コロナが終わり国境が開かれたことで、オフショア銀行口座のことを聞かれることも増えてきた。現在の状況を少し整理しておきたい。

オフショア銀行口座とは

オフショア銀行口座というのは、その国の非居住者に対して提供される銀行口座のことを意味する。香港から見れば日本の銀行口座はオフショア銀行口座だし、日本から見れば、香港の銀行口座はオフショア銀行口座というわけである。日本の銀行で非居住者向けに提供されている口座が少ないのと同様、銀行は各地域でそれぞれ居住者向けに口座を提供している、というのが基本であり、非居住者向けの口座に対応しているかは金融機関による、ということになる。

なぜわざわざ住んでいない地域に銀行口座を作り、大切な自分のお金を預けるか、というと、政治的なリスクヘッジか、あるいは高預金金利の享受にあるケースが多いと思われる。政治的、というのがピンと来ない人もいるとは思うが、例えば預金封鎖や資金の流出入の制限、などのシナリオを想像してもらえばいい。

やや極端なリスク想定にも思えるので、一般の人にとっては外貨預金をするのに有効だと考えられている。ただ、昨今は日本の金融機関でも外貨預金は気軽にできるようになっているのでこの点のメリットは小さくなっているのかもしれない。

香港の銀行口座開設現況

オフショア銀行口座と言えば、香港で開設するのはかつては一般的であったが、年々ハードルが上がっているという声もある。その原因を見るに、もちろんマネーロンダリング対策などのチェックが厳しくなったのもあるが、どちらかといえば投資や保険商品の強烈なセールスに遭って本来の目的である銀行口座開設に至らない、という方が多いようにも見受けられる。

既存の銀行顧客ですらそうで、口座の凍結解除をしに久しぶりに支店を訪問してみると、何やら質問リスト(投資の目的を聞くもの)をいきなり提示され、さも凍結解除の要件かのように投資口座開設へ誘われている、という様子を見ることすらあった。こうした顧客ニーズを軽視したアプローチに対して、同じ香港で働く身として少し悲しいものがあるが、これも中華圏である影響なのだろうか。決して投資や保険に興味がないわけではないと思うが、まずは銀行サービスを受けたいことを力強く主張せねば前には進めないことを心得ておく必要がありそうだ。

その他の国でのオフショア口座提供

どこの国をとってもそうだが、一般的にはオフショア銀行口座の開設には現地に赴くことが求められる。その一番の理由は本人確認(KYC)作業にあり、リモートで対応してくれるところは極めて少ない。

一方で、リモートで対応することがビジネスチャンスである、と理解している新興の銀行もあり、トライする価値は十分にありそうである。例えば、香港から英国にいずれ移住することを想定して、英国に銀行口座を開設するニーズはある。(英国の銀行口座開設には、多くの場合、勤め先のサポートがあるか、現地に赴いてから開設しなければならない。)あとはカンボジアの銀行や米国の銀行なども比較的耳にする方だろうか。ただ、KYCコストを考えて、門戸は閉じる方向に向かっている、というのはありそうだ。

オフショア口座の注意点

オフショア口座の場合、一定の残高要件が必要とされたり、一定の口座維持手数料を取られたりすることがあるので事前に確認をしておきたい。特に外貨建ての要件であったなら、為替変動で要件を満たさなくなることだって十分に考えられる。

また、居住地外に口座を持つと、日々口座を利用するということはないかもしれないので、しばらく口座を放置していたせいで口座凍結になることもしばしばある。口座凍結解除の手続きは意外と面倒であるので、オフショア口座といえど何らかの使い道を考えておきたいところである。

また、家族に知らせずにオフショア口座を保有していると、万が一のときに誰も存在を認識せず、そのままになってしまうこともあるので、仮に隠し資産のつもりだったとしても、その存在を知る人は用意しておきたい。それに各種税金関連も怠れないので、専門家とは繋がりを持っておくべきであろう。

国際派には必須か

そもそも銀行口座である以上、使い方を想定しておくのは肝心で、オフショア口座を持つ最も大きなメリットは海外に出て自由に動かせるお金を持っておくことなのかもしれない。海外移住をしたり、子どもを留学に行かせたり、国際結婚をしていたり、など国際的なバックグラウンドに置かれているのであれば、オフショア口座は一つくらい持っていて損はないのだろう。

逆に、口座の使い道が見つからない、日本人デスクがないと少し英語に自信がなくてコミュニケーションがままならない、などは口座にお金を入れてから後悔することもあるだろうから、注意をしてもらいたい。

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