金融商品の購入にあたって、独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)を利用される方も増えてきました。その中でよく聞かれるのが、商品の購入にあたって、IFAの比較検討をすべきか、また、複数の商品に分散投資をすべきか、ということであり、もちろんそれ自体も重要ではあるのですが、今回考えたいのは、

「独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)の分散を検討する」

かどうかです。つまり、複数のIFAを並行利用するか、あるいは専任のIFAとして利用するか、という視点になります。誤解のなきように。

そもそもなぜこういうことについて記事を書こうと思ったかというと、

  • 見込みのクライアントとの実際の会話
  • 同業(他のIFA等)との実際の会話
  • お問い合わせメール

などを踏まえつつ、“IFAの分散”という論点は非常に難しいと思うことがあったからです。

正直に申し上げると、①どのような金融業者もクライアントのニーズは一手に引き受けたいという願望がある、②クライアントの側にIFAを分散するだけの資金がなかったり、分散することで資産の状態が部分最適的に形成され、クライアントにとっての全体最適が損なわれるリスクがある、ことが障害になり得るでしょう。

最初に述べた、商品の購入にあたって、IFAの比較検討をすべきか、また、複数の商品に分散投資すべきか、ということは一般論的にはほぼYESと思っていただくことが多いのでここでは議論しません。

“IFAの分散”とはそもそもどういう状態なのか

これまでにIFAと話をしたことがある方、またIFAという職業自体を知らない方もいらっしゃると思いますので、“IFAの分散”がいかなるものか、いくつかのケースを挙げてみます。

意図せずに分散されているケース

そもそもこのケースでは、IFAが分散されていることにクライアントは気づいていないかもしれません。例えば、保険契約を何本も持っていらっしゃる方は該当しやすいです。恐らく一箇所からではなく、様々な会社で様々な人から「今、こんな商品が人気です」と言われるとついつい購入してしまう人はいます。この場合、それぞれの会社の担当者はクライアントが持つ金融商品の全てを知ることはありませんし、多くの場合は担当者との長い付き合いというのは存在しません。毎回初めましてから契約に至っています。

資金量で分散されているケース

このケースに該当するのは、恐らくプライベートバンクを利用される方などでしょう。資金の置き場や契約する会社を一つに絞ることをリスクと感じて意識的に取り組む場合です。例えば10億円くらい資産があれば、5億円はA社、3億円はB社、残りの2億円はC社といった具合です。保険の契約もこれに近い考え方をする方はいます。あるいは国を分けるのであれば、A社はスイスに、B社は香港に、C社はシンガポールにというのもあるかもしれません。預かり資産がある場合、担当者との付き合いは比較的長期のものになりますので、こういった分散の仕方はワークしやすいと言えるでしょう。

金融商品毎に分散されているケース

IFAにはそれぞれ得意分野とライセンス形態がある、ということを知ると、このケースに該当する人も現れます。つまり、各IFAにはできることとできないことがあるわけです。結果として、保険はA社に、証券はB社に、銀行はC社に、といった具合。あるいは証券の中でも債券はD社に、株式はE社に、ということもあり得ます。保険が大得意なA社に証券の話をしても何らか案は出してくるかもしれませんが、現実にはクライアント側でしっかりと舵を取らなければ、中途半端な結果になってしまうかもしれません。保険、証券、銀行それぞれのメリット・デメリットを活かせる総合力のあるIFAに出会うというのも道かもしれません。

クライアントにとってのIFAの分散のメリット

セカンドオピニオンが得られやすい

相談相手というのは複数いる方が安心なときはあります。しかも気軽に聞ければなお良いでしょう。特に、金融商品というのは目に見えませんから、とりあえず色んな意見をもらうところからスタートできれば、クライアント側の負担はグッと軽くなります。ただ、保険の得意なIFAに証券の話を持っていっても多分思うような答えを得られませんので、聞く相手を考える必要はあります。

いざとなれば片方に寄せられる可能性がある

香港のIFA業界には、保険や証券の移管が一般的に行われています。一つには担当者の転職が激しいことがありますが、そもそも独立系ゆえに、それぞれの会社がそれぞれの提携先を持っており、会社はあくまでハコにすぎない、とも言えるからです。仮に担当者が引退するなどで面倒をみてくれる人がいなくなったり満足のいくサービスを受けられなくなったと感じたら、新しく移管先を探すか、あるいは既にあるコンタクトのなかで移管を受け入れてくれるところに寄せる、というのが解決策になります。

クライアントにとってのIFAの分散のデメリット

誰にどんな話をどこまでしたのかを忘れる

ちゃんとしたIFAほど、クライアントからの情報をしっかりと覚えています。一方で、IFAを分散したはいいけれども、クライアント自身が、誰にどんな話をどこまでしたのかが忘れてしまうことはあり得そうです。あるいはクライアントの中では繋がっていても、IFAから見れば情報が途切れているので、行間を読むのは簡単ではなく、結果として会話がちぐはぐなものになる可能性はあります。それぞれのIFAに何を話したのかは覚えておく必要があります。

全体最適的な提案は受けられない

IFAを分散した場合、クライアントの時間も同じく分散してしまいます。本当は3時間かけて話すべき内容も、例えば3人のIFAに1時間ずつでは濃度が全くことなりますから、やはり限界があります。各IFAからは限られた時間の中で、かつ与えられた情報の中で、部分最適のソリューションが提供されることにはなるでしょう。IFAが協業できればまた違うかもしれませんが、表面上の協力になりやすく、これも限界はあるでしょう。

IFAにとってのIFAの分散のデメリット

不完全な情報に基づくアドバイス

IFAとはフィナンシャルアドバイザーです。つまり、お金の健康状態に関してアドバイスを提供します。ただし、情報をいただくにあたって、個人情報保護という法令遵守以上に、クライアントとの信頼関係が非常に重要になってきます。

人によってはご家族の話を持ち出しませんし、また人によってはご自身の事業の話はされません。たわいのない呟きのようなご相談をいただくようになって初めてフィナンシャルアドバイザーとしては成功だと思いますし、ファイナンシャルアドバイザーとしてできることの正しい方向性が見えてくることだってあります。

逆に、ファイナンシャルアドバイザーをただの業者やセールスパーソンではなく、一人の人間として知ってもらうことも必要だったりします。その意味で、IFAをもし分散している場合、このプロセスは時間をかけるという意味での単純計算上難しくなる可能性があります。

来歴(カルテ)の不在

IFAはマネードクターとも言われますが、クライアントの来歴は医者にとっての診(カルテ)と同じです。複数の病院を回って診察を受けてもカルテが共有されずにやきもきしたことはありませんか。IFAも顧客情報保護の観点からも、クライアントの情報を共有したり、引き継いだりは基本的にしません。

ただ、病歴とは異なって、契約している商品や証券はクライアントが把握している限り、見せることができますから、より多くのことは理解ができるというのは救いかもしれません。それでも、違う病院を訪ねたら一から診察が始まるのと同じように、やはりIFAも一からクライアントの情報を積み上げていきます。なので、長くお付き合いできるほどウェルスカルテができあがり、IFAにとってもやりやすくはなります。

最後に

複数のIFAと付き合うというのはクライアント自身がすべき決断です。あるいはIFAを変更するということについても同じです。IFAを分散されることに対して嫌な顔をするよなIFAであれば、ひょっとしたらセカンドオピニオンが入ると厄介なことでもあるのかと勘繰る人もいるでしょう。逆にもし信頼できるIFAに出会ったのであれば、友人や家族の紹介を通じて仲を深めるというのも大切なことです。

私の知る限りでも様々なタイプのIFAが登場してきています。この記事の内容がIFAとの付き合い方の参考になれば幸いです。

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