インフレの収束を確認しつつ、先進国で利下げを進めた2024年。ウクライナや中東での地政学リスク、欧米での政治的転換が意識されるなか、相場環境に期待を持ちづらかった年かもしれません。2024年の金融市場について振り返ってみましょう。
目次
2024年のメインシナリオは?
本年のメインシナリオとして、利下げを挙げました。インフレを沈静化させることに成功した国々(欧州、英国、米国)は徐々に政策金利の引き下げに取り組むこととなりました。いわゆるソフトランディングだったわけです。ただ、結果として多くの国では2024年末時点でまだやや高い水準にある、ということではあり、その割には景気を冷やしていないとは言えそうです。
米大統領選挙も、早々にバイデン氏が断念するという事態にはなりましたが、前回ほどトランプ氏が当選したことによる混乱は多くなかったと思います。むしろ、政治家ではないイーロン・マスク氏の発言力や、あるいは共和党によるいわゆるトリプル・レッドの状況が米国にとっての転換を想起させます。
2024年のブラックスワンは?
本年のブラックスワンとして、国家債務問題を挙げていましたが、現状は発火点と言えるような事象は見られません。ただ、顕著に表れてきたのはフランスの財政問題であり、ドイツとの国債利回り格差は拡大し、スペインやギリシャとも同等に陥っていることでしょう。フランスでは、今年首相が3回替わる異例の事態となっています。ヨーロッパの中でも今後は南欧諸国の発言が強くなる可能性はありそうです。
あと、金融市場にとっては影響は小さかったかもしれませんが、7月に起こった、米サイバーセキュリティ企業クラウドストライクが起こした世界各地での大規模なシステム障害は印象的でしたね。
2024年のハイライト
ざっくりと月別ハイライトをまとめてみます。
- 1月 能登半島地震、米ビットコイン現物ETF承認
- 2月 日経平均株価史上最高値更新
- 3月 日銀マイナス金利解除
- 4月 ジンバブエ金本位制回帰
- 5月 シンガポール首相交代、世襲転換
- 6月 欧州議会選、欧州利下げ開始
- 7月 イギリス総選挙野党大勝、米バイデン氏撤退表明
- 8月 英国利下げ開始
- 9月 米国大幅利下げ、フランス新首相任命、日本自民党総裁戦
- 10月 イスラエルのレバノン侵攻
- 11月 米大統領選挙トランプ氏勝利
- 12月 シリア政権崩壊、韓国大統領弾劾、フランス内閣不信任決議、ドイツ首相不信任決議
今年はとにかく政治、外交関連の話が多かった印象があります。政権交代などは様々な背景が考えられますが、一般国民の感覚と政治家の課題認識がずれていることが大きいのでしょう。その根っこの部分にはやはり物価上昇があり、そしてそれを簡単には解決できないところに不満が溜まっているのかもしれません。
今後景気が悪くなる、を前提にすべきか
利下げが開始されたこともあり、米国での逆イールドが解消されたことは、今後景気が悪くなるのではないかという懸念を2024年中頃はよく聞きました。ただそれもトランプ政権移行への期待により見事に打ち消された雰囲気もあります。
そもそも投資環境として2024年は良かったのか、という点で言えば、多くの人は利益を得たと言えそうです。日本では新NISA導入により新しく投資を始めた人も多かったと思いますが、その場合も恐らく辛い思いをした人は少ないと思います。むしろ、損失が膨らんでしまった、という人がいたらやり方を見直す良い機会になるでしょう。
景気後退とは別に、2025年には楽観論が席巻するのではないか、というのも懸念できるでしょう。金融市場には期待と現実があり、その乖離が大きいほど一般投資家は翻弄されます。良いと信じたものが逆に動くことほど心理を揺さぶるものはないからです。あえて一歩下がり、心に余裕を持てる範囲のことを実践すべきでしょう。
最後に
長く投資をしてきた人にとって、中央銀行と反対のことをしない、とか、中央銀行と同じ方向で取り組めばいい、とか、経験を積み上げた人もいると思います。
一方で今年、中央銀行が何を考えているのか全く分からない、と答える人は増えたのも事実ではないでしょうか。それはなぜか、少し前まであったフォワードガイダンスという未来へのコミットメントをやめてしまっているからです。経済予測においても中央銀行ですら手探りで毎回データを見ながら政策決定しているわけで、発言に一貫性があるべき、というのは少し誤解していると考えていいでしょう。
一時のニュースや噂話に振り回されず辛抱強かった投資家は2023年に続いて2024年も報われたと思います。