昨今は随分とグローバルな時代になり、海外で生活しビジネスを営む人、日本にいても外国人と出会い、そしてめでたく結ばれるケースも増えてきた。生き方が多様化する時代においても、それを取り巻く法律や社会制度は必ずしも柔軟さを残してはくれない。
本稿では、海外が絡む相続、つまり国際相続について解説してみたい。自分が該当すると思っていないという人も多いが、以下のどれかに心あたりはないだろうか。もしあるとしたら、国際相続に直面する可能性もあるので要注意だ。
- 海外に遺産がある
- 海外に相続人が居住している
- 海外に被相続人が居住している
- 相続人・被相続人に外国籍の人物が含まれる
目次
国際相続は高くつく?!
富裕層の節税対策として、海外投資や海外移住が薦められることは少なくない。日本よりも税金の安い、オフショア地域が存在することも事実だからだ。合法的な術について知っていると知らないとでは大きな差がつくのだから、“ズルい”と思う人がいるのも肯ける。
一方で、自らの人生に“海外”というパーツを組み込んだなら、それは国際相続への大きな一歩を踏み出したことになり得る。
「海外にプライベートバンク口座を開設して資金を国外に出すところから始めましょう、出すだけならリスクは低いです。」そんなアドバイスをする人を私自身も見たことがある。果たして入り口に立つこの水先案内人、その資産の“最期”に関心はあるのだろうか。
プライベートバンカーもセールスパーソンであることに変わりはないから、効率良く儲けることを考えている場合は少なくない。一旦海外に資金が移ったならそこからは煮るなり焼くなり好きなようにできるからだ。
しかし、下手に出口戦略=国際相続の話をしようものなら、不安に思って口座を解約してしまうかもしれないし、あるいは関心を引きすぎて複雑な海外相続に関する質問攻めに遭うかもしれない。稼ぎにもならないとしたら、出口戦略は放置されることにもなり得る。出口を長引かせた方が業者として得をするということすらあり得るからだ。
しかし、国際相続は出口対策が肝心である。しっかり取り組めば費用はかなり安く、そして簡素なプロセスに仕上げることができる。逆に何も対策を施さなければ、せっかくあった資産も相続手続きの中で税金ないし専門家への報酬などでも目減りすることに繋がりかねない。
海外に資産がある場合のアドバイス
「もし明日自分が死んだら」を仮定するところから、相続対策は始まる。死んでからでは意味がないのだ。つまり、生きていることを前提にしていてはいけない。しかし、人間誰しも自分が死んだときのことを真面目に考えるのには重い腰が上がらない。
国際相続対策とは、残される家族のためのものであり、残される家族にとってどのように映るかに想像を膨らませることが重要である。
国際相続を一度経験したならともかく、そうでない人にとってはなかなか実感が湧かないだろう。「何でわざわざ海外に資産を残したのか」と故人を恨むほどに手間と労力がかかる面倒な作業であることは知っておくべきだ。
海外に資産がある場合、以下の手段を生前にとることによって国際相続手続きは随分と楽になる。
- 海外資産目録
- 共同名義、受益者指定、遺言作成
- 信託や財団
海外資産目録
誰にでもできることとして、まずは海外資産についてリストアップすることが挙げられる。そもそも本人ですら、それが“海外”資産に分類されると気付いていないことすらあり得るし、逆に海外資産だと思っていたものがそうでないということもあり得る。海外資産目録を作成することで、資産の一つひとつが相続手続き上どのように扱われるかブレークダウンすることができる。
また、本人以外の家族の誰も知らない資産もあるかもしれない。顧問税理士ですら、直接業務と関係のない資産であれば知り得ないし、仮に存在を認識していても海外資産のことまでカバーできる税理士は少ない。海外資産目録には、いざとなれば家族が連絡を取れるように、担当者の名前、電話番号、メールアドレスなどを書き留めておくべきだし、その担当者に家族を紹介しておくこともよいかもしれない。
共同名義
それ以外にできることとして、銀行口座や証券口座であれば、共同名義にしておけば、片方が亡くなってももう片方が自由に口座を扱うことができる。もちろん相続税の観点は別にはなってくるが、少なくとも高い相続手続きの費用はかからない。
受益者指定
また、生命保険であれば受益者を指定しておくことが可能であり、それによって海外独特のプロベート(検認裁判)と呼ばれる相続のプロセスは回避ができる。受益者は直ちに現金を手に入れることができ、相続税やあるいはその他の費用を支払う原資として利用できる。受益者は指定変更が比較的容易なので、定期的に見直し、死亡証明書の提出プロセスについて共有しておけばよい。
遺言作成
それ以外の資産については、資産がある国(財産地)ごとに遺言を残すことが重要になってくる。日本での遺言は日本国外では必ずしも有効でないし、特に遺言が英語でない場合はかなり難しい。各国の相続制度に則った遺言が最もスムーズに相続手続きを進める上で欠かせない。どうせ外国の弁護士の力を借りるのだから、遺言一つで彼らも随分と動きがとりやすくなるのだ。
信託や財団
本格的に国際相続対策をするなら、信託や財団などの制度の利用を検討することになる。
相続が発生する理由はただ一つ、財産が故人に帰属しているからである。信託や財団などに生前に財産を渡してしまえばそれは相続財産ではなくなる。つまり、相続のプロセスとは無縁になるのである。
信託や財団は完全に外部のコントロールになるかというとそうではない。家族の資産として一家で守っていけば良いだけの話である。分かりにくければ家族会社の経営と似たようなものだと思ってもいいかもしれない。委託者として先代の社長がおり、その命令を淡々と執行する受託者がいて、残された家族のために資産を管理する。そんなイメージだ。
売却しづらい自社株なども信託してしまえば相続の度に持分や印紙税について気にかける必要がなくなる。不動産の場合は売却のことも考えて、不動産を直接信託するのではなく、不動産投資会社を作り、その会社の株式を信託するというのも一つの手にはなってくる。
信託や財団の設計にはストラクチャーの検討とともに、本人の意思をどのように反映させるか、という時間と手間のかかるプロセスが待っている。弁護士や税理士などとも協議をする必要もあるため、根気強く付き合ってくれる、信頼のおけるアドバイザーに出会うことが肝心かもしれない。