初めてウェルスマネージャーに会ったとき、ウェルスマネージャーは資産運用に関わる仕事をしており、顧客の資産を増やすのが使命である、という印象を持つ人はいる。間違ってはいないものの、実際はもっと幅広い役割を担うべき、あるいは担うことのできる存在であり、そこには顧客のプライバシーが大いに関わってくる。
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個人情報を共有したいかしたくないか
個人情報とは顧客自身が持つ顧客自身に関する情報である。
ウェルスマネージャーに限らず、この情報を誰に、どのように、どの程度共有するか、一人ひとりが都度考えていることである。家族や友達にだったら話す内容もあれば、職場の同僚に話す内容もある。あるいは自分だけしか知らない情報も当然あろう。
EYのレポートによると、ウェルスマネージャーに対しては、医者や銀行、保険会社よりも顧客が個人情報を共有する意思があることが分かる。
当然ながら、共有することによってより関連性が高く、見返りの多いサービスを受けることを期待していることになる。若い世代に関しては、どのような媒体に対しても情報共有の観点を重視していることにも注目できる。
どのような個人情報を共有したいか
ウェルスマネージャーと共有したいと思う個人情報とはどのような種類のものなのだろうか。レポートから抜粋したものにコメントしてみたい。
顧客管理データ
一般にCRMデータと呼ばれるもので、顧客の氏名、誕生日、連絡先などの基本情報を含む。金融機関にはKYCと呼ばれる本人確認プロセスが存在するので、一部は客観的なチェックを避けて通れないが、家族構成や年収、資産額など、本人しか正確な情報を知らないもの、というのは存在する。
少なくとも連絡先が分からなければ顧客としてのリレーションを築きようもないが、電話番号やメールアドレスといった公式なもののなかにも、普段づかいのものもあれば、サブのようなものもある。データと言わないまでも、LINEやWhatsappのように気楽に連絡を取れることを好む人もいるわけだ。
個人目標データ
資産運用をしたいと思うとき、年収や資産額、そこから資産運用に捻出できる予算のようなものを伝えればいいと思っているケースはある。
それは一つのヒントではあるが、ウェルスマネージャーとの関係を考えるのであれば、金銭的な目標やあるいは人生において達成したいこと、何のためにそれを目指しているのか、という情報は大きな手がかりになる。もちろん、偉業を成し遂げたいといった話ではなくて、家族のためにどのようなサポートをしたいだとか、老後はどのような生活を送っていたいだとかで構わない。目的の擦り合わせができることは、正しい軌道でゴールに向かう可能性を高める。
金融実態データ
結果的にウェルスマネージャーは顧客の資産のうちの一部を管理することになるわけだが、一人に全てを任せる場合も、そうでない場合もある。特に他社で何か資産運用に取り組んでいる、サービスを受けているという話をどこまで共有するか、というのは意見が分かれる。
知らせてしまえばお願いしてもいないアドバイスが飛んでくるかもしれないし、複数のウェルスマネージャーと話すことをよく思わない人も中にはいるかもしれない、と言う懸念がある。あるいは直接運用の話でなく、弁護士と話す相続のことや、会計や税務の相談などは、ウェルスマネージャー以上にその分野に特化した人と話しているからそれでいいというケースもあろう。
一方で、一人から受けたアドバイスを別の人に話して全く違う意見が出てきたのであれば、それは最終的に顧客本人にとってより良い選択について考えるきっかけにはなり得る。セカンドオピニオンというのはウェルスマネージャーの世界にも存在する。
交流データ
ウェルスマネージャーと話して何か取引が発生したのであれば、その記録は残る。ただ、その選択にあたってどのようなコミュニケーションが行われたのかも重要かもしれない。何かウェルスマネージャーから提案があって、最初は懐疑的だったが、丁寧に話してもらったのでよく理解できた、だったり、単に理解は完全に追いついていないものの、信頼できると思ったので任せることにした、など、意思決定プロセスの温度感というものは当然ある。書類にサインをしたことは事実であるものの、その過程もまた残っていると役に立つことがある。
非金融データ
資産運用と直接関わりのないもの、例えば、新しいサービスの案内を受けたいかどうか、メルマガでちょっとした情報を提供して欲しいかどうか、などもそうかもしれない。あるいは病歴、診療歴なども知らせておけば、適切な保険サービス選択のアドバイスをもらえるかもしれないが、そもそもそういうことを担当のウェルスマネージャーに期待していないかもしれない。
あるいはワインを飲むのか、海外旅行によく行くのか、などは一見関係はないようで、やはり定期的なコミュニケーションをどのタイミングで行うのかには反映できる。
情報が多いほどアドバイスは効果的に
顧客とウェルスマネージャーには情報の非対称性が常に付き纏う。
情報の非対称性とは、一方の当事者はある事実を知っていてそれをもとに判断しているのに、もう片方の当事者はその事実を知らずに判断している、ような場合に現れる。もう片方の当事者もその事実を知らされれば、同じように判断できるが、情報が欠落しているために判断が異なる、ということである。
当然ながら個人情報とはその人自身のところに最も多く集まっている。と同時に、情報が多いからこそ主観的になりやすいため、外部のアドバイスを求める、ということをするわけだが、この外部のアドバイスをするにあたって、その人のことを知らなければ、どのようなアドバイスができるだろうか。
世の中一般の話か、あるいはウェルスマネージャーの個人的な意見や経験に基づくもの、ということになり、その人にとって本当に必要なアドバイスとは言えない可能性がある。
体調が優れなくて医者に行ったとして、「風邪気味なので風邪薬をください」と伝えることは大きなヒントではある。ただ、その人は頭が痛いのか、喉が痛いのか、あるいは熱があるのかはケースバイケースであるし、そもそも風邪なのかを疑うのが医者の仕事でもある。いつから体調が悪いのか、それは時間とともにどのように変化していったのか、あるいは過去の薬剤の処方歴があるか、情報が多いほど効果的な処置になるだろう。
このような話はウェルスマネージャーにも当てはまり、もちろん適切な対応策を考えるために必要な情報は聞くことにはなるが、Q&Aで解決策が自動出力されるわけではない。顧客にとって最良の対応をするには、顧客自身にも積極的に関与してもらい、一緒に作り上げていく必要があるのがウェルスマネジメントなのである。
ウェルスマネージャーという仕事が顧客との二人三脚になり、長く関係を築くことでコミュニケーションを円滑にしているのは確かなことである。