各種税率が非常に低い香港ではあるが、所得税がないわけではない。標準税率が15%、累進税率が2〜17%となっている。しっかりと申告をして納税しよう。特に香港での永住権である永久居民への申請をする予定があるのであれば、納税記録もしっかり残しておくのが肝心である。
毎年4月に入ると、香港における税務当局である税務局(IRD、Inland Revenue Department)から給与所得税(Salaries Tax)に関する申告フォームが雇用主宛に発行され、その後、個人宛にも別途申告フォームが発行される。申告をすれば、その後納税額が確定し、納税通知書が届く。それぞれ締め切りがあるので、注意したい。
目次
日本の確定申告との違い
日本でサラリーマンをしたことがあれば年末調整やら源泉徴収やらという用語を聞いたことがあると思うが、その場合、確定申告をする前に既に納めている税金が存在することになっている。だから確定申告をして税金の還付を受ける人もいる。
香港においては源泉徴収という考え方が存在しないため、納税資金は各人が用意しておかなければならない。現地採用であれば、ダブルペイという13ヶ月目の給与が雇用条件によっては発生するが、これを納税資金にあてる人は多いようだ。
なお、全世界課税を行う日本と異なり、香港は域内課税であるため、香港外を源泉とする所得については香港では原則課税されない。
確定申告(Tax Return)に際して会計事務所などにサポートしてもらう人もいるとは思うが、個人の確定申告義務はそのまま個人の義務でもあるため、制度の概要を知っておくに越したことはない。
申告や納税のタイミングが分かりづらい?!
数年住んでみると大体流れが分かってくるが、特に初年度は申告のタイミングが分かりづらいという意見をよく聞く。税務局自体が納税者の存在を把握する必要があるからであるが、行政は縦割りというのは香港でも幾分そうであり、移民局で就労ビザを取得したからといって税務局にそのままデータが蓄積されるところまでは残念ながらいっていない様子である。
まず第一に香港での税務年度は4月1日から翌年3月31日までである。
したがって、働き始めたタイミングがいつからかによって各人の感じ方が違うと想定できる。香港での所得が勤め先における給与所得であるならば、雇用主が「〇〇さんがうちの会社で働き、給与として$$支払いました。」と税務局に申告するところで確定申告に向けたトリガーは引かれると考えられる。
その後、税務局において把握した内容をもとに、個人に対して申告フォームを送る。このときに初めて個人の税務番号(TIN、Tax Identification Number)が割り振られる。ただし、ここでのTINは金融機関などで申告するものとは異なり、金融機関で用いる一般的な税務番号としてはHKIDの番号である。
一般の勤め人かつ納税者としてはこの申告フォームが送られてくるのを待っていればいい、ということにはなる。
ただ、申告フォームが送られるのは、別途届け出ない限りは、雇用主が申告した際に使用した個人の住所であるため、この期間に住所を変更していたり、あるいはその記載住所が正確でなかったりした場合にはフォームが届かないということもある。あまりに来ない場合には確認してみた方がいいかもしれない。
また、確定納税額通知書が届くのは申告から数ヶ月後であり、概ね8〜12月頃と非常にばらつきがあるともされる。しかも実際に納税するのは、総額のうち4分の3が翌年1月、残りの4 分の1が翌年4月までなので、税務年度終了からほぼ1年後になって、いつの税金を納めているのか分からないという感覚になる人もいるようだ。
予定納税の影響を理解する
香港では予定納税制度が採用されていて、翌年度分の税金も前年度実績を横引っ張りして算定して納付する。つまり、初回は最初の2年分をまとめて納税することになるので、例えば働き始めたのが4月や5月などの場合、納税のタイミングが体感としてかなり遅いのに対して、納税額の大きさに驚かねばならないかもしれない。その翌年からは予定納税分と確定納税分の差額、そして次の年の予定納税分を納める。
隔年で年収が大きく異なる給与体系などであればこれも注意したい。あるいは働き始めが1月などで初回の納税が少ないのを喜ぶものの、次が丸々2年分で非常に大きくなって驚くケースはあり得る。
気になる人は一度シミュレーションをしておくといいだろう。
電子申告システムe-Taxの登録
近年は税務局もデジタルに対応しており、e-Taxで申告を行う企業も多い。個人の納税者としても登録は推奨される。香港特有の住宅事情もあり、ずっと同じところに住み続けるという人も少ないと思うので、特に前述の住所登録の問題などでフォームが来ないというのも回避できるからである。
e-Taxへの登録は、初年度の申告フォームにある税務番号などを利用して行う必要があるが、初年度からe-Taxで申告は行うことができる。一度登録すればその後は通知が自動で届くので非常に楽ちんだと言える。
控除項目はどれだけ使えるか
そもそも税金が安いなかでも、控除できる枠というのが存在するのには注目をしたい。
人的控除項目以外で所得控除項目としては、
- MPF自己負担分控除
- 適格年金/MPF任意負担分控除
- 住宅家賃控除
などが該当しやすいとは思う。特に適格年金や住宅家賃については近年創設された控除項目であり、控除するための所定の条件を満たしている必要があるため、気をつけたい。
税金の支払いの重要性
「可処分所得」という言葉があるように、税金を納めた上で残るものが、手取りである。つまり、可処分所得こそが自由に使えるお金のベースになるものである。
一方で、香港の制度では納税資金を自分で取り置いておくこと、そのキャッシュフローマネジメントをすることが必要となる。お財布を分けた方がよいと思うのであれば、TRC(Tax Reserve Certificate)も利用できる。咄嗟に銀行やクレジットカードで納税資金を借り入れる人もいるし、もちろんそれはできるが、余計なコストがかかっている可能性もある。タックスマネジメントに不安がある場合はファイナンシャルプランナーの力を借りると良いだろう。