大手金融機関の勤め人であること以外にも、独立系の金融サービスを目指す道がある。近年はプライベートバンキングの世界でもEAMという形態が普及してきている。その基本的な背景をまとめてみよう。
目次
そもそもEAMとは何か
資産管理をするにあたって、EAM(External Asset Manager、エクスターナル・アセット・マネージャー)という仕組みがある。これ自体は何十年も昔からあるのだが、近年EAM契約は普及が加速している。
単にプライベートバンクなどの口座を作って、そこでついた担当者に運用を任せるのではなく、お金の置き場としての口座はありながらも、外部の投資顧問会社やアドバイザーを任命して、中立的なアドバイスを受けながら運用を行う方法のことを指す。つまるところ、プライベートバンクなどの口座はあくまでプラットフォームとして活用されているわけである。
プライベートバンクを紹介することで紹介料を得ることを目的に活動することと違って、EAMの場合は、あくまで外部の正規金融ライセンス業者として正式なビジネスリレーションのもとにプラットフォームとして利用することになる。顧客からの費用の取り方も、プラットフォーム費用と同じように、口座から自動的に引き落とされ、アドバイザーに支払われることが一般的だ。
EAMデスクは別管理
プライベートバンクなどの口座=資産の置き場のことをカストディと呼ぶが、従来であればそこに自社の担当者がついてジャパンデスク、などと名乗っていたわけであるが、これだとカストディにとってはBtoCのビジネスになる。
一方、EAMの仕組みにおいては、カストディはあくまでBtoBのビジネスを行うことを想定しており、それゆえにEAMデスクは外部の投資顧問会社やアドバイザーとやりとりをするだけで、直接顧客対応を行わないことにしているケースが多い。一般に、顧客対応というのは時間も費用もかかるパートであり、カストディとしてはこれを外注することにより効率化を図っているのである。
スケールメリットを活かせる
EAMを利用することの利点の一つは、スケールメリットにある。一人の顧客としては十分な資産規模でなくても、EAMの担当者、あるいはアドバイザーファームが顧客をとりまとめることにより、より価格交渉力が生まれ、サービスも柔軟になり得る。
ただ、利用するカストディによっては預かり資産の最低額はあり、これを下げることに繋がるとは限らない。場合によってはコンプライアンス費用の増加などによって口座開設維持の敷居は高くなっていくかもしれない。
何か新しい投資商品が出てきたとしても、たった一人しか投資してくれないのであればプラットフォームとしても商品棚に載せるのは難しい。ただ、ある一定の取引が約束されるのであれば取り組みたいし、その初期コストさえクリアできると分かれば、プラットフォームとしても他のアドバイザーファームに横展開することもできる、そういうメリットはある。
営業目標はネックになり得る
EAM側にスケールメリットが生まれることが必ずしもカストディにとって良いとは限らない。
売上単価が下がるというのなら、より多くの顧客を連れて来てもらわねば困るというわけだ。だから、EAMに対する営業目標を契約に盛り込んでいるケースがある。新規のEAM契約を結ぶにあたって、⚪︎年以内に△△億円の預かり資産を築くこと、達成できなければ契約を打ち切る、といった話である。
もともとプライベートバンカー一人ひとりに課せられているものを、単にEAMを利用する会社に課しているだけではあるが、ノルマに変わりないので重たい。ギリギリまで頑張ったとして、到達せずに契約が打ち切られるとしたら、顧客はごっそりプライベートバンクのものになるからである。もちろん中にはアドバイザーファームについてきてくれる顧客もいるかもしれないがかなり手痛い。お互いに一部を外注してしまうことの弊害であろう。
EAMと投資一任の組み合わせ
カストディを上手く使いこなす、という点において、顧客はあまり力を発揮しないケースがある。もちろん長年プライベートバンクを使っていれば身に付くやりとりもあるだろうが、利用者にとってはできれば時間をかけてやりたくない面倒な事務、に他ならない。この点、EAMとしてはプラットフォームを使いこなし、より良いサービスを顧客に提供したいと思考錯誤できる。プラットフォーム選びもそのうちの一つかもしれない。
中でも、EAMは投資一任(Discretionary Investment、ディスクレショナリー・インベストメント)と組み合わせて提供されることが増えてきている。
ぶっちゃけ顧客としては資産管理をまるっと外注してしまいたい、というニーズが強いのである。その理由は、難しい金融商品について細かな説明を受け、自ら判断し、大量の書類に署名するよりは、本業の仕事やプライベートにより多くの時間を割きたいものだからである。ここで大切なのは信頼関係であり、安心して任せておけるかどうか、になってくる。
費用体系としても、日々の取引に対してかかる、というよりは預かり資産に対するマネジメントフィーとして年率1%などをかけている例が多いだろう。これに対してプラットフォーム側でもプラットフォームフィーとして年率0.2-0.3%などの残高連動費用が選択されていることが多い。仮に何も費用がかからず、口座が維持されているのなら、つまるところ赤字のお客様ということになり、短期的には良く見えても、いずれ口座閉鎖したり、あるいは業務撤退ということに繋がっていく。お互いに中長期でサステナブルな関係になれれば、手数料の高い商品などを高頻度で売買する必要性もない、というわけだ。これも富裕層ならではの損して得とれの部分ではあるかもしれない。