ヘッジファンドが巨額なリターンを叩き出した、というニュースは絶えない。積極的な運用により高いリターンを提供する、富裕層特有の運用手段であると考えられてきたのだ。
しかし、その後積極運用にも関わらずリターンがふるわず解散、あるいは顧客の資金を持って雲隠れ、といったことも問題視された。
かたや、S&P500のインデックスへの投資のような、誰にでもできる投資方法が十分なリターンを提供したことから、高い費用を払って運用を行う、いわゆる「アクティブ運用」の代名詞たるヘッジファンドは死語のようにもなったのは事実である。
ところが最近またヘッジファンドという言葉が聞かれ始めたようにも見受けられる。改めて状況をまとめてみよう。
目次
そもそもヘッジファンドとは
ヘッジファンドという言葉は実は曖昧な用語でもある。投資の世界においてはヘッジ(hedge)とは、防御、回避といったニュアンスで使われる。これだけ聞くと、ヘッジファンドは安全な投資なのかと思われるかもしれないが、一般には複雑な投資をしていてリスクが高いという認識からスタートすることが望ましい。
ヘッジファンドがコントロールするのはリスク量であり、どれだけリスクを取れるかを制御された状態で追求する、といった具合である。つまり、ヘッジファンドによってどのようなリスクをとって運用するかはマネージャーに委ねられていることになる。
ヘッジファンドが注目を集める理由
一つには資産運用業界自体の流れである。
景気にサイクルがあるのと同じく、資産運用業界自体にも流行り廃りは当然あり得る。
昨今はインデックス投資のような、手軽な投資手法がより一般の人に選択されるようになった一方で、それでは資産運用業自体の収益は確保できず、より優秀な人は自ら独自の運用方針でもって、より高い費用を取りながらファンドを運営したいと考えるようになる。業界全体としても海外からの投資資金の呼び込みなどもしていきたいことから、いわゆる新興マネージャー(エマージングマネージャー)の誕生は喜ばしいとされがちでもある。
もう一つは投資環境の変化である。
各国の中央銀行による金融緩和という大きな世の中の流れに乗って、株式や債券といったあまねく資産に資金が流入し、一定のリターンを得ることができているにせよ、徐々に投資機会の少なさが意識されることが挙げられる。「もっと違った方法でなければより確実なリターンは難しいのでは」という気運である。
単純な投資ではなく、複雑な投資への切り替えがよい、と考える人も中にはいるようだ。それにヘッジファンドはオルタナティブ投資の中にも含まれ、株式や債券といった伝統的資産とは相関の低い資産として分散に利用できる、という考え方もある。
ヘッジファンドに投資する方法
ヘッジファンドはどのようなルートで投資することになるのであろうか。典型的なものを3つ挙げてみようと思う。
① 証券会社を通じて、投資信託の一つの選択肢として投資する
このルートの場合、ひょっとしたら投資家は投資したものがヘッジファンドであるとは思っていないかもしれない。少し変わった運用方針のファンド(投資信託)と映るからだ。
ヘッジファンドは一般には限られた投資家にしか提供されていないが、中にはより広い投資家へのアクセスを目論むヘッジファンドマネージャーもおり、証券口座でヘッジファンドが買えない、とは限らない。しかし、いわゆるヘッジファンドの販売窓口として証券会社はそれほど一般的ではないといえよう。
② プライベートバンクの投資一任の一部として投資する
ヘッジファンドは一般には機関投資家と呼ばれる大口の投資家に提供されていることから、個人で大口ともなればプライベートバンク利用者、ということになろう。プライベートバンクでは投資一任形態で面倒をみてくれるので、投資の分散としてヘッジファンドをポートフォリオに含む、というのが可能になる。
③ ファンドマネージャーと知り合いになり、投資助言会社から中立的なアドバイスを受けながら投資する
知り合いの金融関係の人が、ヘッジファンドのマネージャーであり、それがきっかけでヘッジファンドに興味を持つ、ということはあり得る。
確かに直接ファンドマネージャーと話して投資をすることはできるかもしれないが、ヘッジファンドへの投資にあたっては大量の書類に目を通すことが必要になるため、一般には投資助言を受けることが望ましい。投資における中立的なアドバイスがなければ、冷静な判断が難しいからだ。
ファンド(投資信託)とヘッジファンドの違い
ヘッジファンドもファンドである、というのは正しい。複数の投資家から資金をかき集めてよりダイナミックな投資を行い、各投資家にそのリターンを還元する。
一番の違いは費用体系の違いであると考えられる。
通常のファンド(投資信託)の場合、信託費用を年率○%というのが一般的であるのに対して、ヘッジファンドの場合は成功報酬(インセンティブフィー)が数十%追加されていることが多い。
典型的なのはマネジメントフィー2%、インセンティブフィー20%の「2:20」である。よりアクティブに運用をすることから、人件費がかかり、かつリターンの追求に対するマネージャーの意欲を高める、という役割も持たせる必要があるからである。
もう一つは運用方針の柔軟さである。
ファンド(投資信託)の場合は、予め決めた運用方針をひたすらにやり抜くのに対して、ヘッジファンドは柔軟さがウリであり、投資環境の変化や、獲得した投資機会によって投資の中身は変わり得る。
もちろん、何も基準がないわけではないが、リターンを稼ぐために最もよい投資機会を選別する結果、ある意味でバランスを欠くことも想定される。
ヘッジファンドマネージャーがどのような運用方針をとるのか、またとっているのかは定期的にモニタリングすることが望ましいといえる。
ヘッジファンドの最低投資額?!いくらから出資できるのか
実際に投資をすることを真面目に考えるとして、ヘッジファンドの最低投資額はいくらくらいからだろうか。もちろん、ヘッジファンドによってまちまちではあるが、概ね5,000万円か1億円くらいから、と考えておくとよい。
ヘッジファンドマネージャーにとっては運用資金の全体額が関心事であるため、残念ながら投資家の顔色をうかがうことはしないし、あまりに投資家が小分けになると、書類や資金のやりとりだけで忙殺されてしまい、本来の投資活動に専念しきれないからだ。
物言わぬ大口投資家ほど、ヘッジファンドマネージャーにとっては有難い、というわけだ。そのためキリよく5,000万円から1億円、といった会話になる。2,000万円ならどうか?4,500万円ならどうか?といった会話自体が全くもって本質的ではないからである。
投資活動に多くの時間を割きたくない、という人にとって、ヘッジファンドはお金を出すだけなので楽と言えば楽だ。一方で、運用方針の柔軟さゆえに、成功しても失敗しても次に活かす、ということはあまり想定されない。
過去のリターンも参考にはなるが、あくまで参考にすぎないわけだ。だから大手の機関投資家はデューデリジェンスという時間のかかるプロセスを経て投資の意思決定を行う。
個人投資家ではここに時間と労力をかけられ、かつそこまでのチェック能力がある人は少ないため、投資しようと思っているヘッジファンドがどの程度のリスクを内包しているのか、それを勘案した状態で、できれば専門家のアドバイスを受けながら投資をしたいところである。