富裕層の間でワインやウィスキーへの投資熱が加速している。さらには一般の投資家まで参入する余地が生まれている。

ワインやウィスキーは突き詰めれば高級嗜好品である、それゆえに投資となるとさらに上流の富裕層の嗜みとも捉えられてきた。しかし、近年は必ずしもそうはいえない、という話をしてみたい。

ワインやウィスキーというアセットクラス

金の延べ棒を持っている人でも、ワインやウィスキーに投資をしようと考えたことのある人は恐らくそれほど多くない。一般には保管にコストや専門知識が必要なものは投資のハードルが高い

例えば、石油などは金融市場で取引する人はいても、実物を受け取る人はまずいないだろう。これらの資産は株式や債券といった伝統的資産とは異なり、オルタナティブ資産(代替資産)に分類されることになる。ざっくりとした言い方だ。

オルタナティブ資産の特徴は、伝統的資産との相関が低く、独自のリスクリターンのプロファイルを持つこととされる。したがって、コアなポートフォリオを伝統的資産で形成しつつ、投資の分散としてオルタナティブ資産を持つことができれば、長期的に頑強なポートフォリオを構成することができると言えよう。

ただし、ワインやウィスキーはオルタナティブ資産の中でも、年月を重ねるにつれて(消費されて)在庫が減り、それゆえに希少価値が増す、という性質をもっている。同じくオルタナティブ資産に分類される、金や石油、あるいは不動産とはこの点が決定的に異なる。

ワインやウィスキーに投資をするための方法

ワインやウィスキーへの投資は「保管」が肝である。年月を経て在庫が減ったとしても、保管に失敗して味わいが落ちたり、さらには飲めなくなってしまっては元も子もない。ラベルを売買しているわけではなく、やはり最終的には消費というステージが待っているからだ。

ワインやウィスキーにいつ投資できるか、というと、製造から流通の様々なプロセスに投資のチャンスはある。この点は不動産とよく似ていて、出来上がる前のワインやウィスキーでも投資できないわけではないし、既に保有している人から後から買っても構わない。ただ、投資のタイミングが早ければ早いほど、投資の機会を与えられるために独自のネットワークが必要になるのは確かだろう。

また、ワインであればケースごと買うのか、ボトルを買うのか、はたまた樽を買うのかという問題もあろう。

ワインやウィスキーへの投資リスク

前述したとおり、「保管」に失敗すれば元も子もない。それ以外にどのようなリスクがあるだろうか。

一つの固有リスクとして挙げるならば、「偽物の可能性」がこのアセットクラスには付き纏う。中身を味見して確かめるというわけにはいかないので、証明書の存在は重要であるし、流通の過程ですり替えられないということは担保されなければならない。この点に関して、NFT(Non-Fungible Token)という新しいブロックチェーンテクノロジーがリスクの低減に寄与する可能性が指摘されている。もちろん、正統な証明書はこれまでも機能してきたが、デジタルの世界においても偽物の問題が起こらないことをNFTは保証してくれるかもしれないからだ。既にいくつかのワイナリーはNFTの実証実験を試みている。

石油や金などのいわゆるコモディティと異なり、ワインやウィスキーには固有性も同時に認められる。NFTの普及によりワインやウィスキーの取引が盛んになればより一般の投資家が投資対象として見るようになると想像できる。取引単位の小口化も起ころう。

ワインの市場は洗練され、ウィスキーの市場は形成過程へ突入

日本でも過去にワインファンドの破綻などが聞かれたことがあり、この分野特有の難しさはあるにはある。とはいえ、ワインの市場が徐々に成熟し、透明性を帯びてきたこともまた過小評価すべきではない。

ボルドーやブルゴーニュのワインに対する価格や取引コストは日常的に把握可能であるし、インデックスも公表されている。富裕層は確かにこのアセットクラスに投資をし、そして確かなリターンを得ている。ワイン投資によって得られるリターンはもちろん投資対象によるが、ベンチャーキャピタルのようなハイリターンではないことは確かだ。どちらかといえば投資目的は資産保全に近い、といった方がいいかもしれない。

クライアントのリスクプロファイルに沿って、「期待リターンがこのくらいならこの地域の銘柄、投資ホライズンがこのくらいならこのワインの銘柄」とアドバイスができるほどにアセットクラスとしては確立しつつある。

一方、ウィスキーの市場はまだまだ形成過程であり、一部の愛好家によって価格が押し上げられている面がある。香港でも日本のウィスキーは驚くべき価格で取引されている、とされる。それを見るにつけて、ワインの市場の方が成熟し、トラックレコードもあり、そして関わっている専門家の数も多い、というのは確かであろう。ただし、ウィスキー市場も着々と形成されつつあるとはいえそうだ。

実際に投資するかどうかは別として、このような会話に一花咲かせるあたりが富裕層の楽しみだ、という気もしないではない。結局はワインもウィスキーも“飲める”アセットクラスであるのだから。

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