高齢期における資産の適切な管理・運用は大きな課題であり、金融ジェロントロジーという分野まで登場している。実践面でのポイントは何か。

金融ジェロントロジーとは

ジェロントロジーとは、日本語に訳すと、「老年学」ですが、高齢社会において、社会や個人が抱える問題を解決することを目指す研究のことです。

中でも、金融ジェロントロジーとは、高齢者の資産をいかにして適切に管理・運用するかについて研究する学問分野を指します。

そもそもなぜ注目されるかというと、高齢化の急速な進行に伴って家計資産が高齢者に集中する現象が起こるからですね。

一方で、何が課題なのかというと、高齢者の場合、認知機能の低下により金融取引の正常な判断が難しいとされることです。

金融取引というと堅苦しいですが、もっと言えば生活資金のマネジメントすら、適切に行うことが困難になる可能性があります。

高齢期の人間にとって重要なのは、「高齢期にあって認知能力が衰えた後でも、可能な限り以前と同様な金融サービスを享受できる」ことになってくるのです。

そのための環境づくりとして金融ジェロントロジーは重要とされています。

認知能力は年齢とともに低下する

認知能力が低下しない方法があればそれはそれで重要にはなってきますが、現状は認知能力は年齢とともに低下する運命です。

つまり、低下することを前提にしておかなければなりません。

例えば、電話での説明、パンフレットを用いた説明、いずれにしても十分に内容を理解していなくても、「担当者が熱心だから」「孫のためになるなら」など投資の商品の性質を理解せずとも投資してしまう、という事態もあり得ます。

考えられる対策としては、よりリスクの低い商品の提案に限定する、あるいは理解しやすい説明を心がける、ということでしょうか。

ただ、これによって、「以前と同様な金融サービスを享受」していると言えるのかどうかは分かりません。

資産寿命を延ばす

人間には寿命というものがあり、自ら築いた資産もまた最期の時を迎えれば本人にとっては必要がなくなります。

したがって、資産寿命は人間の寿命と同じである、という人もいるかもしれません。

しかしながら、一つだけ違うことがあるとすれば、人間の命はある日突然事切れることはあっても、資産はそうではないという点です。

一方、資産は消費すれば減っていくので、人間の寿命が長くなればなるほど、資産の寿命は短くなります。

高齢期における資産の寿命を延ばすには、若いうちの取り組みももちろん重要だが、高齢期に突入した後の取り組みも重要になってくるのです。

資産寿命を意識せずに生きてしまうと、亡くなる前に資金が尽きてしまい、金銭的に足りない生活になってしまう可能性すらあります。

高齢化する前の対処

金融ジェロントロジーについては高齢化してしまう前に知っておくことも重要です。

現役世代ですら、正しいお金のマネジメントができる人は多くないですし、投資に関して適切なアドバイスをもらっている人は多くないのです。

認知能力が下がった状態でも、正しい意思決定に導いてくれる存在に出会っておかなければならないので、その作業は早い段階でしておかなければなりません。

金融ジェロントロジーを実践する

金融サービスには、相手の顔を見ない、つまり各個人の認知能力について考えない、一律の対応を行っているものが多く見受けられます。

多くの顧客を相手にするからこそ、年齢や性別、預かり資産の金額などで切り分け、セグメント毎にどのようなセールスを行っていくかが決まってしまうからです。

投資は自己責任、だから顧客が選んだのだからそれでいい、といった雰囲気すらあります。

もちろん、顧客が商品内容等を理解していないと判断した場合、販売を行わないなどの対応は可能ですが、現場の担当者の感覚に頼る部分が大きく、

そしてその感覚を判断に反映させることそのものが、善意に依存しかねない、というところにも大きな課題が残ります。

認知能力の低下に対応する上で、一つできることは、ご家族との関わりを増やすことでしょうか。

このことはご高齢でなくてもそうで、担当者と顧客という1対1ではなく、複数の眼で見てより良い方向を模索していくことは重要です。

実際、高齢期においてはお金のマネジメントのみならず、幅広い生活の支えもまた家族に担ってもらう可能性があることからすれば自然なこととも言えます。

それこそが金融ジェロントロジーという、より狭い領域から、ジェロントロジーという、より広い領域における課題の解決に繋がり、より良い高齢期を過ごすことに繋がるのではないかと思います。

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