資産を増やしたい人が資産運用をしている、というのは比較的多くの人の共通認識である。一方で、なぜ資産を増やさねばならないのか、というところに関する動機は様々である。リタイヤメントのため、子どものため、という目的がきちんと設定できれば人は動けるが、一方でキャッシュ(現金)が多い人の動機は別にある。それはインフレ(物価上昇)である。今回は、インフレに備える投資戦略の考え方に触れてみる。

インフレに備えるということ

現金のまま置いておくとインフレで価値が目減りする

この事実がもしまだ腹落ちしていないのであれば、頭を捻って理解しておく必要がある。見た目の価値が変わっていないのに、購買力が落ちている、というのであるから、話は確かにちょっと小難しい。

これが理解できたなら、先に進もう。

世の中的には、日常的にインフレ(物価上昇)が起きていることの方が一般的である。日銀やFRBといった中央銀行もそれを目標にしている。一方で、日本の過去数十年の歴史においてインフレがなかったばかりか、デフレ(物価下落)とまで言われる現象が見られたのも事実である。貴重な経験だったのには違いない。長く生きていればそういうこともある。

ただ、インフレは予期できるものなのか、と言われると実はそう簡単なことではない。だから物価上昇に合わせて行動する、というのは正直言って現実的ではない。ではインフレに備えるとはどういうことなのか。それはつまり、インフレが起きても起きなくても大丈夫な状況に資産を置いておくことである。

インフレに備える投資戦略

インフレに備えるために投資戦略としてできることは大きく分けて二通りである。

  • 高い実質リターンの資産に投資する
  • インフレヘッジできる資産に投資する

勘違いしてはいけないのは、現金を離れることがすなわちインフレ対策になっている、とは限らないことである。投資資産だって同じようにインフレには晒されている。同じペースでインフレにさらされることになるが、現金の額面は変わらないのに対して、投資資産は価値が変動する、したがって、インフレよりも価値が上昇すれば、インフレには打ち勝っているわけである。

高い実質リターンの資産に投資する

どの資産がインフレに強いか弱いか、というところを離れて、全体として高い実質リターンを実現するようにもっていくことである。インフレが2%で、全体のリターンが5%だったなら、実質リターンは3%でインフレには勝ったことになる。もちろん3%が十分なのかは別の観点ではあるが、とにかくインフレに備えることはできたことになる。実質リターンがプラスの状態をずっと続けることができれば、資産価値としての購買力は維持され、生活水準が変わることもない。

インフレヘッジできる資産に投資する

インフレには期待されているインフレと期待されていないインフレの二種類がある。今年食品価格が5%上昇したなら、それを目にしたあなたは次の年も同じくらいなのではないか、と考えたとする。これが期待されているインフレである。一方で、その期待を超えて、実際は10%の上昇が次の年に起こったなら期待されていないインフレは5%ということになる。インフレヘッジのうち、この期待されていないインフレに対処するのはより難易度が高い。想定と違ったことが起こってもインフレに対して打ち勝つことで、資産の目減りを防ぐため、インフレヘッジできる資産に投資するわけである。

インフレを気にしなくていいケース

皆が皆インフレを気にしないといけないのか、というのは非常に悩ましい観点である。どういうインフレ対策が必要なのかは人によって異なる。

例えば、賃金はインフレとともに伸びていくことがある程度は想定できる。例えばサラリーマンとして働いて家賃を払っているのであれば、収入と支出に関してはインフレヘッジされている、という見方もできる。

そして、収入と支出がインフレヘッジされ、その上で貯蓄が生まれるのであれば、貯蓄に回せる金額も増えるかもしれない、負債はインフレを通じて返しやすくなった、とも言える。でもインフレが起こって金利が上昇し、返済額が増えることもあるかもしれない。だから、負債が固定金利になっていればインフレはどちらかと言えば恩恵なのかもしれない。

不動産を保有して賃貸経営しているならどうだろう。インフレとともに賃料を上げることができるので、収入面のインフレヘッジができていそうな気がする。では、事業経営をしていたらどうだろう。提供しているモノやサービスによっては原価が高騰する一方、インフレに合わせて料金を上げ、結果として収益拡大する場合もある。

すぐに支出してしまうものもインフレを気にするのが難しい。そもそもインフレによる資産価値の目減り、は時間軸が長いほど大きい。したがって、たくさん稼ぎ、たくさん使うその日暮らしをしているケースは違っているわけである。確かにものの値段は上がったとして、購買力を維持するためにはそれ以上に稼ぐしかない。

資産に対するインフレヘッジは甘くなりがち

インフレは様々なところでお金の価値に影響を与えて実感を与えているものの、いずれの場合も、資産がインフレヘッジされているか、は後回しにされやすい。目に見えて変わっているかどうか、というところが分かりづらいからである。投資を通じて資産を減ることは嫌だ、元本保証があるかないかは大事だ、と答える人ほど額面の価値の減少には意識が向きづらい。

投資で何かミラクルを起こしたい、というのとは別に、築いた財産を長期間にわたって維持する、ということのためにポートフォリオは構築し、そして続けていかなければならないものなのである。そうしたものを基礎だと考えて実践し、その後に知識を深め、投資によって生活を賄うことを考えるのでも悪くはない。

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