投資家が悪いわけではありませんが、投資活動にはホームカントリーバイアスが発生します。自然体で発生するものに、どのように対処するのが適切なのでしょうか。
目次
ホームカントリーバイアスとは
ホームカントリーバイアスというのは、とりわけ資産運用の分野においては、投資家が自国の株式や債券などに対して資産配分の比重を多くする傾向があることを指します。日本の投資家は日本に投資し、アメリカの投資家はアメリカに投資し、オーストラリアの投資家はオーストラリアに投資している、ということが統計的に観測されているわけです。もちろん、対外投資に取り組む投資家も皆さんの周りにいるかもしれませんが、社会全体としてはそうなりやすい、という話です。
ホームカントリーバイアスが起こりやすいのには様々な要素がありますが、一番は情報収集コストでしょう。国内の投資機会に比べれば、外国に関することを情報するのには時間もかかりますし、言語の壁があったり、取引するにも時差があったり、情報の公開のされ方にも違いがあり、意思決定するために十分な状態になるのが難しいのです。例えば、国の歴史だけをとってみても、自国の歴史はなんとなく学んだことを覚えていても、何もせずに他国の歴史について詳しいという人は稀でしょう。情報収集するにしてもスタート地点が違っているわけです。
投資機会という意味では、自国に選択肢は多く、他国に選択肢は少ない、ことが想定されます。実際は選択肢が少ないと思っているだけ、のこともありますが、例えば不動産投資をするにして、現地でローンが組めるかというと難しかったりしますよね。移住すればアクセスできる投資機会もあるでしょう。自分がバイアスをかけなくてもサービスプロバイダーが篩いをかけていることもあるわけです。
ホームカントリーバイアスの合理性
バイアスがかかることは悪いことか、と言われると必ずしもそうではないでしょう。
「100%理解できないことに投資すべきではない」と警鐘を鳴らす人もいるように、身近にない商品、サービス、企業のことを理解することが難しいのも事実です。とりわけ国を跨ぐと、情報が少なく、冷静で公平な判断ができない可能性が残ります。行ったこともないアメリカの企業が今後も成長を続けると、一体どのように自分を説得すればいいのでしょうか。そう言う意味ではバイアスは合理的に形成されている、とも言えるのかもしれません。自分が分かる範囲で、想像できる範囲で、という慎重な姿勢をとることもまた投資活動においては重要です。
もう一つ合理性を上げるとするならば、自国の企業に投資をすることは、結果的には自国の利益、消費者としての国民の利益になって返ってくることに繋がります。単に投資で個人的な利益を得ること以外にも、経済が成長し続けることが、中長期には生活環境を良くする、あるいは保つために寄与する、と考えるのは自然ではあります。実際、非常に大きな金額を運用する年金基金は自国に対する投資割合を必ず維持しています。一見政治的にも見えなくはありませんが、投資の基本はWin-Winであり、資金を提供することが成長を押し上げるという循環が生まれるわけです。
ホームカントリーバイアスの非合理性
ホームカントリーバイアスは手っ取り早く言えば身内びいきです。あるいは思考停止です。例えば、メイドインジャパンの商品は品質が高いし安心である、というのは先人が築いてきた大切な価値であり、守っていきたいものかもしれませんが、他国の商品が品質が上がってきたことや、世界の消費者が品質よりも価格に重点を置くようになったことから目を逸らすことに繋がっている可能性はありますよね。これはまだ、ポジティブなホームカントリーバイアスです。
逆に、自国に悪いところがあっても、それを避けて生活するのは難しいので日常的に受け入れているものもありますよね。だから、他国ではそれを解決していても、目を背けてしまう、という事例もあるでしょう。自国が安心、安全であるというのはあらゆることの大前提であり、絶対に崩れて欲しくないわけです。
バイアスをバランスに変える
バイアスがあるとき、人間はゼロか百かという極端な選択をしがちです。真面目に、論理的に考えるからですね。確かに、武器輸出していない、環境に良いなどの基準で除外リストを作ることもあるでしょう。でも、バイアスが認識できたのであれば、大切なことはそのバランスをとることです。自然と重くなる箇所があるのであれば、放っておくと軽くなる方に少しだけ力を入れてみることです。
分散投資は大切だ、という言葉を聞いたことがあるとは思いますが、分散投資を盲目的に行うことはこのバイアスに多くの場合で自然と対応している一方で、バイアスを意識的にバランスに反映されることには失敗していることがあるわけです。自分自身の投資ポートフォリオにどのようなホームカントリーバイアスがかかっているか確認してみましょう。(ホームカントリーバイアスがかかっていないことを確認するわけではないですよ!)
人間は合理的ではありません。投資活動においてもそれは様々な場面で影響を与えています。単に買ったり売ったりするだけでも、あるいは投資先を選定する過程においても必ず現れるものです。リスクをコントロールする上で、バイアスを認識することは重要で、その都度バランスを調整していくことが必要なのです。