中小企業の経営者の場合、常に頭の中に本人のことと法人のことが同時によぎっていることが多いわけですが、資産運用をする上で、両者の区別は非常に重要になってきます。

中小企業経営者にはどのような資産運用のアドバイスができるでしょうか。独断でリスクの高い投資に会社の資金を投下しないために。

個人と法人の線引き

法人にも様々なビジネスを営んでいる会社もあれば、個人の資産を管理する資産管理会社もあります。個人としての経済規模が大きくなれば法人化するというのも一つのテーマとしてよく挙げられます。日本の場合はそこでの税制の果たす役割が大きく、大いに悩むことでしょう。

香港の場合は、個人での所得と法人での利益にもちろん扱い違いはあれど、資産運用をする上においては大きな隔たりを感じることはあまりないようです。それに個人の口座でも法人の口座でも資産運用は可能です。

一方、個人と法人の違いがどこに出てくるかというと、一番は資産寿命です。

個人の場合は寿命がありますから、年をとるにつれて保守的なポートフォリオに変えたりすることがありますが、法人の場合に事業をたたむ計画がない限りは資産は長期の投資ホライズンで考えることが可能です。相続における取り扱いもそれに合わせて変わってきます。

もう一つは、口座開設時の必要書類が異なってきます。法人そのものに関する書類もそうですが、株主や主要役員に関する情報も求められるため、手続きとしては個人より法人の方が大変です。

また、銀行口座開設と違って、資産運用をするだけなら事業計画までは必要ありませんが、運用方針は文書として残しておくことが望ましいです。

法人での資産運用の特徴

富裕層の場合は、法人を持っていることは珍しくありません。資産運用のためだけに法人を設立することもそうですね。したがって、個人なのか法人なのかは話が進む中で自然と決まっていきます。

ただ、法人資金の場合はいくつか特徴がありますので、ここでは3点ほど挙げておきたいと思います。

運用方針を取締役会などで決定

法人とは個人とは別人格です。したがって、意思決定の跡をクリアにしている必要があります。自分の会社だから、と言って独断で進めていると利害関係者から異論が唱えられることになりかねません。

運用方針を決めるにあたっては少なくとも代表者以外の財務担当者であったり、あるいは共同経営者の方への説明が必要となることが多いです。また、一括りに法人といってもそれなりの規模になると、その資金の運用方針は取締役会などで決定することが多くなるかと思います。

よくある規定としては、「絶対に元本が目減りしない」ことを掲げるケース。不動産の管理組合などはまさにこの典型でしょう。この場合、ほぼほぼ定期預金、または手堅い債券で運用するしかないということになりそうです。逆にこの制約に縛られて、債券だからといって証券会社から仕組み債を買わされて大損したという報告は後を絶ちません。

冷静になって考えてみてもらいたいのですが、会社の規定の内容は、”債券で運用する”ことだったのでしょうか。いや、そうではなくて“リスクを抑える”ことであったはずなのです。経営者はしばしばチャレンジャーでもありますが、法人資金が保守的に運用される理由を代表者の方もまたよくよく考える必要があります。個人の資金は個性たっぷりの運用でも良いとは思いますが。

資金寿命は長いが、資金流出イベントには備える

法人には寿命がありません。財団などの形態になると資産寿命の長さはさらに顕著です。

したがって、個人のライフプランに左右されない運用が可能なので、より長期的な目線に立つことができ、投資ホライズンの長さによりリスクテイクの余地を作ることができます。

ただし、事業法人の資金の場合、設備投資や事業投資、つまり大きな資金流出が発生することがあります。そういった計画は明日明後日というよりは数ヶ月先、あるいは数年先といった形で組まれますから、情報を予め共有いただければ、それに合った運用内容を考えることになります。

場合によっては資産運用を維持しながら借入を一時的に起こした方がいいというキャッシュマネジメントのあり方も想定できます。

退職金の準備

個人の場合も老後の資金を用意しますが、法人においては、誰にどのような退職金をいくらくらい用意するか、ということも課題に挙がってきます。法人の資金を個人の資金に替える大きなタイミングだからです。

もし一代目ならば、ご自身が築き上げた会社を離れる算段をするのもなかなか腰の重い話だとは思いますが、どのように後継者に繋げて二代、三代と経営を続けていくのかもまた重要なことです。

退職金が準備できたら辞めなければならないというものでもありません。でも、逆に退職金が捻出できないと辞めたくても辞めれないという話は後を断ちません。退職金を言い訳に会社にしがみつかなくていいようにしたいものです。

IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)の活用

中小企業経営者にとって資産運用は本業ではないことがほとんどです。できるのであれば外部のファイナンシャルアドバイザーを雇うことも選択肢の一つと考えるべきでしょう。具体的にはIFAは以下のような役割を担うことができます。

共同経営者や取締役会への説明

個人資金の場合であっても、ご家族に運用計画の共有をしますよね。

特に経営者の場合は、他のパートナーに対して、より客観的にそれを示す必要があります。たとえ社長が行なった運用であっても、社長の一存で決まったというよりは事前の説明や中身の共有をしていれば理解を得られやすいです。

また、第三者からのセカンドオピニオンをとったという事実がクッションにもなり、重要です。つまり、経済環境の説明などの軽い話でも、外部アドバイザーの意見を聞くことは、利害関係者が複数いるときには有効です。

取引銀行と異なる資金の預け先

事業経営において、銀行は大事な取引先だとは思いますし、良い銀行の担当者に出会えれば、経営を上手く行かせてくれますし、大規模なM&Aなどになれば専門の部隊を用意してくれるでしょう。

しかし、“懐具合”を知りすぎていると、大胆な意思決定や銀行の利益にならない事案には賛同してくれない、というケースも起こり得ます。IFAを利用するメリットはその名の通り独立性(Independence)にあり、使い勝手の良い“隠れ金庫番”的存在になれようかとは思います。

複数世代に渡るお付き合い

IFAは、“転勤がない仕事”として、お客様の退職計画、そして次世代への事業継承などを長い目で支援することが可能です。場合によっては、後継者探しをすることもあります。

車内での収益プレッシャーや銀行そのものの再編などに巻き込まれることなく、長ければ複数世代にわたって、ヒトとヒトのお付き合いをしていくのにはこの方がいい場合もあります。

最後に

もちろん、資産運用そのものが本業となるケースもありますが、多くの場合は、本業の利益、経営を補完する形で資産運用が存在します。内部で優秀な運用マネージャーを雇うこともできます。

いずれにしてもIFAはいわば、資産運用機能のアウトソースであり、セカンドオピニオンを聞く外部の相談役でもあります。外部アドバイザーの存在により、経営に集中することも可能になりますね。

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