円安が進むと今後はもっと円安だと言い、円高が進むともう少し円高の余地があると言います。為替相場を語る人の一体何を信じたらいいのか、と途方に暮れた経験のある人は少なくないでしょう。本稿では為替相場の予想はなぜ当たらないか、というテーマで話をしてみます。
目次
直近の為替の動き
2022年10月にかけて、ドル円為替は、1990年以来となる1米ドル=150円超をつけ、歴史的な円安と言われました。もちろん、急速な円安に日本政府や日銀が動いたことも一因だったとは言えますが、その後2023年の取引スタート後早々に1米ドル=130円を割り込むという非常に激しい動きとなっています。
円安に進んだ理由に納得させられ、2022年末に次の年の為替相場を受け入れた矢先、なぜかと思う人もいれば、いずれ円安は切り返すと考えていて、上手くトレードができてしたり顔な人もいるわけです。あるいは円安で生活が苦しくなったと感じ、それが緩んで一安心している人、あるいは、せっせと外貨に換えて、その後大きな含み損を抱えたと感じている人もいます。
さて、そもそもそこに何か正解はあったのでしょうか。当たった、当たらなかった、そういうものなんでしょうか。
為替相場の予想とは
為替相場とは、一国の通貨と別の国の通貨の交換レートであり、各通貨ペア毎に水準が発表されています。為替市場は非常に大きく、あらゆる人があらゆる動機で参加している市場でもあります。アジア市場、欧州市場、ニューヨーク市場が繋がり、平日は24時間取引をされていて、価格に関しては非常に透明性が高い、と言えるでしょう。
ところで、通貨の交換レートは一体どのようにして決まるのでしょうか。そして今なぜそのレートで取引をされているのでしょうか。この答えは実は単純明快ではありません。そのレートで交換する人がいる、という、ただその事実のみを意味しているに過ぎない、とまずは覚えて置いてもらいたいと思います。
もちろん、為替レートには理論値というものがあります。経済の様々な要因を考慮して、本来であればそのレートにいるべきであろう、といった類のものです。ただの理論値だと切り捨てたいわけでもありませんが、実際にその理論値にすり寄っていく性質があるとも言えませんし、そもそも考慮した様々な要因というのが正しかったかどうかも分かりません。
そもそも為替レートとは動かなくても構わないものであり、一部の国は米ドルに連動するペッグ制と言われる通貨管理制度を導入していますし、色んな通貨の価値を踏まえた通貨バスケット制度を採用している国だってあります。いわゆる変動相場制が普及しているのには、それがその国の経済にとって良い、と考えられているからに他なりません。
為替相場の動きというのは天秤のようなもので、常に動いていることによってバランスを自動調節しています。だから、急に片方の天秤に大きな重りが乗ってくることもあるし、重りが大きくても両方に同時に乗ってくると結果的には動きません。あるいは大きな重りを調整しようともう片方にまた大きな重りを載せるように動けば、大きく揺れてどっちに動いているのか分からなくなります。
さて、話が少しそれましたが、為替相場の予想というのは、この天秤が中長期的に傾く余地があるのか、ということを考える作業です。短期の為替相場予想が当たらないのは、そもそも今のレートがバランスが取れているとは限らないし、ちょうどあるタイミングでバランスが取れているとも限らないからです。
では、中長期だったら当たりやすいのか、というと、今揺れている天秤のバランスを取るために必要な重りについては今想定ができるけれども、外側から新しい重りがやってくることまでは考えきれない、というところに問題があると言えます。あるいはその外側から重りが来ることを考えると自然と本来目指すべきところとは違う位置に向います。
想定したものが全てその通りになればひょっとしたら予想は当たるけれど、そもそも想定しているものが全てその通りにはならない、と言えます。
プロだと予想の精度が高いのか
ここまで話すと、プロの予想と素人の予想はどこに違いを見つけられるのか不思議に思う人もいると思います。これはある意味で正しく、なぜなら、どちらも市場参加者の一人だからです。あらゆる人があらゆる動機で参加して構わない市場なのですから、誰がどんな予想を持っていようと構いません。適当でも丁寧でも構いません。
ただあえてプロの擁護をするのであれば、より多くの人のより多くの動機について知り得る立場にはいるのかもしれません。とりわけ金融機関という実際に大きな取引を行う人たちと意見交換をし、今の動向について探っているからです。
為替相場の予想を聞くときにやってしまいがちなのは、それがいつの話なのか、為替レートがどういう軌道を描くのかと言った話をすっ飛ばし、ある水準だけが記憶に残ってしまうことです。為替レートは宝くじではありませんから、そもそも予想をしている人本人にとっても、数字を当てても特に意味はありません。サッカーの試合でどちらが勝つかというのと全く違うわけです。
だとしたら何のために予想をしているのかというと、分からない未来に対するヒントを投資家に提供することに他なりません。
予想をするプロの中にもそれぞれカラーはあります。色んなプロの話を聞き、自分の立場にとってどのような情報が有意義なのかを考える作業は投資家自身がしなければなりません。
それでも予想を参考にすべきか
結論、為替相場の予想は当たらないものです。ある一時よく当たると思える人がいたとしても、それに付き従う必要もありません。
ではなぜわざわざ予想をし、予想を参考にするのでしょうか。その答えは為替相場が生活に与えるインパクトが存在するからです。気にしなければならないリスク=不確実性だからです。
インパクトの大きさは人によって違います。輸出入関連の企業で働いていれば、決算の数字を上手く作る必要がありますし、海外に投資をしているのであれば最終的な利益をもたらすのかどうか気にしなければなりません。
あとは、予想が第三者の意見であることにより、主観的でない、と言えることです。為替相場のことを大真面目に考えている人もそうでない人もいます。ただ、この先起こりうる変化について注意喚起をするのに、あるいは計画を立てるのに、予想を持ち出すことで同じ土俵に乗ってもらうことができます。予想を信じても信じなくても構いませんが、とにかく、今と違う可能性がある、ということを踏まえたかどうかが重要なのです。
まとめ
為替相場はレートという形で非常に単純に表されている点が、裏側で様々な経済活動がある株式とは大きく異なります。
投資についてよく分からない、あまり時間をかけないという人でも、一見すると分かりやすい為替市場に来て、様々なことを語り、そして気軽に取引をするわけですが、実態としてはこれほど不透明感漂い、そして何も知見を得ることのない市場はない、とも言えるでしょう。
そういう不確実性に立ち向かうためのヒントを提示しているのが為替相場の予想である、と割り切ることは必要なのかもしれません。あるいはそうやって人々に安心感を与えることが為替相場そのものの安定を生み出しているのかもしれません。