金利が上昇したことで富裕層の関心は債券市場にも拡がりつつある。どういう投資がトレンドになっているのか少し紹介しよう。

プライベートクレジットとは

プライベートエクイティというアセットクラスを知っている人はいると思うが、プライベートクレジットもまたオルタナティブ投資の一分野である。

投資するものが企業の株式ではなく、企業の債券(債権)である、というところが異なる。プライベートクレジットの中にもいくつか種類があり、ポートフォリオの目指すべきゴールによって、取得すべき資産というのは違ってはくる。

典型例は以下である。

  • 資産を守る ー シニア、メザニン債 ー 目標利回り 10 – 15%
  • リターンを最大化する ー ディストレス債  ー  目標利回り 15%超
  • 厳選されたニッチ戦略をとる ー 資産担保ファイナンス ー 目標利回り  15 – 20%

と書いてはみたが、一般の投資家には分かりにくいかもしれない。

投資期間が5-10年にわたることから、個人であればシニア債、ファミリーオフィスなどであればディストレス債などに手を拡げていくものとは想定できる。

プライベートクレジット市場の成長

プライベートクレジットというアセットクラスは昔から存在はしていたものの、市場規模としては大きくはなかった。市場の成長の端緒になったのは2008年の世界金融危機であり、銀行への規制強化の流れにより、伝統的な資金の貸し手に代わって登場したのがプライベートクレジットの市場参加者である。

しかし、金融危機から10年以上経っても勢いが衰えるどころか、銀行よりもプライベートクレジットによる借入を求める企業は増え続けている。

その理由には、借入の条件が柔軟に設定できること、銀行に比べて金利が高くても大きな借入ができること、が挙げられる。

秘密裏に進めなければならない企業の買収などにおいては一役を買っていると言える。債券に投資をしておきながら、企業が成長するために、積極的に経営に関与するケースも多い。

投資金額の目安

現物社債は案件あたりの最低額がUS$200,000程度なので、個人投資家でもまだ個別に購入することができるが、プライベートクレジットはそもそも案件自体が大きく、そしてリスクが高いため、個別投資ではなく、一般にはファンドを通じてリスク分散を図る。結果、ファンドの一口あたりの金額はUS$200,000程度にまで下がってくる。

サイズ感としては似たような感じにも見えるが、社債に関してはファンドを通じてより小口に投資ができるので、より門戸は開かれている、と考えていい。

リターンの比較

コンサルティングファームのマーサーが行った調査によると、プライベートクレジットの中でも、比較的安全とされるシニア債における利回りは、銀行のシンジケートローンよりもおよそ3%程度上回っているとされる。FRBによる量的緩和が行われた後、この上乗せ金利は縮小傾向にはあったが、それでもこの差は変わらない。

また、市場の価格変動にも晒されづらいため、不況/好況に関わらず安定的なリターンが期待できる、というのが特徴的である。もちろん、金融危機のような大きなショックでも損をしない、とまでは言えないが、それでも傾向としては値動きは小さい。

現物社債の多くは、固定利付債であり、これまで低金利環境がずっと続いてきたことから、クーポン(利息)が低く設定されているものが多い。しかも、金利が今後も継続的に上昇するのであれば、満期があるとはいえ評価損を計上し続けることになる可能性が高い。

一方、プライベートクレジットの多くは、変動金利貸付であり、金利の上昇分をリターンに取り込むことができる、と考えられる。

個別にハイイールド債(ジャンク債)に投資をするよりは、金利上昇環境にも対応しながら、上乗せ金利分を享受できる、と考えることはできる。

リスクの比較

現物社債の場合、金融市場で売買が可能である。もちろん局面によっては流動性が低かったりはするが、それでも買い手は現れることが想定される。

一方で、プライベートクレジットの場合、そもそも買い手が少ない債券を破格の割安価格で購入して投資していることもあるため、手放すこともそう簡単ではない。もちろんファンドなので、定期的に解約のタイミングは用意されているものの、即時換金はできない、と考えておくとよい。

企業の倒産などのリスクはどちらが高いのか、という質問はあり得るが、それは投資対象による。金融市場で取引されている現物社債でも高格付けのものはあるし、逆にプライベートクレジットだからといって必ずしも信用リスクが高いとまでは言えない。要は公開市場で資金調達をしたのか、非公開市場で資金調達をしたのか、という違いにすぎない。

投資機会を探る

現物社債も個人で買えるとはいえ、金額が大きいと感じる人もいるし、実際個社のリスクには晒されており、できるならばファンドの方がリスク分散は効いていると言える。ファンドであればさらに小口で投資できるし、いつでも売却ができる。

プライベートクレジットへの投資が小口化され一般的になってきたとはいえ、誰にでもアクセスできるものになった、とまでは残念ながら言えない。ファンドへの投資機会もいつもあるわけではないし、募集額が集まればそれ以上資金を集めないことだってある。

銀行に長く眠る予定の資金があるのであれば、こうした投資機会に一部の資金を振り向け、定期的な収入を得る機会を検討してみるのは悪くない。

ただし、投資には常にリスクが伴うため、債券投資だからといって安心するのではなく、プロのアドバイスを受けながら投資を検討することは強く推奨される、と言える。

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