香港は狭いが、その割に金融事業者は多い。どうやって飯を食っているのか不思議に思う人もいるだろう。金融業の中でも一大産業である保険業は、かつては自主規制団体がライセンスを発行していたが、現在は保険監督庁が直接ライセンスを発行している。

もちろんエージェントやブローカーという正規のライセンスを持つものもたくさんいるわけだが、同じ商品がありたくさん売った方が儲かる、という性質を持つ保険というビジネスにおいてはピラミッド型の販売網が構築されやすい。実際、商品さえ良ければ誰から買おうと同じだ、と考える顧客は一定数いる。

香港で正規のライセンスをもつものの下に(形式上はパートナーなのかもしれないが)位置付けられ、実はライセンスを持たない業者や、他国にいる業者から、「送客」が行われているケースもある。

特に中国本土向けを中心に、この紹介ビジネスはこっそりという次元ではなく、むしろ大々的に行われている節があったのは覆面調査をするまでもなく、業界の人なら誰でも知っている。ただ、本来、知識と経験を駆使して顧客に最善の提案をすべき存在が、顧客の顔を見たこともなく、書類のチェックをして保険会社にそのまま送るだけの存在になっているとしたら話が違うわけだ。実際、そんな存在が手数料の多くをとっていくわけがなく、現場で(実質的に営業活動を行っているであろう)業者に大部分の手数料が流れるのは自然であるし、何だったら紹介料を多く渡してくれる場所に送客しようと考える輩がいても不思議なことではない。

ただ、監督官庁が変わって、業界が儲かることだけを考えるわけにもいかなくなり、様々な規制強化に向かっているのは確かだ。明文化されたルールが徐々に明らかになっている。

原則1:ライセンスを持たない紹介者と規制活動

あるお客様が担当者のことを、あるいは商品のことを気に入って誰か大切な人を紹介する、ということは普通にあり得るわけだから、それ自体は規制のしようがないし喜ばしい話である。ただし、ここで紹介する人は当然ながら(本来ライセンスの必要な)規制活動は行なってはいけないし、営業活動に従事してもいけないのである。特定の保険商品についてアドバイスを提供することなく、正規のライセンスブローカーに紹介する、ということが求められている。

これに違反した場合、ライセンスブローカーはもちろんのこと、紹介者もまた香港の法律に則り、刑事責任を問われる可能性がある。

原則2:ライセンスブローカーが規制活動の全てを行う

ライセンスブローカーは直接、顧客に対して必要なアドバイスと手続きを行い、紹介者にこの作業を依頼することがあってはならない。もし違反した場合は、ライセンスの一時停止または無効などの強制措置が取られる可能性がある。

原則3:適切な紹介料のみを支払う

紹介料は御礼だったり気持ちだったりとしてはビジネス慣習上ないわけではないため、紹介料自体が否定されるわけではないものの、保険の販売においては多くのことが規制活動という、コンプライアンス意識を含めた知識と経験に対して手数料が発生していることを鑑みれば、紹介者が規制活動を行うことのないような適正な紹介料というのは自ずと見えてくるだろう、という話だ。当たり前だが、何%までならいいなどというルールはあり得ない。それに本当に紹介したいと思うのなら金銭的報酬を要求しないし、何もなくても紹介して/されてよかったと皆が思う、というのが自然である。

紹介者が誰でもいいわけではない

ビジネスがくるならどこからでも有難い、と考えるのは自然ではあるものの、紹介がなされ、そしてもし紹介料が支払うのであれば、その相手のことも詳細に調査し、記録に残し、定期的に評価を行うこと、(仮に紹介料目的だとしても)紹介者としての役割に限界があることを理解してもらうようにする必要がある。

当然ながら、紹介業などということが成立するようでは、あるいは紹介業をやってみないかとライセンスブローカーが持ちかけるような状況は、どこかでバランスが崩れている、と言わざるを得ない。保険を販売するライセンスブローカーは保険会社からモニタリングされ、トレーニングを受け、正式な契約のもとに役割を果たすことを求められる。

規制が厳しくなればなるほど活動が地下に潜る面はあるため、保険監督庁としては、禁止するのではなく、ガイドラインを定め、紹介者の事業モデルを検証し、明確な紹介契約を定め、顧客が適切に扱われるような手続きや経営資源を用意することを求めている。なお、顧客調査やランダムチェックなどを通じて紹介者が違反をしていることが確認されれば、保険監督庁に報告されることになる。

これを自ら行うためにはライセンスブローカー自体が品位を保っていなければならないのは言うまでもない。紹介が止まったら事業が火の車だとなれば止めることはできないのだから。

紹介ビジネスは風前の灯火か

過去の統計などを踏まえて、紹介ビジネスのブームがあったことは規制当局として認めており、そして他国の当局から指摘があったことも教訓になっているのは確かである。紹介ビジネスに依存することは、香港の保険業界の未来を担うビジネスモデルでないとして、しっかりとサービスレベルを高め、商品レベルを高めることに舵を切りたいと考えているのが香港なのだろう。それはきっと顧客にとっても良いことである。

そうは言っても、ブローカーやエージェントが皆専業なわけではなく、金融業を主軸にしていない副業タイプの人間もこれまでは少なくなかった。今後のところはまだ分からないが、ライセンス付与あるいは維持において、金融業に関わる者の、事業(時間、労力、対価)の比重が問われることになるのだろう。法令違反に対してより重い刑罰があることにより、軽い気持ちでライセンスを取ることも難しいとは言えそうだ。

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