人生には様々なライフイベントがある。
結婚、出産、住宅購入、退職あたりは思い浮かぶ人がいるだろうか。
ライフイベントは収入よりも支出を伴うものの方が多いが、意思決定には感情的なものや直感的なものも当然ながらある。いざというときに金銭的な準備ができていることは大きなサポートになるだろう。
本稿では、ライフイベントにまつわるマネープランについてまとめてみたい。
目次
現役世代のライフイベント
転職
現役世代というからには働いている人が多いと思う。昔ほど終身雇用にこだわりを持つ会社も労働者もいないので、恐らく社会人になって行う意思決定の一つに、転職は入ってくる。日本で転職するのか、海外に転職するのか、あるいは海外で別の会社に転職するのか、必ずしも簡単な意思決定ではない。
まずは現職を辞める、ということに対して抵抗を持つ人が多いが、その場合は、人に迷惑をかけたくなくて、などの理由が上がってくる人もいる。海外にいるとどちらかというとこの点はサバサバしていることの方が多いかもしれない。(年収なのか職場環境なのか)より良い職場を見つけることに対して積極的であり、そしてそれがキャリアアップにも繋がっていることも多い。
が、もう一つだけここに付け加えるとしたら、やはり職の安定についての考え方は身に付けておきたい。安定している方がいいという話ではなくて、転職というライフイベントそのものはやはりリスクもあるので、そのリスクをカバーするための金銭面でのサポートは忘れるべきではない、という意味である。経歴書に空白の1ヶ月があることの是非以上に、その空白の1ヶ月をよりよい仕事を見つける時間として使うための十分な貯蓄だったりするわけである。
よりアグレッシブな職業につく、あるいは起業するのであれば、解雇や失業というリスクもまた考慮に入れなければならない。リスクをとるためのセーフティネットをどのように設定するか、である。
結婚
結婚は一つの大きな転機である。ライフスタイルが大きく変わる人は多いし、何より守るべき存在ができる。自分ではない誰かのことを考えながら生活する、というのはチャレンジングであったり、あるいは楽しいと感じたりする。
単純にお財布が2つになるケースもあれば、2人で一つの財布を共有するケースも当然ながらある。どのようにマネジメントするかは夫婦次第である。
結婚そのものが金銭的に負荷になるかというとそうではないかもしれない。結婚式の費用であれば両親が出してくれたり、あるいはそもそも大袈裟にはせずに、海外でこっそり挙式をというケースもあるだろう。
結婚というライフイベントによってもたらされるのは、お金の意思決定主体に関する変化であることが多い。一人であれば自分のことを自分で決めていたが、パートナーがいれば多くのことを相談するだろうし、あるいは相談しなくていい予算を決めているかもしれない。ただ、大きな意思決定になればなるほど、二人で決める、というのが多くなる。仲の良い夫婦だったとしても、お金に関する考え方だけは一緒ではなかったりする。
お金に関して二人で意思決定するという経験を上手く積むことが結婚生活を良い方向に向かわせることにはなる。
子育て
夫婦のことは生活を切り詰めれば済むかもしれないが、子育てに関しては親の義務であるし、子どもの未来を左右するのであまり妥協したくないということは多い。子どもは一人前になるまでは、お金のことだけを言えば、ただただ費用のかかる存在であることは言わずもがなである。
しかも、一人前になるまで20年以上かかるのだから、ひょっとしたら夫婦としては最も合理的にマネジメントすべき投資対象と言っても過言ではないかもしれない。(残念ながら、手塩にかけたからといって良い子に育つとは限らないが。)
子育てに関しては費用の見積もりは欠かせない。子どもは成長するのを待ってはくれないので教育資金として少しずつ取り置くことを考える人は多い。取り置くだけでなく、いくらあればいいのか、そしてそれがどの程度の負荷としてのしかかってくるのかをイメージするところからスタートすべきである。
あるいは守るべきものが増えたのであれば、ご自身に何かあったときに家族がどのような状態に置かれるのかに意識を向けることも大事かもしれない。
住宅の購入
住宅の購入は現役世代の支出としては最も大きいものになる人が多いだろう。残念ながら、全ての費用を現金で賄えるという人は多くないし、現金で賄うべきかというのも考慮すべきポイントである。住宅の購入において学ぶべきは、収入と支出、資産と負債の基礎である。住宅を資産だとみなす人もいるが、カテゴリ分け自体はそれほど重要ではないと思う。
問題は、ライフプランとマネープランにどのような影響を与えるか、である。どうしてもマイホームが欲しいと思う、でもそれによって実現可能性を摘まれるライフプランはないのだろうか。あるいはどのような意思決定をすることがマネープランに対する影響を最小限に抑える上でいいのか、考えることは少なくない。
退職世代のライフイベント
老後の計画
生涯現役を掲げる人も中にはいるが、多くの人は身体の衰えを感じるし、いずれなんとなくセカンドライフについて意識を向ける。大切なのは、退職するということは労働収入を失うことであり、その分を補う方法について考えることである。支出レベルを一定に保つために、資産の減るスピードを遅くする必要があるのである。
不労収入をということでは必ずしもなくて、単純に老後の生活をイメージし、何歳までの備えができているのかを把握することである。これは退職する前にやっておきたいことであって、退職した後にやってしまうと、単純に生活を切り詰めることくらいしかできなくなる、か、どうしても足りないことに気づいて後から投資等で一気にリスクをとってしまう、ということに繋がりかねない。
定年退職
あえて定年という言葉をつけてみたが、果たして自分が何歳で退職するのか、考えたことがあるだろうか。もちろん世の中には定年退職の時期が何となく存在するし、多くの制度が何となくそれに合わせてできている。だから、定年退職でいいのだ、という人はいる。
一つできることとしては、退職年齢について突き詰めて考えることである。老後の生活が保障されているのであれば、あえて定年を待つ必要はあるだろうか。あるいは定年後も働けるチャンスがあるのであれば、さっさとそこに移った方がいいのではないだろうか。
多くの人にとって退職はお金の意思決定である。特に経営者をやっているのであれば、後継者がいなくてというケースを除けば、経営者というステータスにしがみつく理由の一つに、退職金の準備ができていないことが挙げられる。
冷たい言い方かもしれないが、仕事はお金を稼ぐ側面が大きい。お金があれば、あえてその仕事を選ばないというケースも多い。この点において、定年という縛りを疑問に思って、マネープランを立ててみるだけで人生の数年間を有意義に過ごせることに気づくだろう。
シニア世代のライフイベント
医療費
シニア世代が避けて通れないのは、病気や怪我である。若い頃のようにはいかない。長生きをしたいかどうかはさておき、身体のメンテナンスにお金がかかる世代であるのは間違いない。大きな病気や怪我をすることがシニア世代のライフスタイルを大きく変えることになりかねない。
ただ、新しい収入はシニア世代には見込みづらい。大きな支出を遠慮なく行うには保険などの備えが欠かせない。しかもその備えをするにはシニア世代になってからでは遅い。想定される支出を知ることと、想定外の支出に対する備えをすること、シニア世代に求められるマネープランである。
年金
シニア世代の確実な収入といえば年金になる。昔からこれは変わらない。年金の原資は当然ながら現役時代の稼ぎであるため、収入の繰り延べを行っているにすぎない。
ただ、何の計画もなく繰り延べるのではなく、しっかりと増えるプランにできるかどうかは非常に重要になってくる。インフレというとなかなか現役時代には実感がない人が多いが、ただお金を取り置いておくだけでは、全く同じ価値で老後使える保証はない、ということを理解しておくことは重要である。
介護
シニア世代の少なからずの人は、自分は死ぬまで元気である、という前提を置くことがある。あるいはいつ死んでも構わないと思っているケースもある。確かにそうかもしれないが、実際には介護が必要な状態になることはある。つまり、死ぬわけではないが、誰かの力を借りなければ生きられない局面である。
介護老人ホームなどは分かりやすく、お金をかけて誰かの力を借りる方法である。が、お金はかかるし、家族のサポートがゼロというわけではない。
家族なのだからサポートをして当然と世間はひょっとしたら思うかもしれないし、自分を育ててくれた親を喜んでサポートするという子は多いだろう。だが、一つだけ言えることは健康で何事もなく過ごすライフプランからは外れていて、介護される側とする側、双方に負荷がかかっている可能性は大いにある。
相続対策
自らの老後の生き方が見えてきたときに、自分にとって必要なお金の量と、そうでないもの、あるいは単純に遺されたものに対して意識が向く。自分の死後のことなんて気にするか、という人も中にはいるが、現役時代に家族のことを考えたのと同じように、老後もやはり家族のことを真剣に思えばこそ、相続についてもよく考えることになる。
死が近づくほどに相続対策をしたくなるものではあるが、残念ながら対策をすべきタイミングは実は死が近くないときである。このバランス感覚は難しい。早い段階で相続対策をするためには、将来像がどうなっているかイメージをしなければならない。そうでなければ相続対策はしたが、シニア世代としてどう生きていくかは決まっていないという本末転倒に陥ってしまうかもしれないからだ。
マネープランの重要性が増加
現実的な話をするならば、数十年前はマネープランは少々粗くてもやっていけた。働いて稼げば年金はそれなりに入ってきたし、勧められるがままに保険を買っていても利率は高かったし、何なら銀行にお金を置いておくだけでも金利がそれなりについた。
ただ、退職世代やシニア世代に関しては、この“何とかなっている”意識が本当に事実として何とかなっているのかを早い段階でチェックすることが大事である。セカンドライフは従来よりも長くなっているし、労働収入がないことはインフレに対する耐性が弱いことも意味している。単に老後というだけなら20−30年はあるわけで、この期間が決して経済変化をもたらす上で短い期間でないことは長く生きたからこそ理解できるのではないだろうか。
一方、現役世代にとっては、限られたお金というリソースを早い段階で効率的にマネジメントする術を身につけねばならなくなっている。ともすればただただ、倹約に意識が向きそうではあるが、それでは生活の質が落ちることに繋がりかねない。しっかりとお金に色分けをして、無理のないプランを考えることが大切になってくる。
お金に関する意思決定はスマートに
計画とか管理とか言うと難しげなイメージを持つ人が多いが、要はお金に関する意思決定をスマートに行うためのバックグラウンド作りに他ならない。だから、最も目指す姿はスマートな意思決定ができていることである。
お金の中には消費するもの、投資するものなど役割が分かれてくる。しかも、どのようにお金を使っていきたいかは当然ながら人それぞれである。その人が最も価値を感じるお金の使い方は何なのかを知り、そこに重点的にお金を割けるようになったとしたら、それはスマートな意思決定と言えるのではないだろうか。