資産運用は自己責任ではあるものの、他人の意見を取り入れながら取り組む人は多いわけですが、その中でも大多数の周囲の意見に左右されやすい、という話を本稿ではしてみます。
目次
ハーディング効果とは
ハーディング効果とは、合理的な判断や自分自身の基準での判断ではなく、単に周囲の大多数の人々と同じ行動をとり安心感を得ようとすることを指します。同調心理とも言えます。
少数派でいること自体に居心地の悪さや不安を感じたりするので、無意識のうちに群れ(=Herd)に誘動されます。
投資の世界においても、このようなハーディング現象の存在を認め、戦略に取り入れる分野として、行動経済学が存在します。
合理的か合理的でないか
周囲の人が行動をし始めると、自分も何かしなければならない、と感じることはありますよね。それ自体は物事のきっかけとしては悪くないわけですが、知識とは経験とは全く別の領域で、心理が働いていることは知っておくべきでしょう。
投資初心者だから誰かの真似をしよう、〇〇さんが成功したというから同じことをしよう、どちらも知識や経験を理由にはしていますが、いつの間にか、周りから言われたことをそのまま鵜呑みにするようになったり、人と違う見解を示すことに億劫になり、とにかく他人への同調を優先するようになったりするものです。
そこには多数の意見があれば(自分よりも)合理的な行動が導かれるのではという期待もあるとは思いますが、自分の周りが合理的でなかったとしても追随するようになっているのには気づきづらいのです。
例えば自分ではよく分からない投資商品に出会ったとして、インターネットで検索をして、情報がたくさん出てくればいい悪いはおいておいてもひとまず安心し、逆に何も出てこなかったらより不安になる、という具合です。
ハーディング効果の例
投資以外の世界にもハーディング効果は存在します。
例えば、行列ができているレストランを見ると、何のお店かもよく分からないままに並んでみる人がいますね。もちろん、人気店であるからではないか、という期待があるわけですが、実際は値段が高く、味はそこそこだったりしたらどうでしょうか。そこで失敗したな、と思えれば一つの経験ですが、その結果に至ってなお、「並んだ甲斐があった」とか「人気店なので値段が高かったが美味しかった」と周りには言ってしまったという経験のある人も多いはずです。
実際には、並んだ分の時間を失っているかもしれないし、並ばなくてももっと安くて美味しい店はあるかもしれない、わけです。
それ以外にも、選挙があるとして、周りの人と少し話をしてみたら、人当たりが良さそうとか格好いいとか、有名人だった、などで高評価をしており、掲げている政策の話にはならなかったとしましょう。
冷静になれば、選挙なのだから政策の方が大事なわけですが、あとで「どこに入れた?」などと聞かれたときに答えづらいのはバツが悪いと思ってしまい、あえて同じ意見に従うこともあるでしょう。
自分の頭で考える
言うは易く行うは難しなのが、自分の頭で考えるということです。
集団のなかには意見の強いタイプの人もおり、正しくないものも周りを納得させられるケースがあります。それでも意見は意見ですから、間違った方向に進んで後の結果がついてくるだけの話です。
ただ、最初は少数に見えた意見でも合理的なモノの考え方というのも人を動かす力があり、いずれは多数意見になることだってあるのです。先頭に立つことは嫌かもしれませんが、冷静に自分の頭で判断したことの方が後悔はしづらい、とは言えるでしょう。
他人と違うことをする
世の中にハーディング効果があるのが分かると、常に人と違うことをする、というのが逆に良い戦略になることはあります。投資でいうところの逆張りはその一例です。心理的に焦ってしまう集団を客観的に眺めることができれば、そこに勝機があるとも言えるでしょう。
自分自身にハーディング現象が見られるかどうかは、普段の自分の行動から分かるものもあります。他人と意見をぶつけ合うことを厭わなかったり、あるいは他人と異なること自体が好きだったりするケースです。ただ、もし他人と比較しているのであれば、いずれにしてもそこにバイアスがかかっている可能性はあり、それもまた合理的な判断でない可能性はあります。
セルフハーディングの存在
また、周囲との比較ではなく、自分の過去の行動を正しいと思い込み、同じ行動を取り続ける現象をセルフハーディングとも呼びます。自らが過去に取り組んで上手くいった場合、成功体験として刻まれ、次もそうしよう、と決めていることがあります。もちろん、意思決定の早さや自信に繋がっているのはいいことではありますが、その時々の状況によっては、よりよい選択肢を無意識に排除することに繋がっている可能性があるのには注意が必要でしょう。
まとめ
投資の世界では様々な情報が行き交い、そして様々な意見を持つ人がいます。
ハーディング効果は日常的に存在するものですが、特に知識や経験が自分には十分でない、と感じるときに拠り所にされることがあり、結果として投資の経験を悪化させることすらあります。他人を真似るべきか真似るべきでないかという単純な話ではなくて、心理的なバイアスがかかることがある、という事実を認識して、合理的な判断を心がけることが大切です。