないわけである。

株価動向が気になる人

本来、中央銀行は株式市場に直接関与することはない。しかしながら、日銀の場合は日本株ETFの購入を通じて株価を下支えしている面はある。個社の株式を扱っているわけではないにせよ、株価には満期がないため、日銀の金融政策が正常化するのであればどこかの時点では売却しなければならない運命である。

日銀が株価を支えている、という事実はある程度投資家を安心させてはいるかもしれないが、逆に投資家マインドを刺激して株価がどんどん上がっていく、ということには繋がっていない。やはり、アベノミクスのようなフレーズで政治と経済が主導して国の成長をもたらすイメージができる方が投資家にとっては重要なことのように思える。

日銀が目指すもの

日銀は銀行の銀行であり、日本の金融システムの中核に位置付けられる存在である。最も大きな責務は物価の安定であり、それは今も昔も、そしてこれからも変わらない。特に日本の場合は、あの手この手を尽くしてもその緩やかな物価上昇すらままならないまま数十年が過ぎた。

足元の物価上昇が異次元緩和の結果であれば日銀としての役割は縮小できるわけだが、残念ながら外的な要因が重なって物価上昇に向かった、というのが識者の見解ではあろう。一時的な要因も多いが、これを起爆剤として、賃金上昇などが定着するのであれば、日銀が手綱を緩めることもできるだろうが、果たして本当にその長いトンネルから抜け出す出口に向かう一筋の光が見えている状況なのかは分からない。

逆に多くの人の認識としては日本の景気が良くなって欲しいという状況であり、果たして金融政策の出口に向かうことがその思いに寄り添うものとは言えないし、日銀が味方でなくなるとしたときの自衛の術について考えておく必要はあるのかもしれない。

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