日本と違って香港の保険は利回りが良い、そんな印象を持っている人も多いはず。ところが、今その利回りに上限を設定すべく規制が変わろうとしているという。果たしてどのような影響があるのか、考えてみたい。
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上限が設定される場所?
2025年7月1日から香港では新しい規制ガイドラインが施行され、販売資料などで利回りの上限が設定されることになっている。具体的には香港ドル建ての場合年率6%、それ以外の通貨建ての場合6.5%となる。
過去には基本シナリオの数字だけだった時期があるが、それでは利回りのブレが(あること自体が)分かりづらいというので、近年は、基本シナリオ、悲観的シナリオ、楽観的シナリオなどで保険会社がそれぞれ算出した数字を利用してきたわけだが、保険会社が将来の数字をよく見せようとしたり、あるいはシナリオ通りにならない可能性に加入者の目が向かなかったり、といった弊害も現場では確かに指摘があったところである。
上限が設定されるのは、つまるところ、見せ方、の部分である、と言える。実際の利回りが抑制されるわけではない。くれぐれも勘違いしないでおきたいところである。見せた数字を達成することが100点満点だとしたら、それを超えて110点の成績を叩き出すことは問題ない、というわけだ。
ただ、保険会社による見せ方と違って顧客にとっての見え方の部分に関してはやはり100点は100点であり、期待がコントロールされていたなら、十分だと感じる人の方が多いだろう。結果的には、保険会社に対する高い利回りのプレッシャーは抑制される可能性が高い。それはひいては保険会社の健全性となって、長期的には顧客にとって安心を与えることに繋がろう。
そもそもなぜ保険に利回りがあるのか
保険では資産は増えない。そう思っている人もいる。ある意味正しく、ある意味間違っていると個人的には思う。そもそも保険とは様々な人がお金を負担し合って、一部の人に何かがあったときにそこからお金を払い出す、というスキームである。だからトントン(=全く増えない)でもスキームとしては成り立つ。ただ、お金を持ち寄った以上は増やしていくことは可能であるしそうしたいと思う。そうすれば負担した人それぞれに還元することもできる。ここに利回り、という考え方が登場することになる。
個々人ではなく、みんなで一緒に投資をするものだ、という言い方をするとファンドだったり投資信託をイメージする人も多いが、これも勘違いしやすいポイントではある。保険は投資信託ではない。金融規制上の扱いが違うから、というと一般の人にはピンと来ないことが多いと思われるが、あえて大きく違うところを挙げるとしたら、いつでも簡単に売買ができるかどうか(=流動性があるのか)、という点だろうか。
保険を資産運用だと考えていても、増やしたり減らしたりがそんなに気軽にできるわけではない。年金のようにただひたすら積立、時期が来たら計画的に受け取るものの、基本的にはいつまでも運用を続けるもの、そんなイメージだと保険には合っていると思う。
また、保険では自分が好きなようにリスクを取るということも叶わないし、それゆえに目標利回りに関しても好きに設定できるわけではない。保険の加入者同士で支え合う、というイメージだから、誰かを出し抜いて得するゼロサムゲームのようなものはそこにはない。したがって短期的に高いリターンを出すモチベーションは保険会社にはないし、そんな高い期待を持つ人を加入者として受け入れることは望ましくもない。運用である以上元本割れがない、とは言えないが、保険会社としてはそれは避けたいものであり、それゆえに高い利回り目標を掲げすぎないことは大事なのである。
実際の影響範囲はいかほどか
将来のことが不確実なのに、そもそも保証されない利回りを見せ、比較することができるというのは、数字が独り歩きしている気がする、というのは実感としてはあるし、その中で保険会社を選ぶのも非常に難しい。
もし上限が採用されるのであれば、ある種金融当局的に現実的な運用利回りがそこにあることを示しているようなニュアンスに受け止められかねない、というのはありそうだ。また、これによって各社の数字の足並みが揃ってしまうのであれば、加入者としては一体何を見ればいいのか、という話にも繋がってくる。
ただ、このガイドラインは販売当初にしか適用されないので、実際には保険会社各社が、それぞれ出した数字を上回る利回りを実際に顧客に提供しても構わないし、実際のところを踏まえて将来の数字を上振れさせることもできるわけだから、もっと中長期的なところを意識して商品選びをすべきだし、保険会社も数字で顧客を釣るな、という牽制になっている点はそうなのかもしれない。もちろん、利回りで見るべきではないというのはごもっともではあるので、利回り以外の話をもっと周知し、そこで評価されよ、というのも金融当局の意向なのかもしれない。
さて、こうした話も、そもそも高望みをせずに保険を通じて安心を買いたいと考える人にとっては何のことやら、ではあろう。本稿の論点も業界人だから話してはいるものの最初から知らなかったら別に大きく関心を持たない内容なのかもしれない。
近年は株式市場が比較的好調だったことにより人々の運用に対する期待はいくぶん高止まりしている気もする。ただ、この先何十年と続けていった場合のことをイメージして意思決定できている人はどのくらいいるのだろうか。利回りがある保険は良い保険?道具は使い方次第か?なんて、考えることは尽きない。