ウェルスマネジメントは、金融業界における事業の柱として重要な役割を担っている。一方、顧客側も、ライフステージが変容していく中で、顧客の人生をよりよく理解し、中長期で寄り添いながら資産に関する相談ができるパートナーを求める傾向が強まっている。手数料モデルから預かり資産残高を基礎としたフィーモデルへの転換の中で、投資一任サービスの重要性が増している、という話をしよう。

富裕層を取り巻くトレンド

近年のインフレの中で、資産を劇的に伸ばし、富める者がさらに富むという傾向は強まったと言える。年収1,000万円だとか資産1億円だとかは世間的にはよく知られた数字かもしれないが、今やそれが富裕層を表してくれないことは自明である。

金融機関もまた、新しい富裕層の定義を模索し、サービスの刷新に向けて事業を再編していると言っていい。ウェルスマネジメント、という言葉も未だ定着を見ていないが、グローバルなトレンドとしては地位を固めてきているのは間違いない。

投資一任サービスの背景

顧客から一定の資産を任されて運用を行うのが投資一任サービスであるが、もともとは主に機関投資家の方が馴染みがあるものかもしれない。機関投資家というプロだから自分でできるのでは、と不思議に思うかもしれないが、実際はそうではない、ことを意味している。むしろ、投資自体を生業にしている人でも、投資一任を選択する、という考え方もあるわけだ。

一方で、近年は富裕層を含む個人投資家においても投資一任契約が選択肢になってきている。従来であれば、自分で運用を考えず誰かの戦略に乗る、という意味では投資信託やファンド、という形態を選ばざるを得なかった。その場合、運用する側は顧客の運用金額以上の情報は必要ない。仮に同じように1億円を預けてくれたなら、二人は同列であり、別に二人で1億円にまとめても、やはりそれは1億円としてしか見れない。その先にいる顧客の人生に寄り添う必要性は乏しい。もちろんその方が運用する側としては楽かもしれない。

ただ、法人と違って、個人の場合には、実際には人生というストーリーが背後で展開されており、それは本来運用プランにも影響を与えるべきものだと考えられる。そこで、投資一任サービスが非常に役に立つわけである。

投資一任の本丸は顧客理解

現金を手渡しするわけでないにせよ、運用を誰かに任せる、というのは信頼の必要な行為である、のは間違いない。しかし、ここで信頼の丸投げをしてしまっては元も子もない。任された方も当然顧客を信頼していることになる。投資一任とは結局のところ、顧客が目指したかった運用をカタチにする作業に他ならないからである。リスクの取り方だったり、目指すべきリターンだったりはよくよく話をしておかなければ、気づいたら目指しているものがずれている、ということになりかねない。なぜ運用をする必要があるのか、その答えは具体的な投資プランという外向きのベクトルにあるわけではなく、その運用を通じて顧客の人生がどのように変わるのか、という内向きのベクトルに存在する。だから顧客理解が要であると言えるのである。

顧客に求められる発想の転換

金融業界のトレンドが変わっている、とはいえ、全てのサービスが置き換わってしまったわけではない。だから、何か良い商品はないのか、どの商品がオススメなのか、儲け話があったら知りたい、あれを買った方がいいかこれを売った方がいいかという発想をしてしまい、それに応える人がいるのは当然かもしれない。

ただ、これらは全て外向きのベクトルの質問なのだ。自分と自分以外だったら自分以外の方が世界は広い。だからそこで正解を見つけるのは実はとても難易度が高い。一方、自分のことは自分しか知らないし、家族ですら分かっているか怪しい。人生の意思決定が簡単だとは思わないが、それでも自分の人生なのだから自分で決めるしかない。

顧客と運用がマッチングするうえで、前者があやふやなままでいいわけがない。あるいは後者に合わせた人生を設計しようなどという人も本来はいないはずなのである。顧客はもっと自分自身が主導権(コントロール)を握れるエリアに注力すべきなのである。そしてそこに必要な運用を考えていけば、おのずと選択は絞られてくる。マッチングといったが、目的と手段の関係と置き換えても構わない。

ライフプランニングの必要性

顧客理解がより重要だ、という話をしたが、問題はそこを曖昧なままにして進めてしまうことが多い、ということかもしれない。余っているお金があるので運用を考えている、というのもこの表れである。そこで、必要なのはライフプランニングである。頭の中で何度も考えていたことを数字に置き換えてみたり、シミュレーションをして視覚化してみたりすることで考えるべきことが深化する。誰かに共有もしやすくなる。

投資一任サービスでは、ライフプランを通じて把握された顧客の期待利回りやリスク許容度、投資額/取崩額をベースにアセットアロケーションを行うことになる。ただ、お金の使い方は投資だけではないし、不動産のように投資一任の対象にならない投資だってある。顧客本位というのは、運用に関わらないところも視野として共有されていて初めて実現するものと考えて差し支えない。

投資一任を検討すべき人

投資一任の利点が理解できたとして、それに全て傾倒する必要があるわけではない。リスクはともかく好きな企業の株式をコレクションしておこうという人もいるだろうし、カタチのない金融資産そのものがいけすかないという人もいるだろう。ただ、資産を守っていく上では何らかの運用を行なっていく必要はあり、それをもっと体系的、あるいは計画的にやっておきたいと思うなら、投資一任は選択肢であると言える。例えば、

  • 運用口座を一本化したい
  • 目標を決めて着実に取り組みたい
  • 定期的に見直しをしていきたい
  • 投資経験をゆっくり積み上げていきたい

あたりを掲げる人は多く、逆に言えば、自分ではできない高度な運用だったり、高い利回りへの期待はありそうでないことの方が多い。もちろん、自分で考えて売買するより、結果的には良い結果がもたらされるという統計データもあるにはあるが、動機にはなりづらい、というだけだ。投資一任を通じて、ランダムな意思決定が減り、包括的に資産を見ることができたなら、投資経験はより良いものになるだろう。

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