「貯蓄から投資へ」という標語が掲げられたのはいつからでしょう。

そしてその後果たしてどれだけの人が実践したのでしょうか。新型コロナウィルスの流行を経て、将来に対する備えの重要性に気づいた、あるいは短期的にも金融市場の波に乗って資産を伸ばしたという人は多いかもしれませんが、資産運用をしっかり人生に取り込めた人はどれくらいいるでしょうか。

日本の資産運用業の状況について金融庁が2020年6月19日に発表したレポートを読み解きながら話をしてみたいと思います。東京を国際金融センターとして伸ばしたいという取り組みも加速しているようです。

資産運用業高度化プログレスレポート2020

金融庁

金融庁レポートの概要

日本の家計金融資産は豊富であるとされているものの、その大半は預貯金であり、投資資産として日本経済や世界経済の成長には利用されていないこと、それゆえに国民はその成長の恩恵を得られていないと考えられます。

では、日本の資産運用業に焦点を当てた場合、海外の運用会社の提供するETFや、パッシブ運用の広がりなどを受け、競争戦略に乏しいという現状もあります。手数料を十分とって運営されたアクティブ投信ですら、投資家への還元を果たすことができず、投資へと踏み込んだ人すら結果的に投資から遠ざける結果となってしまったのです。

いかに【顧客本位の商品】を提供し、【中長期的に良好かつ持続可能な運用成果】を挙げるかどうかが今後の課題と言われています。

ポイント1:意外と日本のETFの残高は伸びていない

日本の公募投信市場の純資産残高推移を見ると、毎月決算型(毎月分配型)の公募投信が5年前に比べて減少しましたが、株価が比較的堅調に推移したにも関わらず、公募投信全体としては残高を維持しています。最近では上場投資信託(ETF)という形態が増加してきているものの、こちらも通常の公募投信に比べればまだまだ少数派となっています。ただ、パッシブ運用の公募投信に比べれば、ETFの方が良い、と考える投資家は多いようです。

ポイント2:公募投信は日銀のみが残高を増やしている

日本の株価を下支えしているは日銀ではないか、と言われることが増えてきましたが、実際、日銀はETFという形態で株式市場に投資を行っており、現在では公募投信残高の4分の1に相当する規模まで到達しています。家計による公募投信の残高が概ね横ばいで推移するなかで、唯一残高を増やしているのは日銀であることはデータが示しています。

ポイント3:少額投信には特別な注意が必要

日本にもアクティブ運用をする資産運用会社はありますが、大手の資産運用会社では平均パフォーマンスが低いという結果になっています。逆に、独立系資産運用会社の提供する少額投信ではアクティブ運用の成果が出ているところも多いようです。

では是非少額投信へと思うかもしれませんが、少額投信には少額投信で解約しにくいこと、さらに残高が低くなりすぎると解散になってしまう可能性もあるため、慎重に投資先を選ぶ必要があります。

ETFなども上場しているからこそ、売却が殺到しすぎれば運営困難や上場廃止となり大損をすることがあります。一般的な人気のないものに投資資金を投下するときはより注意が必要であると考えておくべきでしょう。

運用会社としての“長期持続性”は考慮に入れるべき

単に株式や債券を購入するのと異なるのは、間に運用会社が入ることにより、運用会社の運営の是非を見極める必要が出てくる点です。資産運用業が競争の激化により、再編などのリスクにさらされることが多くなっていますから、運用会社に“長期持続性”があるか、投資開始時と比べていつの間にか運用戦略(ポートフォリオの中身)が変化していないか、などを常に頭の片隅に置いておくと良いでしょう。

パッシブ信仰には日本での“運用力”の低さも起因

アクティブ運用を行っても中長期的にはパッシブ運用には勝てない、という統計的事実がしばしば指摘されるところですが、先に触れたとおり、上手くいっているアクティブ運用がないわけではないのです。ただし、アクティブ運用で成果を出せるほどの“運用力”が日本の投信にあるかというと、これも現時点では海外の投信に劣ると言えそうです。

「だったらパッシブ運用しかない」、「S&P500を買っておけば間違いない」そんな風に思って思考停止をしていないでしょうか。パッシブ運用といってもインデックスにも様々ありますし、過去は過去ですが、未来は未来です。周囲に流されない、分別のある投資家を目指すことは必要かもしれません。

日本の資産運用業の今後

国際金融センター指数(GFCI)では東京がトップ3入りを果たしましたが、その後は香港が第3位に復活しました。東京を中心に国を挙げて金融都市東京の強化に舵を切っている状況ですし、税制改正なども通じて、海外の金融ワーカーや運用会社を東京に誘致することで、日本の家計金融資産を呼び起こしたいとの狙いがあります。

外資系が日本に参入することはもちろんプラスですが、それだけでは、金融規制や税制が異なるので、結局は国内の運用商品と横並びになり、最終的な投資家に海外クオリティの運用商品を提供することには繋がらない可能性もあります。

アメリカの場合、独立系ファイナンシャルアドバイザーによるフィーベースモデルの普及が、投資信託からETFへのシフトを促したということも聞かれます。一方で、日本の場合、アメリカのように右肩上がりの株式相場のイメージが形成されているわけでもありませんから、状況を同じようにも考えられません。

日本の資産運用業が今後どのような変化を遂げていくのか、同じく資産運用業に関わるものとして注目していきたいと思っています。

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