人生100年時代、老後に必要な資金は昔と比べて多いかもしれない。働いているうちは資産を増やすことができるが、老後を迎え、収入ではなく資産から支出が捻出されるようになると、資産の増加スピードは鈍化するか、あるいは資産が減少することは言うまでもない。

老後に向けて、長期でしっかりと資産を増やすためにはどのようにすればよいのか、解説してみたい。

運用リターンを欲張りすぎない

資産を伸ばす上で運用リターンは欠かせない。収入をコツコツと投資に回すだけでなく、リターンを通じてその伸びを加速させる必要は確かにある。しかし、リターンとリスクは表裏一体であるからして、大きなリスクを取り続ければ、確率的に大きな損失を抱えるときが長期的には必ずくる。時間がある分、焦らないことは大事だ。

運用益が吹き飛ぶのに対して人はどちらかといえば寛容ではあるが、元本が毀損されることに対しては抵抗が強い人が多い。投資の世界では、どちらも損であることに変わりはないし、元本だったかどうかで何か違いが生まれるわけでもないにもかかわらず、である。

だからといって気にするな、というのは実は難しい。できるだけ気にならないように対処する方法があるとしたら、コア運用とサテライト運用を分けて考えることである。コア運用とは、資金づくりの中核をなす部分であり、元本が毀損されることに対して強い抵抗を感じる割合を想定する。一方、サテライト運用はある程度積極的にリスクはとって、リターンも狙う、というものだ。

大事なのは、コア運用ではできるだけバランスよく分散投資を行い、中長期的にゆるやかな右肩上がりの資産の伸びを実現すること、そしてサテライト運用では、異なるコンセプトの投資を楽しむことである。ただし、どんな結果になってもコア運用にとって大きなノイズにならない割合を保つことである。

投資は面白い方が良い、リターンが高い方が良いとバイアスがかかりやすいことも事実であるから、その欲も満たさなければならない。

間違ってはいけないのは、サテライト運用から入って(失敗して)コア運用に落ち着くのではなく、コア運用部分が増えてきてからサテライト運用の割合を設定することである。

塩漬けという発想を捨てる

投資をして損失が出てしまい、すぐには取り戻せないが、損切りすることもせずにいずれ価値が戻ってくることを期待して待つことを“塩漬け”と呼ぶことがある。

損失が大きく膨らむのにはそれなりに理由がある。多くの場合、リスクを過小評価していたか、集中投資をしていたかである。大切なのは、損切りができないというシチュエーションにはもっていかないことである。

塩漬け認識してしまった投資対象があることは投資家としての目を全体として曇らせることがある。負け癖のようなもので、悪い投資習慣に陥ってしまうことがあるのだ。失敗した投資経験というのは後に引きずることがあるが、投資の世界は一人ひとりの投資家のことなど微塵も考えてはくれない。

損失が出ていたとしても投資ポートフォリオ の中での役割が変わっていなければそのままで全く問題ないし、あるいはただリバランスすればよいだけかもしれない。単独の投資としてパーセンテージで言って大きな損失だったとしても、資金全体からすれば少ない割合だったのであれば影響は軽微である。損失を取り戻すより、別のものでしっかりと利益を上げる方が楽である、とも考えられる。

早く資金づくりを始めるほど有利

贅沢をしないのであれば老後に必要な資金というのはある程度限度がある。だとしても、直前になって準備し始めるのと、早くから準備を始めるのではやはり後者の方が楽に感じるかもしれない。

もちろん、生活に十分な余裕がないうちに老後のことを考えて、というのも無理があるだろうから、若いうちは少しずつ始める、ということになる。

運用資金が少ないうちはリスクをたくさん取る、というのは正しいだろうか。一つには運用期間が長い分、リスクを取った結果、大当たりをする可能性も高くなる、というのはある。

ただ、コア運用を積み上げることを意識することができれば、大当たりに頼らずとも資金づくりは十分に可能である。

資金ができれば自ずと運用の選択肢も増え、無理をしなくてよくなってくる。若い人ほど勉強には熱心かもしれないが、ここで大切なことは、資金づくりであり、それはすなわちしっかり働いて稼ぐことである、というのは言うまでもない。

長期運用の妨げとなるもの

バブル相場であると言われている。明らかに割高であっても投資資金を積み上げ続けるべきだろうか。

投資において高値掴みほど不利であることを知っている人は多い。だとしたら資金を積み上げる過程においても、下がったときに買う方がよい、下がるまで待とうという人は確かにいる。

しかし、問題は、相場がどこまで下がるかは分からないということである。逆にいえばどこまで上がるかも分かることではない。あるいはある瞬間に予想をして当たったという事象があったとしても、それを繰り返すということはほぼ不可能に近い。

それでも心配をするようであれば、恐らくコア運用においてリスクを取りすぎている、と考えるのが自然かもしれない。少しだけリスク量を調節して、心配が減る状態に持っていくことは大事だ。

パフォーマンスが悪いものを切り、パフォーマンスが良かったものだけに厳選していくのはどうか。

近年は米国株式のパフォーマンスがよく、その他のものにあえて投資をした結果、なんだか損をした気分になっている人もいるかもしれない。総合して損失が出続けているようであれば修正の余地はあるかもしれないが、総合して利益が出ているのであれば、まずは投資家として必要な“分散”という考え方を身につけていることを自信に持つといい。

どんな投資でも集中投資をすれば失敗するリスクは高くなる。長期で運用に成功した方が良いと考えられるならば、パフォーマンスが悪いものを保有してしまったことを悔いる必要は全くない。次の半年、次の数年は全く逆のことが起こるかもしれないのだから。

仮想通貨や金に投資をするのはどうか。

老後のための資金づくりという観点であれば、仮想通貨や金は投資の対象に含める必要はあまりない。なぜなら、恒常的にリターンの源泉が存在する資産ではないからだ。もちろん、値動きで儲けられないとは言っていないし、インフレに対する耐性がないというものでもない。

資産保全という考え方からするならば、仮想通貨や金などの保有割合について知見を深める価値はある。

単に、老後のための資金づくりをする上では、値上がりしたら売ってまた別の投資対象を探してというプロセスではなく、稼いで資金力を高めることの方が圧倒的に重要であり、そのために利用すべきは恒常的にリターンの源泉が存在する資産である、というだけの話である。

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