仕組債に対する規制が強化される中でも、それでも残り続ける理由はどこにあるのか。仕組債の仕組みとリスクを理解したい。

仕組債はセールストークの権現

仕組債というのは、英語ではStructured Product/Bond/Noteと言われ、債券の体裁を保ちながらも、実際は付加価値的な仕組みを備えている金融商品である。

債券におけるキャッシュフローはクーポン(利子)と元本償還で構成されるため、仕組債に伴うのは、このクーポン(利子)と元本償還の部分をいじる、という作業である。本来想定できたクーポン(利子)を何らかのリスクと引き換えに別の形に交換する、あるいは本来想定できた元本償還を何らかのリスクと引き換えに別の形に交換する、というものである。

分かったような分からないような、という感覚に陥るだろうが、その感覚は極めて正しい。

一方、その曖昧さこそが、セールストークに繋がるのであり、よく分からないが上手くいきそうだ、という投資独特の感覚に結びつかせやすい。

仕組債を売る側からすれば、売りやすいように商品を作ればよいのであり、したがって作る時点で、鉄壁のセールストークが成立している、と言ってもよい。

ポイントは、売りたい商品が出来上がっていることであり、何も言わなくても皆が買いに来るような商品が出来上がっているわけではない、ということである。

用語がとにかく難しい 

仕組債に使われるストラクチャーはデリバティブ(金融派生商品)を利用したものであることが多い。つまり、実際のお金を動かすというよりは、ある価値と別の価値を交換し合うものである。特定の株価や指数、金利、為替などに連動するものを採用し、対価としては、高めの固定金利を提示している、ゆえに債券と呼ばれている。

はじめから仕組債である、と言ってくれれば警戒できる人もいるが、多くの場合、「何だかよく分からないが悪くないように見える商品のことを聞かされた」と話す人が多いのが特徴である。ひょっとしたら投資した後ですらそう思っているかもしれない。損失が出て初めて、あれは一体何だったのか、と本気で考える人が多い。

そもそも仕組債であることは、使われている用語を見れば気付けることが多いのでここでは代表例を挙げておこう。デリバティブの世界は横文字ばかりである。

トリガー(Trigger)

「○%の価格変動が見られた場合には」などの条件定義がなされていることがある。これをトリガーという。一定の基準値を示し、それに抵触すればこうなり、抵触しなければ、ああなる、という話である。

バリア(Barrier)

トリガーと似ているが、バリアは一定の基準値そのものを表す。バリアという言い方からしても、破られない方が投資家にとってメリットがあるように見えることが多い。バリアが破られた後も致命的なことにはならないにしても、何もなかった頃に比べると見劣りすることに気づくだろう。

キャップ(Cap)

「○%以上の上昇が見られた場合も○%以上は受け取れない」という類の条件定義があり、これはキャップという。本来リスクをとってその資産を持っていれば上昇幅を全て自分のものにできるが、一定以上の上昇分を相手に転嫁する約束をすることで代わりに自分は少しだけ確実なリターンをもらう、というような話である。

ノックイン(Knock-In)

株価指数などの参照指数が予め決められた水準を同等かあるいは下回ることをいう。ノックインが発生した場合、額面100では満期償還しないか、対象株式や現金調整額によって償還する場合がある。

上記は一例に過ぎないが、横文字だからという理由でワクワクした人は要注意である。

商品組成側は損をしない

単に市場で流通している債券を左から右に捌いて手数料を取るビジネスではなく、自ら仕組債という商品を組成して付加価値を提供し、それが手数料になることを想定している。

なぜわざわざ商品を組成するかというと、シンプルに儲かるからである。そして、なぜわざわざ商品を組成するかというと、自分が損をしない仕組みを採用できるからである。

この理屈、胴元が場を提供するカジノに似ているのではないだろうか。

損をしない仕組みなのに、投資家にとっても魅力的に見える、メリットがあるように見えるとすればどこかでリスクが誰かに移転している。基本的に魔法のような投資案件は存在しないわけで、利回りが高い、ということは何らかの追加的なリスクを負うことに繋がっている、と考える方が自然である。デメリットは、リスクが大きくなったことに投資家が気付いていないことがしばしばある、という点である。

仕組債は難易度の高い商品

一般的な金融商品のリスク分類として、デリバティブの要素を含むものは難易度の高いもの、と考えることができる。

シンプルに言うならば、投資をはじめて右も左も分からない状態の人が手に取るべき商品ではない、というのは間違いない。

次に、知識も経験もあり、資金量もある人は、手に取る上で適性か、という点では、確かにそうかもしれないが、それでも、そもそも難易度の高いものにチャレンジをして見返りが大きいのか、という意味では疑問点が残る。

仕組債におけるリターンは人工的に作られたものであるため、シンプルに言うならば「再現性」はない。一時仕組債で味をしめても、その結果が投資家としての成長に繋がることはない。

その意味で、根源的な価値が上昇し続けるものに投資する活動とは一線を画している、と言える。

仕組債が消えてなくならない理由

デリバティブは例えば為替リスクをヘッジしたりするのに使われるように、金融市場の一つの重要な機能を司っており、使い方さえ間違えなければ投資家にとって様々な場面で役に立つ。

仕組債が消えてなくならないのは、投資家にはリスク回避的な思考パターンがあるからである、とも言える。本来自然体で投資をしていればもっと大きなリターンが得られたのに、将来の不確実性を避けようと守りに入るのも人の心理なのかもしれない。いくらお金を払ってでも守りを固めたい局面というのはあり、そういう人の心の隙間に入り込んでくるのであろう。

一方で、機関投資家のようなプロの投資家の世界では仕組債のような商品に積極的に投資する例は少ない、ということは知っておいてもいいかもしれない。難易度が高いのに、プロはやらない、というのは非常に興味深いとは思わないだろうか。そう言う意味では、個人投資家における、ちょっとした遊び心のある投資においては一役買っているという面はあるのかもしれない。

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