国際金融センターである香港で金融サービスを受ける人は多いし、その目的は様々であるが、日本人に関して一つ共通して言えることがあるとすれば、香港で日本円で資産を持っておきたいという人はまずいない、ということである。

外国人と話してみれば、多くはないにせよ、日本の不動産や株式への興味を示す人はいることに気付く。

当たり前といえば当たり前だが、香港とは外貨で資産を持つ上では重宝する場所なのだ、と考えられる。

香港ならではの金融商品は何か、みたいなことを考える前に、実は外貨保有の意味を理解することは重要かもしれない。

「外貨」で資産を持つことの意味

なぜ、外貨で資産を持つのか。その答えの基本は為替リスクのヘッジにある。ヘッジというのは回避であり、削減である。つまり、かなり保守的である。

日本円だけで資産を持つことに対するリスクを認識していることになる。それのどこがリスクなのか?という人もいるだろう。為替リスクは誰しもが直面するものではない。日本の田舎で生活する老夫婦にとって問題かと言われるとそうでもない。

しかし、同じ仕事を他の国でする選択肢を持つ人、子供を海外に留学させたい人、海外旅行をよくする人などは実感しやすい。あるいは気づきづらいが生活が輸入品に支えられているようなケースもそうかもしれない。

リスクとは、本来したかった生活ができなくなること、したいことをそのまますると支出がより大きくなること、であると考えられる。これは何としてでも回避したい。

あるいは外貨の方が強くなると期待して、「外貨に投資」する感覚の人もいる。買った外貨が“値上がり”すれば売却して利益を得ればいいという発想である。外貨の方が金利が高いので、どうせ置いておくならば、外貨で置いておこうと考えるのもあるかもしれない。

同じ「外貨を持つ」なのに随分とニュアンスが違うことに気付かされる。

「外国」で資産を持つことの意味

視点を変えてみると、「外貨」で資産をもつことと、「外国」で資産をもつこと、もまた少し違うことに気付く。

外国なのだから外貨に決まっているだろう、と思うかもしれないが、そうではない。

なぜ、外国で資産を持つのか。その答えの基本はカントリーリスクのヘッジにある。同じく、ヘッジというのは回避であり、削減である。やはり、かなり保守的である。

日本でだけ資産を持つことに対するリスクを認識していることになる。それのどこがリスクなのか?という人もいるだろう。あるいは住んでもいない外国に資産を持つことの方がよっぽどリスクだという人もいるかもしれない。

カントリーリスクとはそもそも何なのだろう。人によっては、財政破綻だとか、戦争だとかを引き合いに出す。現在世界の多くの国では法定通貨が流通している。つまり、国ごとに通貨が存在し、その価値を保証しているのは実質的にその国の政府である、ということになっている。

よもや、一万円札そのものに物理的にそれだけの価値があると言う人はいるまい。物理的な価値でいうならば、食べられるリンゴ一個の方がよっぽど価値があるかもしれないではないか。

どんなに大きな資産を築いたとしても、雲散霧消するリスクはゼロではない。あるいはウクライナ危機の中でのロシアを見ていれば少しばかり想像しやすいかもしれない。ここで言いたいのはロシアが良いの悪いのではなく、国とはそういうものなのだ、と言うだけの話である。

外貨のマネジメントを学ぶ

知っているかもしれないが、外国為替の変動率は極めて高い。しかもある国の通貨と別の国の通貨の相対的な関係を表しているに過ぎないので、今後どうなるという話も実はしづらい。企業の業績に基づいて動く株価とも全く違う存在なのである。

一方で、外貨のマネジメントを学ぶことは、日常的に必要な所作かもしれない。海外で働いて外貨で給与をもらったとして、それを投資に回すかはさておき、いつ本国に送金すべきかは誰しもが悩む。放っておけば、数ヶ月で数十%変わっていることすらある。

高利率の外貨預金で痛手を被った人もいるのではないか。年率10%あったところで、外国為替が3ヶ月で20%も動くようではなんのためのものなのか全く分からない。

資産の中でどのくらい外貨を保有すべきか、と言うことに関しては極めてケースバイケースであると言えるが、そもそも埋没しがちな大きな論点なので、外貨のマネジメントを学ぶ、というスタンスに立ってもらえれば、話はしやすいと思う。これから円安なのか円高なのか、に賭けるよりずっと有意義な会話になるだろう。

香港は外貨を持つのに適切な場所か

「国際金融センターとしての地位が揺らぐ」など香港ゆえの地域リスクについて色々な議論がなされるが、その本質はどこの国や地域にも当てはまるものである。

中国本土の影響が強くなってきたから、という人ほど、中国本土に行って仕事をする人もいるし、自由が薄れてきたからといって本来的に独裁国であるシンガポールに資産を移すことを考える人がいる。一見するとロジカルでないが、感情面も大きいのだろう。全てはバランスである。

通貨面において香港が便利な点は、香港ドルという地域通貨はあるものの、実質的に米ドルにペッグされていることである。このことは、通貨決済システムにも現れており、米ドルの取引量も非常に多い。ペッグされているならどちらでも良いじゃないかという人もいるが、どちらでもいいなら、資産は米ドルで持っておく方がよいと考える人もいる。流通量の多い通貨の方が何かと手数料が安いという実利の面もあるからだ。

それ以外にも、ユーロの取引や人民元の取引も活発に行われている。旧英領の名残から、ポンドでのサービス提供をする金融機関も多い。

香港でマルチカレンシーの資産管理の基礎を身につけることは意外と手頃にできることだし、それゆえにやっている人が多いと思う。

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