最近、米国で銀行が破綻したニュースを目にした人は多いと思うが、この記事ではそれがなぜ起こったのかについては解説をしない。解説記事はいくらでもあるからだ。むしろ、それを受けて投資家行動というのがどういう影響を受けるものなのか、という話に焦点を当てたいと思う。
目次
投資期間を短縮する
投資を始めたときに何年くらいそれを続けるかイメージした人は多いと思う。多くの人は○年という単位で考える。
一方、銀行破綻のような金融市場不安というのは、投資家心理に与える影響として、投資期間の短縮をもたらす。自分は長期投資家であると豪語していた人すら、近未来のことをすぐに心配し始める。せっかく投資を入念に計画したのに、瞬間的に動くことで、目前に横たわる不安を取り除きたいと考える。
一つの事象にこだわる
通常投資家は色々なことを視野に入れて投資活動を行っているが、銀行破綻のようなイベントでは実質的にほとんどの投資家が同じ事柄に集中する。
例えば、もっと多くの銀行が破綻する可能性について、である。このことは、長期的に実現したかった、より重要なことから本人の目をそらすことに繋がっている。
何かしなければと思う
市場環境が不安定になることは、何かが市場で起こっている状態であり、したがって投資ポートフォリオに何かしなければならないのではないか、という焦りが生まれる。これをきっかけに全てが逆転するかに感じ、それに合わせていち早く投資を変えねば、という具合である。そう、今起こったことを事前に察知できなかった自分をもってして、将来起こることを一生懸命予測したくなる。
起こったことに詳しくなりたい
大きなマーケットイベントが起こることは誰も予言していなかったにも関わらず、事後になってその予兆があったことを解説したり、なぜ起こったのかという詳細を知りたくなる。かくして起こったことが起こるべくして起こったことにしたがる。起こったことに詳しくなると、落ち着いてイベントから離れていく。
不確実性は何も変わっていない
少しマーケットにストレスがかかると、人々はマーケットの不確実性が増した、という言い方をする。そんなことはないはずで、いまでも金融市場というのは不確実である。本質的には未来に対して過信があり、それが正しくなかったと判明しているだけで、未来に何が起こるかなんて分からない。
未来を予測するのは難しい
未来を予測する作業が無意味であるとまでは言わないが、2023年の金融市場見通しを各社が発表した中で、銀行破綻について触れたものはおそらくない。何年も先の話ならともかく、年が明けて数ヶ月ですらこうなのである。短期的な金融市場の予測がいかに難しいかを物語っている。
予測し得ないものこそ最も大きなリスク
様々なモデルを作り、想定を行い、リスク管理を行うことは非常に重要ではある。ただ、皮肉なことにそこで予測し得ないものこそが最も大きなリスクとして投資家にのしかかるのだということは知っておきたい。
リスクを過大にも過小にも評価しない
リスクというのは過大に評価されやすく、そして過小に評価されやすいものである、と知っておきたい。場合によっては無視することもあるし、場合によっては避けて通れないこともある。地震に備えて家を建てるとして、耐震設計を全くしなくていいわけではないが、でも大地震が来ると思って、そもそも家を建てない方がいいというのは行き過ぎかもしれない。
経験したリスクほど語りやすい
記憶に新しいリスクほど警鐘を鳴らしやすく、歴史の彼方に眠るリスクほど相手にされない。利上げで家計が苦しくなったならさらなる利上げのリスクについて一生懸命考えるが、低金利がずっと続いているときに将来金利が上がったらとは考えない。リーマンショックを経験した人はいつかまた金融危機が来ると言い続けるが、時間が経つごとにそういう人は減り、また、記憶にもない若者たちはそれを一切気にかけない。
リスクは常に置き換わる
そもそもこの記事が話題にしているリスクは銀行破綻であるが、今はそれが最大の関心事であるとして、半年前や一年前のことを考えてみてほしい。ウクライナの話だったかもしれないし、コロナの話だったかもしれない。人々が語るリスクの話は常に変遷している。とりわけ、次に顕在化する大きなリスクは、必ずといっていいほど、今語っていないリスクである。
語るに溺れリスクを忘れる
リスクについて理解を深めるほどに、隠れたリスクがあることを忘れてしまう。銀行破綻について自信満々に語った後にやってくるのは、次にさらなる悲劇がやってくるに違いないという過信であるかもしれない。確かに銀行破綻にはドラマがあって、興奮できるかもしれないが、次の銀行破綻を予期して利益を上げようなどとは考えない方がいい。そうなったら時既に遅し、より大きなリスクに飛び込んでいることを忘れてはいけない。
まとめ
銀行が破綻する、ということ自体は経済的に好ましいことではないかもしれないが、それを通じて自らの投資家行動が変容してしまっていないかどうか、よく目を配っておく必要がある。長期的に投資を続けていくためには、長期的に続けていくための作法がある。周りの人が皆同じように冷静であると思う必要もないし、逆に反対してくる誰かを説得するために奮闘する必要もない。自分が目指しているものに向かって淡々と続けていけばいいだけの話である。