一昔前であれば、海外のプライベートバンクに口座開設をすることは富裕層にとって目標であったとも言える。今でもそういう人は確かにいる。一方で、近年は海外のプライベートバンクに対して不満を感じている人も少なからずいる。その背景についてまとめて見たいと思う。
目次
富裕層が抱くPBへの不満4つ
最低維持口座残高がどんどん上がる
一定の金額以上があれば口座開設ができるというプライベートバンクの性質から、まずはそれを目指してようやく達成したとしよう。どんな運用ができるのかと期待に胸を膨らませる。ところがその翌年には、最低維持口座残高が上がり、追加で資金を入れるか、それができないなら口座を閉鎖することを検討して欲しいと言われる。口座維持手数料を払えばそれでも維持できるケースもあるが、なにより「そんなことは聞いてない」のである。
この最低維持口座残高が上がる背景には、まずはプライベートバンクの顧客層の変化が挙げられる。経済成長している国からはどんどん富裕層が現れ、新規獲得に苦労しなくなれば、今後資産が伸びることのないリタイヤ層などは眼中になくなるのである。もう一つは、プライベートバンクから見た収益性であり、コンプライアンス費用などの増加により、ただ預金を置いておくだけでは口座を提供すること自体が赤字になり得る。かといって残高の少ない顧客に対して高い費用の商品ばかり勧めるのも限界がある。結果、取引ボリュームを想定して、顧客の選別を行うのである。
仮にこの最低維持口座残高を満たすために食らいついたところで、あくまで最低であり、つまるところプライベートバンカーとして多くの時間を割ける、メインの顧客とはなり得ない。プライベートバンクなので決して小さくない金額を預けているのに、まともな対応をしてもらえないとしたら、不満が残るのも頷ける。
口座開設がとにかく大変
ようやくプライベートバンクに口座開設できるだけの資金ができたとして、勇み足で向かったとしても、すぐに口座開設ができるわけではない、ということに驚く人は多い。近年のプライベートバンクでは、コンプライアンス上、身元や資金源のチェックなどが多く、提出させられる情報がとにかく多い。なんなら警察の取り調べかと思うくらいである。
そうこうするうちに3ヶ月から6ヶ月経つ頃にようやく口座が開設できるか、あるいはお断りの連絡を受け取るか、という話であり、一体これほどの期間何にどう時間がかかっていたのか、納得ができない人は多い。もうこの時点で最初の期待感は薄れ、過ぎた時間、そしてその間運用できなかった機会コストが意識されることになる。もちろん、金額だけ揃えたところで口座開設が約束されているわけでもない、ということに多くの人は思い至らない。
特別な運用方法の欠如
海外のプライベートバンクは謎に満ちていて、何かすごいことができるのだと思っている人はいる。富裕層専門の執事が錬金術のごとく資産を増やしてくれるものだと。確かに昔のプライベートバンクは情報が少なかった。すごいことをやっていたかは分からないが、今は少なくともオープンアーキテクチャを採用しており、基本的にはどこのプライベートバンクも同じようなことができる。
国毎に多少の違いはあるかもしれないが、特別な運用方法、というのはあまり多くない。ただ、確かに一般の人よりも幅広い金融商品にアクセスでき、かつ最低取引ロットが大きめに設定されているものはある。選択肢が広いからといって、だから特別に有利だ、ということはない。なんだ、これならば今までもできたではないか、しかももっと手数料安くできたではないか、となるわけだ。
銀行である必要性の薄さ
本来のプライベートバンクは銀行である。銀行は安心できる、という概念がある中で、プライベートバンクは多額の資産を置いておけるだけの安心感がある、と答える人は確かにいる。ただ、別に何か特別な保証が提供されているわけではないし、決して潰れない、ということもない。
強いて銀行である必要性を挙げるなら、お金を貸してくれることなのかもしれない。事業等に対してもそうだし、あるいは証券担保ローンという形で株や債券などの資産を担保にお金を借りることはできる。でも、これは海外のプライベートバンクの特権ではないから、日本でも利用できるし、なんだったら銀行以外でもそういう専門の担保ローンサービスを提供してくれる会社は存在する。
プライベートバンキングという言葉に置き換えるなら銀行という形態をとらずに様々なサービスが実際提供されている。プライベートバンクを利用する主たる目的が資産運用であったのであれば、それは証券会社でも十分に満たすことができる。銀行であることに最初はこだわる人もいるが、実際はそのこだわりがあまり合理的なものでないことに後から気付くのである。
不満の矛先をどこへ向けるか
色々書いてみたところで、それでもプライベートバンクの門戸を一度は叩いてみたいと感じるのかもしれない。やった後悔よりもやらなかった後悔、誰にでもできることではないのに自分にその資格があるなら、と思うものである。
もちろん、相性の良い担当者に出会い、そのまま長いお付き合いに発展する人だって中にはいるだろう。ただ、もし何か不満を感じる体験をしたのであれば、その原因について理解を深め、取り除ける性質のものであるのかは確かめたい。
大切な資産だからこそ、何の不安もなく置いておくことがベストである。プライベートバンクを去る勇気を持つこともまた、富裕層にとっての必要なスキルなのかもしれない。こだわりをもちすぎず、世の中の幅広いサービスからより良いものを選択していくことが肝心だ。