香港で始動したバーチャル銀行たち。既存の巨大な銀行セクターに新風を巻き起こせるかどうか、チャレンジは始まったばかりである。

バーチャル銀行とは

バーチャル銀行とは、Virtual Bank、バーチャルバンク、仮想銀行、などと呼ばれているもので、香港におけるネット専業銀行の総称である。

ネット専業なので物理的な店舗を持たないが、単に銀行の中で店舗を持たないものをそう呼んでいるわけではなく、もともとバーチャル銀行としてのライセンスを持って営業を行っているのが特徴。2019年5月からライセンスの付与がスタートし、2022年4月現在、計8行が認可されている。

Hong Kong Monetary Authority – Virtual Banks

国際金融都市香港には世界中から銀行が進出しているため、銀行口座自体は色々なところで開設することができるが、そこに新風を巻き起こすべく入ってきたのが、バーチャル銀行という業態である。

具体的に違いをみてみよう。

普通の銀行とバーチャル銀行の共通点

ATMが手数料無料で利用できる

香港の銀行ATMにおいては、現在は基本的にはどこの銀行のATMを用いても手数料無料で引き出しができる。バーチャル銀行の場合も非常に多くのATMで同様のことができる。ただし、バーチャル銀行毎に利用できるATMはやや違いがあるので、詳細は調べておくことをお勧めする。

カードが発行されるのでお買い物が楽

バーチャル銀行の中には、VISAやMasterCardなどと提携をしてデビッドカードないしクレジットカードを発行してくれるものがある。街中での買い物においてこれらを利用できるし、デジタルのカードのみの場合でも、ネットでの買い物には利用できるので普段使いのカードとしては便利だろう。1-5%のキャッシュバックで利用者に還元しているカードもある。

主な取扱通貨はHKD, USD, CNY

香港の主要な通貨である香港ドル、米ドル、人民元をカバーしているバーチャル銀行は多い。それ以外だと英ポンドや日本円などが付加的なサービスとしてあったり、あとは中国本土との人民元の取引がやりやすいものもあったりするようだ。バーチャル銀行の出資先とターゲットとする顧客層によってやや差は出るが、香港で普段使用する分には不都合はなさそうだ。

定期預金ができる

通常の銀行同様、預金、そして定期預金はできる。店舗がない分人件費が安いのもあってか、金利のキャンペーンをやっていることは多いので普通の銀行に預けておくよりも金利は高い傾向がある、かもしれない。ただし、銀行としての規模からすれば普通の銀行の方が大きいので、多額の預金をするのはやや不安を感じる人もいるかもしれない。

借入ができる

預入ができるのに加えて、バーチャル銀行でも借入ができるケースがある。税金払いのためのローンや中小企業向けのローンなど、多少の個人信用を利用できるのはいざというときに有難いかもしれない。

預金保護スキームの対象

銀行にお金を預けておくのが一番安全と思っている人はいるが、実際は銀行が潰れれば返ってこないお金がある。その際の保険になっているのが預金保護スキームであり、日本と同様に香港にも同様の仕組みが存在する。

預金者一人あたりHKD500,000までが守られる。香港ドルだけでなく、ユーロや日本円も含まれる。バーチャル銀行はベンチャー企業でもあるから、万が一のときにどのように守られているのかは確認しておきたい。

Information Leaflet – Hong Kong Deposit Protection Scheme

バーチャル銀行のメリット

銀行の支店に出向かなくてもいい

香港における銀行口座開設のハードルの一つは支店訪問にあることがある。単純に移動が面倒だというのと、英語や中国語での会話を求められることが挙げられる。

場合によっては開設を拒否されることもあるため、スマホアプリに情報を入力するだけで口座開設が可能だ、というのはバーチャル銀行の大きなメリットである。

また、普通の銀行のように窓口にいったら、興味のない金融商品などのセールスに遭う、ということもない。ストレスフリーとも言える。

住所証明が不要

口座開設時に、香港に住んでHKIDを持っている必要はある。けれども住所証明として何か書類を提出して欲しいと言われることはバーチャル銀行の場合はあまりない。

もちろん住所を登録すれば何がしか郵便物が届いたりはするので、偽の住所というわけにはいかないが、家族と一緒に住んでいて自分名義の契約が何一つない場合もハードルは低いと言える。

勤務先の細かな申告が不要

口座開設時に、職業に関する質問はあるが、あくまで職業概要でよく、勤務先名を入力したりといった、具体的な登録はしなくても構わない。

したがって後々アップデートしなければならないという手間は少なくなる。ただし、バーチャル銀行でもより大きな取引をするようであれば書類の提出を求められるので、そこは気を付けたい。

バーチャル銀行のデメリット

一部の銀行サービスが利用できない

バーチャル銀行はそもそもデジタルの世界に特化しているので、小切手(チェック)は利用ができない。香港のビジネス慣習では未だに小切手がよく用いられることを思うと、やや制約が大きいかもしれない。

また、当座貸越のように残高がマイナスになるような取引も許容されないこと、あるいは住宅ローンのような本格的な借入にも向いていない。

大きな信用を扱うようなサービスとしてはまだ成り立っていない。

対面での相談窓口がない

バーチャルというからには対面での相談窓口がなく、基本的にはスマホのアプリなどを利用し、そして問合せは電話などで行うことになる。

窓口に行けば万事なんとかなる、という解決策がないので、いざというときには少し不安に思う人もいるかもしれない。

サービス連携はまだまだ模索中

現状、各バーチャル銀行は様々なサービス連携を行っており、それは普通の銀行と異なるものも多い。一方で、その便利さを享受するためのサービスネットワークはまだまだ建設途中と言えるもので、既存のプレーヤーとの力関係などが影響してくる。ユーザビリティという意味での期待値は高い。

バーチャル銀行の使い勝手

バーチャル銀行は使いやすい面があるものの、普通の銀行と比べて格段にメリットがあるかと言われるとまだ可能性が未知な部分も多い。

招待コードを用いて口座開設すれば、お友達紹介キャンペーンとして紹介された側にはHKD100-5,000のキャッシュバックがあり、また、日々のお買い物もキャッシュバックとして1-5%還元され、得をしたと思えるものもある。

キャッシュレスの生活に移行するにつれて日々の細々とした支払いが増えると、バーチャル銀行を家計簿的に使うことも可能にはなろう。メインバンク(普通の銀行)とサブバンク(バーチャル銀行)といった具合に役割を分岐させることができれば、より効率的な資金管理ができそうだ。

また、バーチャル銀行もいくつかあるので、個人利用なのか法人利用なのか、あるいはサービスの連携の具合などをみながら、最も自分にとって役に立ちそうなバーチャル銀行を選別するのも大事になってくる。

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