保険契約における登場人物は、①名義人、②被保険者、③受益人の3人です。今回は、①と②の関係にフォーカスをし、そこからさらに発展して、被保険者を複数人にすることは可能か、という話をしてみます。
結論から言うと、可能ではある。が、入念なプランニングが必要、になります。
目次
被保険者という存在
生命保険をかける、というとまず第一に思いつくのは自分自身に対してですよね。万が一のことがあったときに家族が困らないように、と考えるからです。
もう少し一般化するならば、保険をかける対象というのは、その人がいなくなると経済的なバックアップが必要になるとき、であるのが分かります。
厳密に言うならば、いなくなると損失がある、ということと同時に、生きている間は得ているものがある、という関係が必要とされます。
ただ、ますます難しくなってきた気がするので具体例を。
生まれたばかりのお子さんがいたとして、その母親がいなくなることは、父親にとってどうでしょうか。いざとなればお金では割り切れない思いがあるかもしれませんが、やはりそこに経済的バックアップは必要です。だから、父親は妻に対して保険がかけられます。家族を失うことは損失です。
そして生まれてきたお子さんはどうでしょう。切ない言い方かもしれませんが、お子さんを失って経済的には損失でしょうか。実は国によって微妙に考え方が違います。でも、例えばお子さんが難病を抱えてしまってそれを親として支える必要があったら、経済的なバックアップがあって然るべきですね。
では、子どもは親に対して保険をかけられるでしょうか。経済的に親に頼っている面はあるかもしれません。でも、一般にはこれは保険をかけられません。家族を失って悲しいのに、親が自分で入った保険により、亡くなって保険金を受け取ることはできても、子どもが親に保険をかけることはできない。なぜなのでしょうか。
被保険利益(Insurable Interest)とは
生命保険の場合、簡単に言うと「その人がいなくなると経済的に困る関係にある」ことを指します。これを被保険利益=Insurable Interestと言います。
家計を同一にする夫婦はどうでしょうか。Yesですよね。フィアンセは一般にはNoです。
一緒に住んでいる息子はどうでしょうか。成人していればNoだし、未成年であれはYesですね。
その人が社長を務める会社はどうでしょうか。Yesですね。
兄弟姉妹はどうですか。Noです。従兄弟や叔父叔母はどうですか。Noです。
もちろん赤の他人はNoですが、家族だったらいいわけでもない、というのは分かりますでしょうか。
つまり、名義人と被保険者の関係性を問われるわけです。
なぜなら、保険の名義人にとって被保険利益があることが保険契約の成立にとって重要だからです。
逆に言えば、被保険利益がない場合、その保険契約は契約として法的に無効である、という結論になります。
香港における親子の位置付け
香港では、未成年のお子さんに対して親は保険をかけることができます。成人したお子さんに対して親は保険をかけることができません。
では、子どもが成人したらそのときに保険を解約しなければならないのかというとそういうわけではありません。
なぜでしょうか。
被保険利益は保険契約の成立時に存在していればよく、保険契約が終了する(=保険金が請求される)ときになければならないものではない、と解釈されています。
したがって、保険加入時に関係性の確認を行い、それが契約成立をもたらすわけです。
ちなみに、夫婦が離婚した場合も同じです。財産分与の論点はあるかもしれませんが、離婚の事実をもって保険契約が消滅するわけではありません。
生命保険の寿命
生命保険のタイプには、定期保険、養老保険、終身保険などがあります。つまり、満期が存在するものもあれば、死ぬまで継続するものもありますよね。
一般には被保険者の死亡=保険契約の終了でもあります。被保険者が複数人いる場合は、全ての被保険者が亡くなったときが保険契約の終了です。
通常は被保険者は保険加入時に選ばれ、そして変えることはできません。当然年齢や性別、健康状態などに基づいて保険料が算定されているからですね。
一方で、被保険者を保険契約期間中に変更する、ということもできる場合があります。仮にお子さんが被保険者に加わるのであれば、当然ながら一世代先まで生命保険の寿命が延びることが想像に難くありません。結果として100年、130年という契約期間を持つ保険契約が存在するのは何も本人が長生きすることだけを想定しているわけではないのです。
共同被保険者という考え方
そもそも被保険者は複数いてもいいのでしょうか。結論から言えば構いません。ただし、名義人と被保険者の関係性、つまり被保険利益については上述のとおりです。
被保険者として選ばれる人全てについて被保険利益がなければいけません。
したがって、配偶者は被保険者としてまずはOKなので、夫婦が共同被保険者という形態をとるのは問題ありません。
次に、その子どもも被保険者に加われるか、というと、ケースによります。成人していれば難しく、未成年であればそれも可能かもしれません。可能であれば、被保険者は3人でも構いません。
一番若い人が結局最後に残るのだから最初から一番若い人一人でいいんじゃないか、と考えがちですが、現実には順番までは分かりません。そもそも被保険利益があるということ自体が、保険をかける価値について考える意味があることを指しています。
なお、名義人と被保険者が異なっている場合、名義人が先に亡くなった保険契約は誰のものになるのでしょう。実はこれに対する答えはやや複雑になり得ます。少なくとも被保険者が亡くなっていないのであれば保険契約は残ります。死亡保険金を受け取れるわけではありません。
結果として保険契約の面倒を見る人は被保険者に選ばれた人物である可能性が高い、ということになります。
共同被保険者がいいかどうか
生命保険はいずれ訪れる死に対して保険をかけています。人間には平均寿命というものがあり、確率的には若くして亡くなる方が少ないです。逆に年齢が上がってくると亡くなる可能性が上がるため、若い方が保険料は安く、年齢が上がると保険料が高くなります。かけている死亡保障は同じなので、保険料を少なく、死亡保障が多い方が差額は大きくなります。
被保険者が二人以上いる、というのは、どちらかが亡くなったら保険金が下りるわけではなく、どちらも亡くなったらという話です。そのため、被保険者が一人のときに比べれば保険契約としては長持ちすることが予想されます。
したがって、長持ちさせたい保険契約であれば、共同被保険者を選ぶモチベーションは高くなります。
ただ、共同被保険者がアレンジできたとして、それが果たして当事者たちにとって最善の形なのかどうか、というのはよくよく検証してみる必要があります。場合によっては関係を複雑にするだけだし、一方で意図した財産のあり方について明確に指示するためのものになるかもしれません。
是非こういうケースはどうだろうか、など具体的なアイデアがありましたら私までプランニングのご相談をいただけたら幸いです。