投資や保険の話はよく聞くけれど、香港においてお金を借りて何かをする、というのがどのように扱われているのかは意外と知られていない。日本との違いなども合わせて理解しよう。

信用情報とは

信用情報とは、個人の名前、勤め先、年収、住所などの属性情報に紐づく、各種ローンの申し込みや、契約状況、支払い履歴などのことである。個人情報の一つと考えられる。

一般には、信用情報は信用取引の記録であり、人種や思想、保険医療、犯罪歴などの項目は含まれていない。

信用情報の開示は、加盟する金融会社だけでなく、情報を登録されている本人も自ら行うことができる。インターネットで名前や電話番号などを使って本人確認し、開示手続きを行うことが可能である。

一般に、支払いが滞ると“ブラックリスト入り”すると言われるが、それは信用情報の中にそれが記録され、一定の期間を経過するまでは残り続けるためである。事故情報があると、クレジットカードやローンの申請の際に重く見られることになるわけだ。

一方、信用情報がない、こともあり得る。日本であれば大学を卒業して働き始めたばかりの若者はまだ信用取引が発生しておらず、それゆえに情報が何もない、ということも起こりうる。信用情報とは信用取引から派生する記録なので、完璧に個人と紐づいている、とも限らない。

だから、何もないということは一見すると良いことに思われがちだが、実は何がしか情報があって、かつそれが良い情報である方が金融会社としては安心材料になり得るわけである。例えば50歳になる人物について信用情報が何も出てこなかったとしたら、もちろん一切借入をしない主義の人だった可能性は否定されないが、やや不思議である、という具合だ。

信用情報は信用情報機関の中に蓄積されるため、信用情報機関に加盟している金融会社を利用しなければ情報が共有されることもない。したがって、香港の金融会社は日本の信用情報機関の信用情報を参照できる立場におらず、新しく香港に来た人には信用情報がない、ということが起こるのである。

信用情報機関とは

信用情報機関とは、加盟する金融会社から提供される信用情報を集約管理し、そして加盟会社に共有することで、一般消費者と金融会社の健全な信用取引を支える機関のことである。

例えば、消費者がクレジットカードの利用申し込みを行なったとして、金融会社はその返済能力をどのように判断するのだろうか。もちろん消費者から提供される情報も重要ではあるが、他の金融会社で既に利用があるかどうか、過去に何か懸念すべき利用履歴があったかどうか、など総合的な審査を行うことが望ましい。

消費者の側からすれば、信用情報機関には、自身の「信用」が蓄積されていることになり、それに基づく迅速な信用供与を受けられることに繋がっている。

日本の場合、CIC(シー・アイ・シー)やJICC(日本信用情報機関)が金融庁により指定信用情報機関として指定されている。全国銀行個人信用情報センターも参照されることがある。

一方、香港の場合、TransUnion(トランズユニオン)一社がCredit Reference Agency(CRA)としてこの役割を担っている。しかし、信用情報を照会するという考え方そのものが香港で生まれたのが1980年代と実は歴史はさほど長くない。

昨今は、バーチャル銀行などの新しいフィンテック業態の出現や、あるいはそもそも信用情報機関が一社に偏りのある状況も勘案し、新しいCRAを設立したり、他のCRAが乗り入れをできるプラットフォームを用意することに対してHKMA(香港金融管理局)も非常に前向きである。2024年4月26日にはCredit Data Smartと呼ばれるプログラムが開始され、新たにNova CreditPingAn OneConnect CreditがCRAとして加わり、1年に一度クレジットレポートを無料で取得できる見込みです。

信用が影響するアクティビティ

香港で信用情報が重要になるアクティビティとしては以下が挙げられる。

  • クレジットカード(Credit Card)
  • カードローン(Loan on Card)
  • パーソナルローン(Personal Loan)
  • リボルビング枠(Revolving Line)
  • 住宅ローン(Mortgage)
  • 自動車ローン(Auto Loan)

恐らく多くの人が最初にクレジットカードを利用するが、それだけで終わる人もいるだろう。あるいはカードや税金の支払いをInstalmentにしたりするかもしれない。そのときは信用情報が記録されていると考えてよい。

信用情報は借金があること自体を悪とするものではない。むしろ金融会社からしてみれば、お金を貸す商売をしているのだから、お金を借りた経験と、それに対する返済の記録がしっかりした人であることを評価する。それは次のビジネスに繋がるからである。

香港に来てすぐはこの信用情報がないので、クレジットカードの作成で非常に時間がかかった人もいるかもしれない。それはあなた自身がクレジットカードを作れない属性の人である、と判断されたというよりは、単純に景気循環の中で、信用情報のない人に信用枠を設定することに金融会社が一律消極的なタイミングであった、ということだってあり得る。焦ってカード申請を複数のところで行う、ということもできれば避けたい。

信用を向上させるためには

信用情報というのは何もないよりはあった方がよく、でも良い信用情報があった方がいいものである。

信用を向上させるというのは、健康維持と同じで絶え間ない努力のもとに成り立つ。具体的には以下のようなアクションをとってみると良いとされる。

負債を期日通りに支払う

返済履歴というのは信用情報の中でも重要な位置を占める。クレジットカードにしても負債にしても、最低返済額だけでなく、しっかりと全額返済することが大切である。支払の遅延記録は最低でも5年間クレジットレポートに残る。

クレジット利用枠の30-50%までにとどめる

クレジットカードの枠を使い果たすのはよくない。実は一つのカードをめいいっぱい使うのに比べると複数のカードに利用を分けて枠を余らせるのは有効である。一つひとつのカードの利用目安は利用枠の30-50%までである。上手く利用継続していればクレジットカード会社から利用枠の増額を提案されることだってある。

定期的にクレジットレポートを確認する

クレジットレポートはクレジットスコアはもちろんのこと、どのような行為が信用情報に影響を与えているのか具体的に知る手がかりになる。定期的な健康診断と同じで、信用情報も定期的にチェックすることは推奨される。

自分の信用情報を取得してみる

日本でも信用情報は自分で信用情報機関から取得できるが、香港でもTransUnionに登録することでクレジットレポートを取得(有料)し、クレジットスコアを参照することは可能である。スマホアプリも導入されたので気になる人は試してみてもいいかもしれない。ユーザーの信用情報に大きな変更があった場合などに発信される、Basic Credit Alertのような無料サービスも提供されている。

Do you know your credit score?

TransUnion

信用情報のチェック項目としては、

  • 全体のクレジットスコア
  • スコア履歴
  • 該当信用取引
  • 返済履歴

などである。ユーザーとして利用すること自体が信用情報として記録されることはないので、特に住宅ローンなどのような大きな借入が発生する際には、事前にクレジットレポートを取得してみてもいいかもしれない。

香港全体の消費者信用マーケット

香港の信用アクティブな人口に対して、1) Subprime, 2) Near prime, 3) Prime, 4) Prime Plus, 5) Super Primeと区分した場合、約9割の人がSuper primeというクレジットスコアが非常に良好なカテゴリに分類される。かつ、支払いの遅延(delinquencies)はおよそ0.1 – 0.2%程度と世界的に見ても極めて低い、とされる。(Source : TransUnion Hong Kong consumer credit database)

また、香港は銀行セクターが大きいことにより、信用取引も銀行で発生していることが多い。大部分の取引は極めて健全に行われており、銀行も積極的にそういったビジネスチャンスを取り込もうとしている、という風に考えることもできよう。

業界そのものが信用取引に前向きであることから、クレジットスコアを高く保ち、上手く銀行と付き合うことができれば、ライフスタイルの選択肢を広げることができそうだ。

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