最近になってリスキリングという言葉を目にしたことがある人も多いはず。しかし、単にスキルアップすることと一体何が違うのか。私のいるファイナンシャルアドバイザーという職種に照らして考えてみたい。

リスキリングとは

リスキリングとは、社会人が学び直しによって新しい知識やスキルを身につけることを表す用語である。

なぜ今になって注目されているかというと、人生100年時代とも言われる中で、これまで以上に長く働くことが想定される人が増えたからでもある。大学で学んだこと、新卒で築かれた知識や経験が、その後の人生全てを決めるかというとそうではないのである。どこかでキャリアが変わり、あるいは変わり続ける人生もあっていいし、今後はそういったことを積極的に考えていかなければならないわけである。

リスキリングは政策方針でもある

リスキリングというワードは知る人ぞ知るものではなく、既に「人への投資」として日本政府の政策方針に埋め込まれているものでもある。つまり、国をあげて取り組んでいかなければならない課題の一つである。

特に具体的な形として提示されるのは、デジタルトランスフォーメーション(DX)へ対応していくIT人材の育成にあるケースが多い。実際、これまでにないスピードでのデジタル化についていけていない人は多い。

リスキリングの対象になるのは、主には企業に勤めるビジネスパーソンを想定しているように見えるが、実際には、全ての職種に当てはまると言っていい。

企業として、個人としてリスキリングの必要性を認識し、実際のアクションにつなげていく必要があるわけである。

全然違う仕事に就くことはできるのか

リスキリングの最も大きな論点は、キャリアは断絶できるか、ということにある。これまでと全く違うことを人はできるのか、そしてそれを積極的にやりたいという人や企業はどれだけいるのか。

職場でイノベーションを起こせといってもなかなか上手くいかなかった記憶のある人も多いことだろう。そもそもそんなことができる人は初めから自分でそれをやっているはずだからである。

ただ、一方で、自分が持っているスキルを正しく評価できない職場がある、というのも事実である。評価する側が正しく評価できなければ、スキルが発揮されたと本人が自覚するはずもない。リスキリングには、個人が持つスキルの可視化が期待されており、結果として、全然違う仕事がヒットすることは十分にあり得る。

リスキリングのスタート地点

リスキリングをやっていると、周囲から意識が高い系と認識されたり、自己啓発ばかりで実践が伴っていないと感じたりすることはあるかもしれないが、肩肘張っている必要は全くない。多くの人にとって、リスキリングのスタート地点は、すなわち見直しにあるので、見直した結果、自分にとってより良い方向に進めることが肝心である。

例えば、数年後には今自分がやっている仕事はAIに置き換わり、人材としては求められなくなるかもしれない。そのときに、自分がやっていたい仕事を積極的に選択できる状態になっているかどうかがリスキリングにかかっている。

全く新しいことだと役に立つか分からないと思うのであれば、現在の仕事にも活かせることを選べばいい。

ファイナンシャルアドバイザーのリスキリング

私のいるファイナンシャルアドバイザーという職種にとって、一つは、リスキリングを通じて他業界からの参入はできるようになるだろう。確かに金融業界を経験していることは強みではあるが、一方で、お金に詳しいだけがクライアントから信頼を得る方法ではない。

金融セールス経験があれば短期的な収益をもたらすかもしれないが、持続的なビジネスにはならないかもしれない。幅広い経験をしていることが結果的にアドバイスの質を高めることに繋がるかもしれない。

あるいはファイナンシャルアドバイザーとして長く仕事を続けるにしても、時代とともにアドバイスすべき内容は変わってきて当然である。ただ仕事をしていればそういう変化を感じ、取り入れていけるかというとそうでもないと思う。日々の自己研鑽を怠ることはできないし、進んで社会の変化に順応するクライアントをサポートしていかなければならない。

ファイナンシャルアドバイザーとしてはライセンスを維持するために毎年決められた最低時間だけは勉強にあてなければならないが、それすらも流れ作業になってしまっている人を見かける。他人から決められたものに力を注げないのであれば、自らカリキュラムを組んで無理なく継続できる道を考える必要がある。

リスキリングの中では自分の強みについて理解することが求められる。そしてそれが本当にやりたい仕事として結実する方法を探すことも大事である。単に食いぶちを繋ぐ、あるいは探すだけの作業になってしまってはもったいないし、結果的にそれは長く続かない。

リスキリングの過程は、ビジネスモデルについて再考することとも近く、よりクライアントとアドバイザー双方にとって、心地の良い収益の上げ方について考えることでもあると思っている。例えば、単に金融商品の売買に紐付く手数料であるべきなのか、あるいはお客様から相談料という形でフィーをもらう方がいいのか。

時代とともに変わってくることが予想されるなかで、その変化を牽引できる立場にいられることは長く仕事を続けていく上で重要なのかもしれない。

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