金融市場が動き始めると、様々なニュースが流れ、何かアクションした方がいいのかと考える方もいるだろう。

株価が下がりきるのを待って買いたいと思う人、米ドル高のうちに日本円に両替をしておこうとする人、たった数日で膨らんだ含み損をどのようにして回復するか悩む人、実に様々である。もちろん、これらを自分一人で考えて判断する人も中にはいるが、第三者にアドバイスを求める機会が多くなるのもこういった局面である。

自分で解決できないものを誰かに解決して欲しいと思うとき、そのアドバイザーは一体何を提供してくれるのだろうか。実はここに期待と現実の認識ギャップ、すれ違いが発生しやすいことを知っておきたい。初めは小さなズレだったものがいずれは大きなものへと変わり、クライアントにとっての不幸に繋がっていくのである。

クライアントとアドバイザーの関係を良好に保つことは、最良のアウトプットを生み出す上での重要な鍵になってくる。事例を挙げてみるので、ご自身に当てはまるところがないか確認してみてはいかがだろうか。

クライアントとアドバイザーの認識ギャップ

事例① アドバイザーは予言をしている

  • 「今、株を買うのはどう思いますか?」
  • 「ドル円為替はいくらまでいくでしょうか?」
  • 「塩漬けにしておけばまた上がってきますか?」

こんな質問をする人は多い。確かに、これらの問いかけに答えることができたなら、何らかの意思決定を促すことはできるだろう。だが、よくよく考えて見ると、どれも未来のことを知りたい、と言っているだけなのだ。

アドバイザーがせいぜいできるのは、最近の株価の動きとその原因について触れること、今後の変動の要因となりうることをあげることである。上がるとか下がるとか二者択一のシンプルな回答ではない。しかもどのくらいとか、いつまでにとかそんな予言者みたいなことができるはずもない。(もちろん、投資の好きな方と、未来の話に花を咲かせるくらいのことはする可能性があるが、それはその方が真に受けないという前提があるからだ。)

確かに証券会社等のセールスは「この株は将来絶対値上がりするので買っておきましょう」というのを聞いたことがあるかもしれない。この人は予言をしているのであろうか。もちろん、ハウスビュー(会社としての見立て)を立てる習慣はあるし、それは商いをする上での売り文句を決める。しかし、それが現実になり、確実に儲かると言える保証はどこにもない。

事例② アドバイザーが買うものを私も買いたい

  • 「どのような投資をされていますか?」
  • 「(私に薦めている)それはあなたもやっていますか?」

こんな質問をする人は少なくない。もちろん、単純な興味というケースはあるが、一つには薦めてくる人自身がやっているのであれば悪い商品ではない、というスクリーニングになると考えている人は一定数いる。悪い商品だったとしても共倒れなのだから納得できる、というものだ。一理ある。

しかし、よく考えてみてもらいたい。クライアントとアドバイザーでは、投資経験も違えば、投資に対する考え方も違う。違うというのは突き放しているわけではなく、違う人間だからという、ただそれだけなのだ。アドバイザーだから高度な資産運用をしていて然るべきだ、というのも少しずれてしまっている。

アドバイザーとしての仕事はクライアントにとってふさわしい資産運用のあり方について考えることであって、クライアント自身が自分にとってふさわしい資産運用のあり方から離れる(つまり、アドバイザーと同じ資産運用をしたがる)ようだとすれ違いが起こりやすくなる。

事例③ 思っていたほど増えていないと感じる

  • 「半年も経って数%しかリターンがないとは何事でしょうか?」
  • 「リターンが低いことは分かっていたのになぜ投資をしたのでしょうか?」

資産運用にリターンを求めるのは当然だ。リターンが低すぎるのは考えものだろう。半年も経ってみれば、“もっと儲かったであろうもの”が見えてくるもの。それが投資するのが難しいものであったならともかく、そうでなかったのであれば“なぜそうしなかったのか”と悔いることになる。

しかし、よく考えてみてもらいたいのだが、“もっと損したであろうもの”も恐らく見ることができる。そしてあなたはそれを選ぶことはなかったのも事実だ。

また、半年後、同じことが起こる。あるいは自分のポートフォリオでもそうかもしれない。大勝ちしたものとジリ貧だったもの、ボロ負けしたものとチョイ負けしたものが出てくる。

最善を選び続ければ投資家としての成功が待っている。それは否定しきれない。もちろんその最善を選び続けられるアドバイザーと巡り会えたならそれもまたあなたの運かもしれない。しかし、その運に見放されたとき、あなたは全ての財産を失っているかもしれないのだ。

投資にはリスクがあるから、そのリスク管理のバランス感覚をクライアント自身が身につけることは重要だし、そのバランスが崩れないようにすることはアドバイザーとして重要な仕事になっている。リターンをお約束できるわけではないのだから、アドバイザーはクライアントが想定以内のリターンと想定以内のリスクに直面したことを重要視している。

認識ギャップへの対策

ギャップが生まれる原因はもちろん、クライアントとアドバイザーという立場の違いもあるが、シンプルに言って“違う人間”だからだ。

初めましてのアドバイザーに自分のことを何も話さなければ当然ギャップは大きいままだし、あるいはしばらく連絡をとっていなくても同じ状態になるかもしれない。もちろん、付き合いが長いと多少コミュニケーションは楽にはなるが、それでも省くべきでないものはある。

初めから馬の合うアドバイザーを探すということもできるが、それは見つかる保証はないし、馬が合ったというより話を合わせるのが上手いセールスなだけかもしれない。

逆にクライアントの側からも認識ギャップを埋めようと時間を意識的に割くことは非常に重要で、これに付き合うアドバイザーと話を続けることがポイントになってくる。

限りある面談時間の中で一体何の話に時間を割いたか気に留めてみるといい。それによって運用成績という成果以外にも、資産運用の満足度は格段に良くなるだろう。

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