少し振り返ってみますと、2019年は夏からデモが過激化し、そして2020年は新型コロナウィルス、さらには香港国家安全法と、香港を取り巻くニュースは決して良いものばかりではありませんでした。残念ながら経済自体も景気サイクルで言えば不況に陥りましたから、事業を縮小ないし撤退して日本へ帰国された方も少なくはないと聞きます。

ここでは、あえてポジティブキャンペーンをするでも、ネガティブキャンペーンをするでもなく、ここ最近の香港を当地で見てきた、ファイナンシャルプランナー/プライベートバンカーとしての私から、

「投資家として香港金融の未来をどう考えるべきか」

という話をしてみたいと思います。立場によって捉え方と取りうるアクションが異なるので大きく3パターンに分けてみます。

香港で新しく投資に取り組むことを検討している人

私の事業セグメントは金融になりますが、私自身、この数年で提供できるサービスが狭まったという実感があるか、という点でいうと、少なくとも現時点ではありません。むしろ個人的には金融業界にいて早8年近くになりますし、香港に来て2年が立ちますから、蓄積した経験の方が大きく、提供できるものの幅は広がったと感じます。

強いて言うならば、利回りが良いことで知られていた香港保険に関して、ほんの僅かですが利回り低下が見られた商品があることは残念に思います。しかし、依然として取り組む魅力のある商品がたくさんありますし、それを見つけてくるのが私の仕事なので、これも特に気になるほどではありません。

資産運用環境に目を移すと、2020年は金融市場が大きく動いたので、先行きの話も含め、たくさんの方とお話しをさせていただき、「一人で悶々とするのでなく、話してみて良かった」と言っていただけたことはファイナンシャルプランナー冥利に尽きる、と感じました。ただ、債券も株式も高くて、まさに“買うものがない”状態、あるいは“ここから買うべき”状態に再び近づいていて、投資家の方とお話しするのがやや難しくなった面はあるかもしれません。また、“人と人との繋がり”という面が強いこの仕事において、対面でお話しできないことはとても残念だとは思います。

サービスは変わらなくても、社会情勢が変わったし、今後劇的に変わるのでは、という指摘がそれでも返ってくるかもしれません。達観しているように聞こえるかもしれませんが、政治はいつの世も不安と安定のゆりかごです。トランプ政権に代わる前と後の米国の政治は全然違いますし、日本も首相が短期間でコロコロ代わる時代がありましたよね。

とりわけ、金融制度が変わり得ることに社会がどのように反応するか、ということに関しては、私は2016年の国民投票後のイギリスに2年強滞在していましたので、肌で感じたつもりです。当時はソフトブレクジットなのかハードブレクジットなのかなんて言って常に揺り動いていましたし、イギリスから金融機関をはじめとしてあらゆる企業が一斉に撤退をするのではないか、というくらいの恐怖感もありました。実際のところ、企業は「ある日突然ビジネスができなくなる可能性」も想定してあらゆるシナリオに対して備えねばなりませんでしたから、大陸側に拠点を作ったり、業を煮やして出ていった人たちもいるにはいます。ただ、蓋を開けてみてロンドンの金融都市としての力量が劇的に変わったかというとそうでもないだろうと考えます。もちろん、イギリスですらEUとの交渉事はいくつも残っているのでまだ分からない面はありますが、EUを離れたイギリスは世界における主導権を取り戻すようにも思えます。

香港の国際競争力のことだけを考えるのであれば、1年単位で変わる“可能性が常に残る”税制などの方が、企業にとってよほど日頃の心配の種なのではと個人的には思います。

「ローマは一日にしてならず」

それを思えば香港はまだまだ若いのでしょう。テクノロジー系のスタートアップや、中国関連ビジネスに取り組む人は引き続き香港を上手く利用されるでしょう。

色々考えた結果、香港に資産は持ちたくないが、香港の金融業者と付き合うことは許容範囲、という例もあります。実際、香港ドルでの資産保有を避けたり、あるいは資産の置き場をマン島などのオフショアになさる方もその意識の現れでしょう。

しかし、こうした理由でもって誘われる先が“逃げ場”として安全なのかということは時に冷静に考えるべき問題でもあります。政治に動きがあっても、香港の金融規制自体は実にしっかりと顧客を見ながら運営されています。木を見て森を見ず、のようなアクションをとらないことは気を付けたいものです。

香港で既に行なった投資について考えている人

ご自身が香港に保有する(あるいはそう認識している)資産について、ふと思いを巡らせたとき、漠然と何か考えておいた方がいいのか、と思う人はいるでしょう。資産のレポートがちゃんと見られるか、担当者と連絡がつくか、運用の状況はどのような感じか、など極めてベーシックなことも含めて洗い出しをしてみることはとても良いと思います。

ひょっとしたらいつの間にか担当者が変わっていたり、専用サイトのログインページが変わっていたり、運用会社の名前が変わっていたりするかもしれません。機関投資家などが巨大な資金を動かす場合は、通常、こういった定期的なチェックをするものですが、個人投資家でそこまでマメな人はそんなに多くはありません。ふと思い立ったのであれば、多分そのときが最良の機会であろうと思います。逆にその機会を逃せば、話すきっかけを失ってしまいそうですよね。

香港金融が・・・という壮大な話はさておいても、香港の金融サービスはこの10年くらいで大きく改善した、と私自身は感じます。特にこの数年はそうですね。もちろん長期の積立などにコミットをした人もいるとは思いますが、果たしてご自身の行っている投資が自分に合っているものなのか、もっとより良い方法で行えないのか、それは常に考えるべきものです。時代とともに増えた選択肢、減った選択肢があることに気付くはずです。

香港ドルの将来について案じる声は一定数存在します。特に米中摩擦が強くなると、米ドルペッグ制が終わるのではと考える人もいるようです。一部の銀行で個人への資産凍結の話が出るとさすがに不安になるのも頷けます。大切な資産ですから取りうる手段について検討することは必要と思いますが、過剰反応をしすぎないようにはしたいものです。

香港から投資を引き揚げることを検討している人

まず始めに、ご自身の資産が何か得体の知れない力によって神隠しにでもあうのではないか、という印象を持っている方がいるとしたら、それはもう少し具体的に考えてみると落ち着く気がします。いや、そうでなくても渡航もままならない今、何かが、何かが起こったら困る、という不安感がある、としたらその気持ちは多分ファイナンシャルプランナーとして察するべきものだろうと思います。

また、学校の休校などが続いたことなどから、香港内で家族や生活の安心という部分が得られなかったとしたらこれもまたネガティブな印象として残ってしまっているのかもしれません。

実際、今の香港も感染症対策のために在宅ワークをしている人も多く、この点において金融面で従来通りの稼働状況であるとは言い難いです。ただ、株式市場も問題なく開いていますし、多くの企業が事前にこしらえた災害対策マニュアルなどに沿って営業も継続しています。その点はご安心いただきたいと思います。

ただ、それでも様々な事情から投資資金を引き揚げたいと思う、ということはあり得ます。あるいは企業として香港から撤退したいというケースもそうかもしれません。お客様の意志なので、これを阻む理由はもちろんありません。恐らくそのケースにおいて大切なことは、あまり衝動的になりすぎず、”引き揚げるのにかかるコスト”や“引き揚げた後どうするのか”ということまでじっくり考えることです。時間をかけて考えるべきものもあり、決断は早い方がいいと思い切る前に、一息置いて是非ご相談いただきたいものです。

社会がどうあれ、ライフステージが変わることは避けられません。例えば退職後の明るいセカンドライフをこのような中でもしっかりと設計していくことは私のような人間の役目でもあります。

結局のところは

始めの問いである「投資家として香港金融の未来をどう考えるべきか」に戻るならば、経済の心臓たる金融システムの方は特に何も変わっていないので、避けて通りたいと思うかどうかは最終的には“気持ち”の部分が大きいのだろうと推測できます。

金融市場もそうですが、先行きのことの多くは分かりません。この”気持ち”にどれだけ寄り添えるか、というところが今はファイナンシャルプランナーとしての私の課題だと感じます。不況の中でもしっかりと地に足をつけて検討されるお客様がいることに逆に驚かされることもあります。

ともあれ、新型コロナウィルスという難問をクリアしなければならないのは香港も同じです。お客様の経済状態に合わせて話をするのが私の仕事なので、何か気になることがあればいつでもご連絡いただけたらと思います。